第2話 装備

「とりあえず、なんだこれ」


知らない街。ゴブリンを殺した感覚。その戸惑いを何とか押さえつけて目の前に浮遊するそれを見る。


『ナイトメアタウンへようこそ!』


スマホゲームみたいな歓迎文に触れてみると瞬く間に文字が散らばった。雪のように解けて消えるとメニュー画面が表示された。


「シーズン1、ゴブリンキングダムねぇ」


RPGさながらのステータスが表記された『アビリティページ』

恐らく何らかの操作を行う『コンソール』

そして初心者応援セットと題したアイテムの収まった『インベントリ』


それぞれを見ていけばいくほどにこれはゲームであると主張するような作りであった。


モンスター図鑑には先ほど倒したゴブリンがデフォルメされて書かれている。


レッサーゴブリン。

貧民区域出身の捨て駒。ただでさえ弱いのに持ち前の素早さすらも失った雑魚中の雑魚。


「酷い言われようだな」


俺もそれを倒してしまったわけだが、かわいそうになってくる。


『拡張機能のダウンロードを開始しますか?────Y/N』


不意に出てきたポップもゲームっぽい。ストーリーをより楽しんでもらうための映像コンテンツとかってこんな感じだよね。


だから特にためらいも無くボタンを押してしまった。


「っぐ⁉」


頭痛。押したボタンがきっかけなのが明らかなタイミングで頭に重りが足されたような鈍痛を覚える。しかし、そこまでしんどいものではなく、慣れれば問題がない程度だった。


煩わしい。元凶であるそのダウンロードの進行度バーを睨みつつ停止できないかと色々いじってみる。が、始めてしまったら止められないようだ。


こめかみをほぐしつつ、一体何をダウンロードしているのか探してみれば『戦闘補助マテリアル』『サイキックドライバー』『防護質量』と用語のオンパレード。漢字からしか意味を類推できないが、これバトル要素っぽいやつを入れるということはゴブリンみたいなモンスターとまだまだ戦わされるということか。


初心者応援セットとやらのアイコンを押してみる。ホログラムチックに現れたワイヤーフレームが肉付けられるように形づくられる。地面に落下したそれは箱だ。結構デカい。


中には全身のインナーに皮鎧みたいな防具一式。黒い渦。……黒い渦?


触ると中に何かある。この手触り、金属……うーん。


「剣、なんだっけこの湾曲」


引き抜いてみると幅広の剣。サーベルはもう少し細かった気がする。海賊が持ってそうな────


「────カトラスだ」


映画で見たことがあるくらいだ。結構長くて刃が厚い。頑丈そうな見た目をしている。これを使えということか。


同様に装備も見聞する。インナーは言わずもがな防具の方もあまりカチャカチャしない、体に密着する感じのもの。高校の制服やローファーの何倍も動きやすいだろう。


「寒い」


インベントリに仕舞えないかと操作していたら全裸になってしまった。急いで着替えようとしたが思い付きで装備欄があるのではと探してみる。


(ビンゴ。VRゲームみたい)


アニメとかで装備を切り替える瞬間がこんな感じだった気がする。体にフィットした装備がちょっとカッコよく思えてテンションが上がってしまう。


こんな異常事態なんだからはしゃいでる場合じゃないと自分に言い聞かせていると、俺の居る路地裏の入り口、通りの見える方からゴブリンがこちらを覗いてきた。


「え────」


「ゲギャッ!ゴゥグア!」


俺の姿を見つけるやいなや駆け出すゴブリン。細い入り口からすぐに姿が消えて何やら叫ぶ声だけが遠ざかっていく……仲間を呼んでるのか⁉


もう追いつけない。そう判断して俺はその場を離れるのだった。

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