ナイトメアタウン

刃羽

チャプター1:未探索区域

第1話 入場

高校の教室、一年生の一室だ。時間は太陽の高く上った正午頃、机に広げたお弁当を寄せ合って賑やかな光景が広がっている。


彼らがこの高校に入学して早一か月。まだ少し残る距離も初々しい空気感が広がっている。季節がらも相まって春らしいと言えた。


そんな中で教室後方、未だ冬に取り残されたような男子が一人。やいのやいのと騒がしいクラスメイト達を羨ましそうに一瞥しながらも教室を出ていった。チャイムが鳴って間もない。購買に出たとしか思われないだろう。


彼────誠一郎はそんな自意識に自嘲しながら廊下を歩く。


失敗した。その言葉が宵宮 誠一郎の胸に刻まれている。


入学から一か月間、持てる話題、手札の限りを尽くして友達作りに励んだが結果は芳しくない。どうにも話題が合わず聞き役に徹することが増え、しまいにはつい先日ようやく手に入れた居場所からも離れてしまった。


離れたことへの後悔はない。居ても楽しい瞬間はなかった。しかしながら羨ましい。楽しそうに学校生活慣れていく彼らが。


中学校でも同じ孤独の時間を過ごして高校でも結局は同じ状態が続いている。ぼんやりと、自分はこのまま社交性も無く、惨めな思いをしながら大人になるのだろうか。そう考えるとしんどかった。


腰を下ろす。建物の壁に囲まれたちょっとした空間。人気が無くて少し入り込んだ日差しが気持ちのいい、誠一郎にとってのオアシスのような場所だった。


ちょっとでも陰鬱な気持ちが晴れればいいとここに来たのに視線が下を向いたまま。


無理やりにでも気分を変えたくて頬を張った。ジンと痛むが気持ちが切り替わったような気がする。自ずと空を見上げようと思った。


しかし視線は途中のものに縫い付けられる。


キャンパスだ。油彩画のような絵が描かれている。何だ、近づいてみれば見るほど不思議な絵だった。暗い、深夜のような街に緑色の肌の人型────ゴブリンだろうか。


ファンタジー作品によく出てくるような粗末な恰好、みすぼらしい凶器。醜悪な笑みを浮かべた邪悪な存在。


敵らしい敵。ゲームでも一番に倒すような雑魚。


ほら、簡単に吹き飛んだ。蹴った胴体から浮かび上がる様に地面に落下する。空気がうまく吸えないのか咳みたいな悲鳴をあげて動けないでいる。


とどめを刺そうと頭蓋骨を踏みつけた。何度も、何度も何度も────


バキリ。踵に伝わる振動で、生命が終わる。惨たらしい血が飛び散っていた現場が幻想的なものに変わる。死体が、血しぶきが光に変わって消えていく。


こんなモンスターでも死ぬときは綺麗なんだな。そんな感想が胸中に沸いた途端、意識が急速に現実味を帯びた。


「……⁉、?────」


夢から覚めたような。景色は何ら変わらないのに意識だけが揺り戻される。


強い困惑のままに、あたりを見まわした。暗い、暗い闇。あの絵のような深夜の摩天楼。月の光も届かないような雲の下で街灯だけが闇を切り取る様に輝いている。


────魔都。


ぼんやりとその単語が浮かんだ。

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