二十二話 それだけは年季がある

「あの人、なんかカッコつけてたけど、あんまり強くなかったね」


「っ!!!!」


メイナがトボトボと観客列に向かっていると、アルネがまたもや悪意のない槍をぶん投げた。


周囲の騎士たちには、メイナに無数の矢が突き刺さる幻影が見えた。


「……アルネ、ちょっと黙っておこう」


「? 分かりました」


アスクの言うことを素直に聞き、口を閉じた。


普段なら、自分たちが仕える当主の悪口など、悪気がなくとも言われたら怒る騎士たち。

しかし……今回に限っては、アルネが口にした言葉は、中々否定し辛かった。


(アルネの奴、悪気がないからって、何でも許される訳じゃないんだぞ)


アスクと同様に、アルネの毒を含み過ぎている言動に頭を悩ませながらも、自分の前にやってきた女性騎士に目を向ける。


(……綺麗だな)


ジルやメイナと色は若干違うが、美しさのレベルは同じ朱色の髪を持つ女性騎士、フェリス・ホルアーク。

髪は動きやすいように後ろで結んでおり、顔は凛とした美しさを持つ、健全な大人のお姉さん。


軽い鎧を身に付けていても解る、スタイルの良さ。

元が高校生ということもあり、フェリスくらいの女性に惹かれるクランド。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


クランドからの視線に気付いたフェリスだが、思い違いだろうと思い、丁寧な挨拶を行い……直ぐに構えを取った。


(当たり前だけど、超強いな)


相手が所有しているスキルや、本人のレベルを視る鑑定を持っていなくとも、雰囲気や構えだけで格上だと解る。


オークやワイルドボアと対峙している時よりも圧迫感があると感じ、自然と……笑みが零れる。


そんなクランドに対して、フェリスは冷静な思考を持ち、どんな攻撃が来ても対処出来るように構えていた。

メイナとの一戦を見れば、ただの令息でないことは一目瞭然。


嘗めてかかるのは良くないと判断。


「それでは、始め!!!」


騎士が開始の合図を行った瞬間、クランドは手と肘、膝、足に薄い岩を纏った。


「カバディ」


「っ!!??」


前傾姿勢から一気に加速し、槍という武器に物怖じすることなく距離を詰める。


即座に迎撃しようとするフェリスだが、牽制攻撃を全て回避。


(この子は、修羅なのですか!?)


メイナとの戦いでは一ミリも現れなかった、強烈な戦意と殺気を露わにしながら攻めるクランド。


当然、フェリスを殺すつもりなど一寸もない。

ただ……フェリスクラスの相手に挑むのであれば、自分の全てをぶつけるぐらいの熱意を持たなければ、攻撃を掠らせることすら出来ない……という思いを持っていた。


攻撃手レイダーをメインとして動いていたクランド……大河は、全身を武器だと認識して試合に臨んでいた。

体の何処かにさえ触れ、自陣に指の第一関節さえ戻ることが出来れば、いのちを取った……という認識で動いていた。


なので、戦意や殺気を放つことに関しては、文字通り年季が違う。

その点に限れば、この世界に転生してからの年数も含めれば、フェリスを上回っていてもおかしくない。


(認識を改める、必要がありますね!!)


目の前の相手は、絶対に負けられないライバル的な相手ではないが、大人で騎士である自分が、まだまだ才能豊かで色々異常であっても……子供に負けるわけにはいかない。


かといって、うっかり本気を出してしまえば、誤って殺ってしまう可能性がある。


そんな制限がある状況でも……今までの経験を活かし、しっかりと人生の……戦闘者の先輩としてクランドの攻撃に対応しつつ、反撃を行う。


(くそ、全然当たらないな!!)


始める前から解っていた結果だが、自分の攻撃が全くと言っていいほど当たらない。

内容的には遊ばれているに近い……が、そんな状況でも笑顔が消えることはない。


寧ろ、バーサーカー的な笑みが止まらない。


「はっ!!!」


パワーではどう足掻いても敵わないと解っているので、不規則的な動きからの打撃。

時には身に纏っている箇所の岩を飛ばし、動きを崩してから重い打撃を加える……などなど、色々考えて動いているが、どれも躱されてしまう。


当ったかと思えば、槍を間に挟まれ、防御。


(この子の身体能力は、どうなってるのでしょうか!?)


戦況的にはフェリスの優勢であることに変わりはないが、年齢に似つかわしくない身体能力には何度も驚かされる。


クランドは要所要所で腕力強化などの強化スキルも使用しており、一瞬だけではあれど、身体能力を三重に強化していた。


「はぁ、はぁ、はぁ……参り、ました」


結果、模擬戦が始まってから六分ほどが過ぎた頃、クランドが降参を宣言。


時折死角から攻撃をぶち込もうとするが、フェリスはクランドの足運びに驚きながらも、鍛え上げてきた肉体、反応速度や経験によって対応。


全ての攻撃を対応され、尚且つ全力で動き続けたため、スタミナをかなり消費。

どう考えてもベストパフォーマンスを出せるラインを下回ったと感じ、もうこれ以上の戦闘は無意味だと判断。


「ありがとう、ございました」


「いえ、こちらこそありがとうございます。良い経験になりました」


試合後の握手を交わす二人に……メイナだけが嫉妬していた。

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