二十一話 よくぞ堕ちなかった

(なんなのよ、こいつ!!!)


模擬戦が始まってから一分間、互いに攻防を繰り返す状況が続いていた。


二人とも身体強化のスキルを使っているが……クランドはやや抑え気味。

勿論、手は抜いている。


メイナが相手にならないほど弱いという訳ではないが、身体能力ではかなり上回っている。

スキル云々の前に、槍を扱う技量だけであれば、クラン殿腕前は一級品。


(ふざけるな!!!)


最初こそ、槍技のスキル技を使わずに倒そうと決めていたメイナ。

しかし、クランドの余裕な表情を崩せないことに苛立ち、技を解禁。


連続突き……使い手の身体能力関係無しに、一瞬で連続で五回の突きを繰り出す技。


「ッ!? くっ!!」


その連続突きを読んでいたクランドは、自身の身体能力だけで、連続突きを再現。


攻撃が放たれる個所まで読み、メイナの連続突きを相殺。


「スキルを習得出来なんじゃなかったのか?」


「俺もそう聞いてたんだけどな」


まさかの光景に、ランディ―ス家の騎士たちは驚きを隠せない。

それは当主であるジルも同じだった。


「は、ははは……いやぁ~、まいったね」


準備運動を行う様子から、相当身体能力が高いのは解っていた。


ただ……身体能力と技術だけで、スキル技を再現し、相殺するのはさすがに予想外な展開。


「さすがクランド様だな」


「ちょっとだけ心配だったが、無駄な心配だったな」


ライガー家の騎士たちにとっては周知の事実なため、特にその結果には驚かない。


「やっ!!!!」


想定外のことが目の前で起こったが、だからといって攻撃に手を緩めない。

通常の攻撃を行いながらも、上手いこと隙間にスキル技を入れて有効打をぶち込もうとする。


だが、クランドの観察眼はその全てを読む。

そして身体能力と技術だけでスキル技を再現し、メイナの技を相殺。


「~~~~~~っ!!??」


全く予想出来ていなかった戦況を実体験し……思わず、眼から涙が零れそうになった。


悔しい気持ちが大きい。

多くの悔しさがある。


しかし、勝負を放棄するのは自分のプライドが許さない。


「すぅーー、はぁーーー……潰してあげるわ」


強気な言葉を口にすると、木槍に風を纏う。


(同じく槍の名家ってのを考えれば、メイナ嬢も属性魔力を纏えて当然か)


多少驚きはすれど、クランドも同じく属性魔力を木槍に纏う。


純粋な魔法の発動は得意ではない。

あまり才能が無いと言って良いだろう。


しかし、纏うという魔力操作であれば話は別。


「はっ!!!!」


クランドが自分と同じく属性魔力を木槍に纏ったことに驚くことはなく、自信もって突貫。


そしてクロスレンジより一歩前で止まり、木槍に纏っていた風の魔力を膨張させ、その場で渾身の突きを放った。


(そういう攻撃か)


接近戦の攻撃を放つと見せかけ、近距離から砲撃を放つ。

その行動を一瞬で看破し、クランドは巨大化した風の刺突を両断。


そして、直ぐに上へ跳んだ。


「終わりです」


「なん、で。分かったの」


先程までクランドがいた位置には再度風の魔力が纏われた槍が通過していた。


「……何となくです」


どう考えても殺す気がある一撃が放たれたこともあり、わざと答えをぼかすクランド。


「そこまでです。勝者は、クランド様!!」


刃先がメイナの首に突き付けられており、どこからどう見てもクランドの勝ちは明白だった。


「流石クランドお兄様!! 奥の手を隠しての余裕の大勝利!!!!」


「っ!!!!」


この時、二女のアルネには全く悪気など無かった。

ただ……ただ、兄が模擬戦に大勝利したことが嬉しかった。


それを喜んだだけなのだが、敵すでに遅し。


アルネの言葉が耳に入ったメイナは涙を流し始め、隣に立っていたアスクはあちゃ~~、という表情をしながら、両手で顔を覆っていた。


「はっはっは! まっ、仕方ないよね」


目の前で急に涙を流し始めたメイナにクランドがおろおろしていると、父親であるジルが豪快に笑った。


「うん、噂以上の実力だ。本当に大したものだよ」


結果的に娘が涙を流すことになったが、ジルは一ミリもそのことについて怒っていない。

寧ろ、娘の他者に対する余計な偏見が消えた、嬉しさすらあった。


「本当に槍技のスキルを習得していないんだよね」


「はい。残念ながら習得出来ませんでした。おそらく、これから先何年……何十年鍛錬を積み重ねても、習得は不可能かと」


人には限界がある。

どれだけ努力を積み重ねても、習得出来ないスキルというのは存在する。


それがクランドにとって、残念ながら槍技だった。


(なんとも……本当に強い子だ)


よく絶望しなかったと、よく引き込まなかったと……ジルはクランドに対して感動を覚えた。


「そうか。だか、君の腕前は……技術は一流と変わらないと僕は思うよ」


「ありがとうございます」


真っすぐ目を見れば、ジルがお世辞ではなく本気で言ってるのだと解る。


「さて、報酬はしっかり払わないとね。体力はどうだい、今すぐ戦えるかな?」


「えぇ、問題ありません」


丁度良い準備運動が終わったので大丈夫です……と言いそうになったが、ギリギリで火に油を注がずに済んだ。

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