第12話 ワンダリングモンスター
ゴブリンナイトデビル。
下級悪魔に取りつかれたことで元々の肉体に変異を起こしたゴブリンナイトの変異種。悪魔特有の紫色のオーラ状に放たれる魔力は触れただけで下位のモンスターを隷属状態にしてしまう。
ゴブリンの大群の存在は記憶に新しい。眼光は赤く染まり、死者のように列をなして街を彷徨うあの紫の群れがまだあのビル街を彷徨っているのだろう。
「あんなに手下を従えていたら本体は弱い……なんてことはないのかな」
「可能性はあるけど。遠目に見た感じそんな軟じゃなかったね。少なくとも昨日倒したゴブリンソルジャーの何倍も強いよ」
そっか。その言葉を最後に場が沈黙する。それだけあいつらの存在には危機を覚えたのだ。
「こっちまで追ってこない、とは言い切れないですよね?」
「うん。名前の通り、
しかもあれだけの数を従えて、恐らくは小隊の一つ一つの動きを把握していた。広範囲に斥候部隊を展開して俺らみたいなプレイヤーを狩りまわってる可能性もある。
「バウンティ報酬、15000ゴールドと高位結晶」
どちらも知らない単位に単語だ。あれだけの敵を倒しての報酬なのだから価値はありそうだが、現状ではそこまでの危険を冒す必要性を見いだせない。
「それと、昨日調べてて見つけたんですけど……」
篠川さんにウィンドウを向けられる。コンソールのハウジング管理、有償設置オブジェクトの欄だ。
「効力を失った帰還結晶と高位結晶を使用することで、ログアウト機能付きのセーブスフィアを設置……これって」
「帰れるってことだと思う」
こちらは二つとも心当たりがあるものだ。効力を失った帰還結晶は多分、俺たちがゴブリンに囲まれた時のあれがそうなっている。高位結晶の方はバウンティの報酬。
「この辺りを探し回っても、帰還結晶が見つからなかったら────」
「騎士野郎を倒してあの結晶を回収しに行くってことか」
最終手段。あくまでもそう考えながら、最後にはそうするしかないのだと思うと、結局はあの騎士と戦う時が来る。自然とそう思った。
「まずは、この辺りをしらみつぶしに」
「うん」
方向性は決まった。すると今まで黙っていた疑問が口から出ていく。
「ところで」
「何ですか?」
「何で制服なんですか?」
篠川さんの装いはレザーアーマーやローブだったはず。
「いや、そうか。ここはセーフゾーンだった」
「ふふ、そうですよ。ずっとその格好で堅苦しくないですか?」
制服も堅苦しいと言えば堅苦しいが、タイトなレザーアーマーよりはマシだろう。すぐにインベントリから装備欄を操作する。
「ふぅ。寝る前に気付けばよかったな」
「声をかける前に寝ちゃうんですもん。おかしいですよ」
こらえるように笑う篠川さんに釣られるように俺も笑って、自然と学校や普段の生活に話が移っていく。
「じゃあ隣のクラスなんだ」
「同い年だったのにはびっくりしました」
同じ学校の制服で同じ学年だったことに驚く。こんだけ可愛かったら目立つはずなのに知らなかった……いやまだ入学から一か月間か。忙しい時間を過ごしていて他のクラスのことまで頭が回らなかったんだな。うん。
少しずつ敬語も取れていったが、篠川さんは素が丁寧な喋り方だったようで完全に砕けてしまった俺の口調に合わせようとすると変なイントネーションになったりしていた。
不思議と、死にかけた経験からなのか彼女が死線を共に潜り抜けた仲間だったからか、普段の寂しい学校生活も飾ることなく話すことが出来た。家族には見栄を張ったりしていたので初めての感覚だ。
「なら、私が一番の友達ですね」
「え、ホント!」
まさかの友達宣言に立ち上がってしまった。目線が上がって、上目遣いになった篠川さんは可愛い。こんな綺麗な人と友達だなんて。すごい、すごい────
「うれしい」
「そう言ってくれると私も嬉しいです」
普通に過ごしていたら出来ることのなかった友達に、今この時だけは、ナイトメアタウンに連れて来た誰かに感謝した。
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