第10話 拠点
死屍累々。死屍の文字が光粒に置き換わることになるだろうが、モンスター達のいた残滓が宙にほどけていった。
急襲。壊滅。炎の魔剣、身体強化、槍のバックアップもあって比較的短い間に事が済んだ。すでに残っているのはこいつらが運んでいた青い結晶だけになっていた。
「帰えれるやつじゃ……ないんですよね?」
僅かな期待をこらえて尋ねてくる篠川さんも遅れてウィンドウを表示した。
「拠点機能のアンロック、ですか」
「ハウジング、ワープ……早く試してみよう」
結晶はムキムキなゴブリンが四匹ぐらい居てようやく担げる大きなサイズ。インベントリにしまうとカッティングでもされたのか手に持てる八面体に
結晶は既存の家型のオブジェクトに使用するらしい。
住宅街。都会らしいステレオタイプというか、綺麗な邸宅が多いのでどれでもいいと扉に触れた。鍵がかかっている……というよりはビタリとも動かない。
「そういえば扉とかから入ったことなかったな」
「使ったら入れるんでしょうか」
「やってみます」
インベントリからアイコンをタップ。コンソール画面に飛ばされた。ハウジング化しますか……はいを選択。
「おぉ」
「すごい」
結晶が消失。光が放たれて、一軒家の周りに散らばっていった。そして、緑色の結晶で見たセーフゾーンの結界が展開された。
「効果時間永続……すごいですね」
「所有者が俺と篠川さんになってる。篠川さんの方でも操作できます?」
ガチャリ。と扉の鍵の音がした。どうやらコンソールの操作で開けてみたらしい。
試しに入ってみることにした。ガチャリと開いた扉の奥は埃一つない新品のフローリング。モデルハウスそのままって感じだが色味のある暖かな照明というのが無性に優しくて涙が出そうになった。
今までの街が無色だったわけじゃないのに、色が戻ったみたいな。変な感覚だった。
小綺麗なソファに腰を下ろすとそのまま沈み込んでいきそうで、眠ってしまいそうだ。
慌てて身を起こす。篠川さんはベッドの方が気になっていたようだがそれどころじゃないという風に首を振っていた。そうだ。まずは帰れるかの確認だ。
広いリビングの中央。浮遊する青い結晶に触れてみると、ウィンドウのコンソールに別の画面が表示される。
クラン作成────使えない。
パーティー状態確認────俺と篠川さんが自動的にパーティーになってこの家の共同所有者になっている。
システム管理────電気水道などのライフラインを魔石というアイテムの力で担っているようだ。今のところゴブリンを倒してもドロップアイテムが一つも出たことが無いのだが、どうなんだろうか。今は青い結晶に溜まっていたエネルギーでそれらが使えるらしい。
ワープポータル作成────別の拠点を作成したときに拠点間をつなぐ転移ポータルを設置する機能。高ランクの魔石を捧げると作れるらしいが、他にもこういった設置系の項目があるのを見る限り、そういう敵が現れるはずのようだが……あの騎士がそうなのだろうか。
一通り目を通したが説明文に帰還の文字が出てくることはなかった。やはりそれは緑結晶特有の機能なのだろう。
予想はしていたのか篠川さんもショックは少なそう。一応結界の効果は分かっているし、安全な場所が確保できたと思えば悪いことではない。
そう切り替えたら一気に眠気が襲ってきた。
「俺、寝る」
「え、っとあのベッドに」
「大丈夫」
くるりとソファの上で丸まって横になる。ふかふかのベッドの肘置きは枕としても優秀だった。意識がすぐに沈んで────……あ。
「そこに、……」
「?」
指差しながらインベントリを展開。食料品を机の上に出現させた。
「おや、すみ────」
「はい、おやすみなさい」
完全に意識が暗闇に染まった。
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