第11話 夢
「────……郎く────」
暖かい。まどろみの中にいる。まだ眠い。
「誠い────」
しかし、呼ばれている。掻き抱いた毛布を少しずらして、薄く目が開く。眉間に力がこもっているのが分かる。瞼が固い。
「あ、起きましたか?」
「うぇッ⁉」
変な声が出た。驚きで傾けていた体からソファをなだれ落ちる。床に崩れた俺を慌てて女の子が支えてくれた。
「大丈夫ですか⁉」
「う、うん。大丈夫」
心臓がバクバクしている。まん丸の瞳、ちっちゃな顔、桜色の唇と紅顔の美少女が起こしてくれるなんて────……。
(あ、そうだ。俺、変な街に)
毛布の下の自分の装いを見て思い出してきた。あまりの出来事に夢だと思ったが、目の前にいる可愛い女の子や自分の着ている服、知らない家と記憶はこちらが現実だと強く主張していた。
「毛布、ありがとうございます」
「寒そうだったから。気にしないで」
にっこり微笑む美少女という破壊力の高い絵面に思わず目が逸れる。直視できない陽のオーラに目をが軽く焼かれた気分だ。
「どのくらい寝てましたかね」
「10時間くらい……だと思う」
疲れもあるんだろうがかなり寝てしまったな。一刻も早く帰りたいだろうに気を使わせてしまっただろうか。
「取り敢えず、ご飯食べよう?」
「あ、はい」
手を引かれるがままに席についた。テーブルにはおかゆのようなものだったりちょっとしたサラダや目玉焼きが並べられていた。
「これは……?」
「キッチンが使えたから作ってみたの。材料は誠一郎君に貰ったやつ」
確かに卵とかも入っていたと思うがレーションが主なものだと思っていた。昨日から続いていた無味乾燥な食事を断ち切るような家庭の味につい涙が流れてしまった。
「そういえばこういうの久しぶりだったな……」
「えと、美味しく出来てる?」
「うん。すごく美味しい」
ありがとう。そう言って笑う篠川さんはやっぱりかわいくて、あの時生き残れてよかったと心から思う。あの選択は間違ってなかった。
この世界から出れたなら、彼女は彼女らしい人生を歩んでいく。それが途中で終わってしまうのは、やっぱり嫌なことだと。他人ながらにそう思った。
モンスター図鑑が更新された。あの騎士からの逃走劇以来、存在を忘れていて確認を怠ってしまっていた。見てみると新種のゴブリンたちがデフォルメされて書かれている。
加えて謎アイテムだったガチャ由来の本『ゴブリンの生体1』を使用することで僅かに記述される情報量が増えた。
青い結晶を運んでいたゴブリンワーカー。それを守っていたゴブリンソルジャー。そして騎士、この騎士が少し系譜を外れた存在であったことが判明する。
「ワンダリングモンスター?」
「バウンティ機能の開放と一緒に放たれた変異種でそこらのボスよりも強いんだって」
『ゴブリンナイトデビル』それが奴の名前だった。
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