第3話 拡張機能

「はぁ、はぁ」


上がった息を整える。裏路地を駆け抜けて暫し、普段の運動にはない必死さが想像以上の体力を奪っていった。


ゴブリンは基本的には道路や通りの方にいるがたまにこうして裏路地に入ってくる。叫ばれる前ならば殺して、叫ばれたら逃げる。その繰り返しで何となくこいつらの行動パターンを把握していた。


子供くらいの体格しかないこいつらは本当に弱い。なので敵を見つければ仲間を呼ぶか逃げ出す。連れてくる仲間の数は遠目で見た感じ十体以上。とてもじゃないがいくらレッサーゴブリンが弱くても相手にしたくない数だ。


加えて結構な距離を逃げ回っていると見つけたものもある。宝箱だ。


「装飾ナシ……中身はやっぱゴミか」


一先ず回収しておく。ダガーのようなそれはカトラスに比べると矮小な得物だ。しかし投げナイフとかに使えるかもしれない。要練習。遠距離攻撃の手段は一つでも持っておくべき。


インベントリにも発見があった。意識したものを出し入れできるようになったのだ。


拡張機能とやらのダウンロードが終わったタイミングだったので、機能の一部なのだろう。コレのおかげで武器を手にいきなり召喚できるようになり、移動も楽になった。仕舞うための操作もめんどくさかったしな。


装備欄の操作にも適用されたのは幸いだった。


意外と便利にしてくれたのだと感謝しておく。できるだけ戦闘をさせようという意思が透けて見えるのが残念だったが。


「ゴブリン」


一匹入ってきた。裏路地に街灯は少なく、陰に潜めばまずバレない。休憩にでも来たのか壁にもたれかかって座り込んだ。


「ゲギャ」


近づけば足音で気付いたのか立ち上がろうとしたゴブリンの喉元を一突き。すぐに光となって消えていく。もはや作業的だ。二桁近い命を奪っても躊躇いのような感情は芽生えない。そんな自分にちょっとだけショックを受ける。


(そういえばドロップアイテムとかないんだよな)


こいつらが何も持っていないだけか、仕様か。同様に、十体近く倒してもレベルアップとかが無い、アビリティページにある項目はダウンロード後に追加されたHPとMPだけで、それらも数値が増えることが無かった。


そう、MP。それらことを話しておこうと思う。


ダウンロードした拡張機能による変化は劇的だった。まず視界。意識すればレーダーのような光が建物を伝い広がっていく。目にして十メートルほどだが暗いこの世界で地形を把握できるのはありがたい。光が通過した一瞬だけワイヤーフレームで輪郭を鮮明にされたオブジェクトは開発途中のゲームみたいな見た目をしている。


レーダーが放たれる感覚と体の内からあふれ出るエネルギー、MPの存在も顕著に感じられた。


体の外に出すと中々思った通りの形を保てずにほころんでいく様は『オーラ』とかそういうものに似ている。可視化されたエネルギーみたいだ。しかし、目で見えるほどはっきりとは見えない。第六感みたいなものだろうか。


魔法のように火を出せたりするわけじゃないけど、肉体を強化するようなことはコツをつかみ始めていたりする。


ゴブリンから逃げる際の走力はこれを使っていて、普段走るよりも地を蹴る感覚が軽く、ちょっとしたパルクールみたいなことも出来て興奮した。映画のスーパーヒーローが力に目覚めた時の嬉しさを今、俺も感じている。


身体強化魔法。というべき力が手に入ったのだ。


武器がある。身体も想像以上に動く。そうなるとぶつけてみたい気持ちが湧いてくる。そして、丁度いい相手がいた。


「戦ってみるか、ゴブリンたちよ」

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