第9話 脱出
「はあっ!はぁっ……ぉぇ」
ヤバい。ゲロでも何も出ないような胃液ゲロ。魂まで吐き出してしまいそうな強烈な嘔吐感に俺は路地裏で壁に手をついていた。頭に何もないような白熱した無意識だけが脳内を逼迫していた。
無言で背中をさすってくれる女の子に無理やり笑みを浮かべてみる。心配そうな顔をしているが危機を脱した明るい笑みが滲んでいた。
「案、外……やれる、もんだな……!」
「はい……!」
二人してグロッキー状態のはずだが苦しさよりも喜びが勝っていた。
何とか息を整えてみれば景色が若干先ほどと違うのが分かる。ド深夜なのは相変わらずだがビル街から住宅街へ。比較的生活感の溢れる、都会と言えど身近なものになっていた。
景色が変われば敵も変わるのかと思えばゴブリンだ。そこは変わらないらしかった。
「取り敢えず、このまま移動を続ける」
「クエストの達成ですよね?」
「そう、道中で俺が弱らせてモンスターにとどめを刺してもらう」
出来そうか尋ねてみると既に覚悟は決まっている様子。それならと目の前に通りかかったレッサーを蹴飛ばして、転ばして、踏みつけた。
それを見て女の子が取り出したのは槍だ。扱えるのか、と意外に思ったが突きの動作さえできれば問題ない。首元に一突き。躊躇いもなかった。
「その調子。大群の居た方からできるだけ離れるように移動してくよ」
頷く女の子を連れて、住宅街エリアの探索がスタートした。
時折、俺が高いところに上るなどして周辺情報を確保、はぐれ個体を狙って狩りをしつつ宝箱などからアイテムを回収する。
敵が近くにいないときなどは女の子の慣れもかねて一人で戦わせている。槍を何度も突いて息を切らしていたが低出力の身体強化や力の抜き方を教えて効率化を図る。
ちなみに彼女の名前は篠川 朱莉というらしい。ドタバタしてたとはいえお互いに名乗るのが変なタイミングになってしまったと笑ってしまった。
程なくして、大した苦も無く10体のゴブリンを屠る。その後は宝箱を漁って、時折篠川さんを担いで屋上に飛んで休憩。緑結晶を探して歩き回った。
「結構武器出るんですね」
「篠川さんの運がいいんじゃないかな……」
ポンポンと替えの武器が出てくる光景に乾いた笑いが出てくる。いるのだ。こんな感じで持っている人間が。
槍のストックが二本、剣も三本と使いつぶしても問題ないくらいに武器も集まってきた。他の武器も出ている。試すのもありかもしれない。
「宝石よりも銀貨が出てくるようになった気がする」
「そうなんですか?」
装飾品も出なくなった。銀貨は結構な数出ているが
「こういうとこはゲームなら面白いんだけどな────……ごめんなさい。不謹慎だった」
「あ、いや。私もデスゲーム以外なら良いなぁって」
ポカンとした篠川さんに反射で謝ってしまったが彼女は案外ゲームにも理解があるらしい。見た目よし、ゲームに理解がある。これだけで知り合いの男どもはぞっこんなんじゃなかろうか。
しかし、そう。デスゲームでさえなければ最高なのだ。この世界は。
それだけに口惜しい。苦いものを覚える。
そんな雑談がてら、下の方───広めの道路に変化があった。何やら物々しい雰囲気。ちらりと覗いてみれば筋骨隆々なゴブリンたちが何かを運んでいる。デカい。結晶だ。しかし緑色ではない。青色の結晶をゴブリンたちが護送していた。
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