第16話 プライムスタイル

流麗な舞のように槍が翻る。つま先の力だけで後方に飛んでいるのは見た目は良いがよく考えればおかしなことだ。朱莉も細かいところだけを強化することを覚えたらしい。細かいところが出来るようになるとMPとかのリソース消費を抑えられるので出来るだけ教えられるところは教えている。


ただ、HP消費の防護質量アタックや足場形成などはどうにもうまくいかなかった。


槍は最初の物から変わり長細い両刃の槍。柄の長い直剣みたいな槍だ。特殊効果のある刻印などは刻まれていない。俺の魔剣もだが、魔法攻撃は著しく耐久度を減らしてしまうらしく、どちらも壊れてしまった。


今の彼女は純粋な物理攻撃力を源泉とするダメージディーラー。相手の視線を振り切るような動きではなく、最小限の回避で正面から対処するスタイルのテクニカル戦士。HPの防護を削りつつ相手を倒すため被弾はほぼないと言っていい。


目に見えるような傷を負うことはなく、順調に敵を倒している。最近では一人でも五体のゴブリン集団を圧倒するまでになった。俺の補助も段々と減っており、頼もしい相棒になってきたと言える。


HPもMPもポーションを温存しつつ、多少減っても睡眠で回復できるので物資の消費もそれほど多くない。ガチャで少しずつ増えてるくらいだ。相変わらず帰還結晶はこの辺りにはないが、二個目の拠点結晶が手に入った。


今の住まいには満足しているので遠征用に取っておいている。


青い結晶の合った学校の探索では宝箱が多く、刻印入りの魔法武器が三つほど手に入った。いずれも炎を纏う槍、重さが増す斧、光を閃光弾のように放出する盾などの近距離というか遠距離攻撃ができるようなものではなかったがそれらはスリップダメージ状態異常などを相手に付与する効果があるので重宝している。


たまにいる少し強いゴブリンとの戦闘ではかなり有用なのだ。


何本もの魔法武器を壊して分かったことは、魔法武器とは普通の武器以上の消耗品であるということ。ある程度使いつぶすことが前提の攻撃だ。普段使い、ゴブリン程度なら普通の武器でいい。


「あぁ……なんかもったいない」


「替えの武器はあるんだけどね」


儚く、光となって消え去る剣に黙とうをささげて次の剣をインベントリから引き抜く。今度はサーベルか。細くてすぐ折れそう。


「二刀流とかできないかなぁ」


「誠一郎君は盾を使うんじゃ?」


そこは入れ替えで。しかしHP温存には大事なんだよなぁ盾。けど瞬歩みたいな加速力を手に入れた今、素早く殺すために攻撃力を上げることは悪いことではない。今も突進の時くらいしか役立ったないし……。


「二天一流。武蔵スタイルで」


どっちも洋刀だけど。右手にカトラス、左手サーベル。補助は短いのがいいと聞いたことがあるが果たして。


「次の獲物譲ってほしいかも?」


「周り見とくね」


任せてと相棒様は頼まれてくれた。商店街のあった屋根付きの通り、シャッターの目立つ寂しい通路。ここのゴブリンは大体を倒したので通りから外れてみる。


ゴブリンワーカーの一団だ。七体。まぁでも問題ない。後方は朱莉に任せて切り込んだ。平坦な地面に角度のついた足場を防護質量で形成、強化の重ね掛けで弾丸のように身がはじき出された。正直景色が引き延ばされてどうすれば攻撃が当たるのかよくわかっていない。意識や認識できる速さが移動速度に追いついていないのだ。ならばもはや考えない。


進んでいる方向にもっている剣の刃を向けて通り過ぎる。それだけで面白いように相手が両断された。


いつもは盾での突進だったり片手で剣を振るう時に使っていたが、移動技。両腕に乗った速度を逃がさないように相手の肉片を駆け抜けた。


「グゲァ⁉」


「アゴッ‼」


二体外した。着地はスムーズに。防護質量で形成したレールで減速、滑り台の様に身をひねって地面に着地した。残りの獲物とも向き合う。


駆け抜けた際の突風、惨殺された味方の死体に目に見えてワーカーたちがうろたえる。跳ねて前蹴りを放つ。体重の乗った蹴りにワーカーは地面を転がり、凹んだみぞおちを抑えて何とか呼吸をしようとしている。


もう片方、呆然と吹っ飛んでいったゴブリンワーカーを目で追っていた間抜けな面を横薙ぎに一閃。頭を寸断して光に変えた。


最後のゴブリンはそのまま窒息して死んだようだ。……お!赤魔石!


「ラッキー」


この戦い方も悪くない。慣れれば両方の腕で殺しに行ける。体の向き関係なしにアクションを起こせるのはデカい。


「誠一郎君!すごかった!」


全体を見れる位置にいた朱莉にも何が何だか分からない挙動をしていたという。速さ。速さこそが肝心なのかもしれない。逃げにも攻めにも使える万能ステータスだ。


お互いの感想や傍目からの観察結果を伝えあって、次の課題を考える。かなりのエリアを探索したのだから違うエリアに遠征に出るのもいいかもしれない。そう考えた時、ふと朱莉の視線が後ろに向いた。


「誠一郎君。アレ……」


背の低い建物の屋根。海原のように連なった影の向こうで、線香のように立ち昇るものが。


「騎士野郎、か」


紫立ちたる、煙────魔力の波動がいくつも、真っ暗な空に昇っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る