第6話【元勇者、商会に招かれる】

「俺の通行料は払わなくて良いのか?」


 門を抜けて街の大通りをゆっくりと馬車を進める御者の男性に俺は聞いてみる。


「この馬車はミリバル商会が通行料を別に収める契約がしてありますのであの場では支払いはございません。乗っている人の通行料も同様で人数だけ数えられているので後で商会がお支払いすることになりますがアルフ様は依頼護衛扱いとなっておりますので気にされなくて大丈夫でございます」


 御者の男性は前を見たまま俺の質問に答えてくれる。


「当然の事ですからお気になさらずに」


 話を聞いていたミリーもそう言ってうなずいた。


「ありがとう」


 俺がミリーにお礼を言ったとき、馬車が大きな建物の前で停車した。


「到着しました」


 御者の男性がそう告げて御者台から降りて馬車のドアを開けてミリーに降りるように促した。


「お帰りなさいませミリーお嬢様」


 馬車が停まったのを見た店の従業員が数人出てきて馬車から降りたミリーにお辞儀をして出迎える。


「ありがとう。お父様はどちらにいらっしゃいますか?」


「旦那様ならお部屋におられますよ。いま、使いを出しましたのですぐにお会い出来ると思います」


「そうですか。では、こちらの方を応接室へお通ししてもらって良いですか?」


「こちらは?」


「このあとでお父様に紹介するつもりですが、王都からの道中で助けて頂いた恩人なのです。ですから失礼のないようにお願いしますね」


 ミリーは側にいた従業員にそう伝えてから俺の方を向いて「では、後ほど」と言って店に入っていった。


「それでは、こちらへお願いします」


 ミリーから指示を受けた従業員の女性がお辞儀をしてから僕を応接室へと案内をする。


「大きなお店ですね」


「ミリバル商会はこの街では有数の商会ですので取り扱い品目も多いために店舗も自然と大きくなったと聞いております」


 俺の問に案内の女性は淡々と答えてくれる。


「こちらのお部屋でお待ちいただくようになります。お飲み物を準備いたしますので椅子に座られてお待ちください」


 女性はそう告げると部屋の奥にある小部屋に向かった。


 部屋の中は簡素ながらも良い素材の使われたテーブルにソファが置かれ、価値はわからないが額縁のついた絵が飾られていた。


(客のおもてなしの部屋と言うよりも商人同士での商談をする部屋のようだな)


 まわりを眺めながらそんな感想を考えていると「失礼します」と先ほどの女性が飲み物を持って戻ってきていた。


「香茶になります。旦那様とお嬢様は後ほど参りますので少しばかりお待ちください」


 女性はそう告げてまた奥の小部屋へと入って行った。


(香茶か……。たしか香りを楽しむお茶で貴族や豪商が好む飲み物だと聞いたことがあるな。まあ、魔王討伐の旅に長く出ていた俺には縁のないものだと思っていたがまさかこんなところで飲むことになるとは思わなかったな)


 普通の庶民が飲むものと言えば基本的には水でそれ以外では安酒エールくらいであり、食堂でアルコール以外で味のついた飲み物を頼んだときに出てくるのはせいぜい果実水だけだった。


「うん。これはいい香りだ。さすが香茶と呼ばれるだけあるな」


 俺は初めて嗅ぐ香茶の香りに驚き一口飲むとほんのりとした甘みが感じられた。


「それはハーブをベースに香りつけをしたものに甘味料のハチミツを絶妙な分量混ぜ込んだものだ。爽やかな香りとほんのりした甘さが貴族の御婦人方から支持をされているのだよ」


 俺が香茶を味わっているといつの間にか部屋に入ってきていた男性がそう説明をしてくれた。


「ミリバル商会の主をしているへスカルだ。このたびは娘が大変お世話になったと聞いた。馬車と娘を助けてくれて感謝する」


 へスカルは今はフリーの冒険者と名乗っている俺に対して丁寧に頭を下げてお礼を言った。


「いえいえ、こちらこそ馬車に同乗させて貰って助かりました。さすがに歩いてだとかなり時間がかかる距離でしたからね」


 俺はへスカルにそう言って頭を上げるようにお願いする。


「ミリー、入りなさい」


 へスカルは俺の言葉にうなずくと部屋の外で待機していた娘の名を呼んで自分の横に座らせた。


「話は娘から聞いたが幾つか質問をしてもいいかな?」


「はい。自分に答えられるものであればお答えしたいと思います」


「ありがとう。では、お言葉に甘えて聞かせてもらうよ。君は王都から来たのだと聞いたが冒険者をしているのだろう? もし、そうならばランクを教えて貰えるだろうか?」


「冒険者のランクで言えばDランクです」


「なに!? Dランクだと? 道中に出たのは魔物化した狼だったと聞いたがとてもDランクの冒険者が倒せるものではないはずだが?」


 日頃から護衛などを雇っているであろうへスカルは冒険者のランクの強さはある程度は把握していたので俺がDランクと言ったのに驚きを隠せたかったようだ。


「ああ、Dランクと言ってもこのところ別の仕事をしていたのでランク上げの昇級テストはずっと受けてないんです。だから今の自分の能力に関しては何ランク相当なのか分からないんです。なので、このあとか若しくは明日にでも冒険者ギルドに行ってランクアップ試験を受けてみたいと思ってたんですよ」


「そうか。それならば私が推薦書を書いてあげよう。これを持って行けば実績面で優遇されるはずだ。もちろん実践形式の昇級試験はあるが魔物化した獣が倒せる実力があるならば問題なく合格出来るたろう」


 へスカルはそう言って香茶を持ってきてくれた女性に紙とペンを持ってこらせてその場でスラスラと推薦状を書いてくれた。

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