第5話【元勇者、街へ到着する】
「ちなみに俺は二十八歳だ。まあ、世間では行き遅れってやつだな」
この世界の成人年齢は十八歳で余程のことがない限り二十三歳くらいまでにパートナーを見つけることが多く、その年齢を越えると極端に結婚相手が見つかりにくくなるのが常識だった。
「に、にじゅうはち……ですか。それは大先輩に対して失礼な口をきいてすみませんでした。てっきり同じくらいだと思ってたので……」
「はははっ。別に話し方は砕けたままでいいさ。俺もそのほうが話しやすいからな。それに、あんたと同じくらいに見えるってことはまだチャンスがあるかもしれないだろ?」
多少のお世辞はあるかもしれないが傍から見ればどうやら俺の外見は実年齢よりも若く見えるようだった。
(二十歳の頃から約八年近くも魔王討伐の旅に行かされていてその間死なないように鍛えまくっていたのが体にいい結果をもたらしたのだろうか? だったらこの魔王討伐も全くの無駄じゃなかったのか?)
「くくっ」
そもそも、魔王討伐に駆り出された不幸のことを忘れて良いように解釈できる自分に思わず笑いが込み上げてきた。
「おっ、そろそろ街が見えてきますよ」
「ようやくか……まあキロトンでは長くても数日程度滞在したら次へ向かうつもりだったが久しぶりに冒険者ギルドにも顔を出しておくとするか」
「そうなんですか? ならば自分たちも街に着いたら行くつもりなんでご一緒しましょう」
言葉づかいは直さなくてもいいと言ったがやはりグラムは俺が八つも年上だと分かったのでなんとなく語尾が丁寧になっているのに内心苦笑いをしながら走る馬車からの景色をながめていた。
「おっ、そろそろ街の外壁が見えてくるころだな」
「そうですね。王都もいいですけどやっぱりキロトンの方が親しみやすくて私は好きですわ」
グラムの言葉に街が近づいていることを知りミリーが馬車の窓を開けて笑顔でそう答える。
「キロトンの街か……王都からそれほど離れていない街なのに今まであまり来たことなかったな。確か、農業と商業を中心産業として王都の胃袋って言われてたような覚えがあるな」
「そうですね、その認識でいいと思います。私の家は母が宿の経営を父が農産物の販売取引をしているのです」
俺のつぶやきにミリーが反応してそう教えてくれた。
「へえ、どんな農産物があるのかな? 直接買えるなら幾つか融通してもらいたい品物があるんだけど聞いてみて貰えると助かるな」
「いいですよ。助けてもらった事を話せば聞いてくれると思いますので私からもお願いしてみますね。ところでどんなものが欲しいのですか?」
「いや、特に珍しいものではないけど小麦と米があるといいな。それと塩などの調味料があればさらにいい」
「そのくらいならば父に言わなくても普通に市場で買えますよ」
「ははっ、まあそうなんだけどね。市場に出ている品物ってあまり品質が良くないものがあるから直接買った方が良いかなと思ってね」
「ああ、たしかに王都の市場は品質の良くないものも平気で売っていますからね。でもキロトンではそんなことはないと思いますよ。農業を基幹産業に位置づけた街でそんなものを売っていたらすぐに商業ギルドか飛んできて重いペナルティーが待ってるでしょう」
ミリーはそう言ってにこりと笑っていた。
「街の外壁が見えましたよ。もう一時間もかからないで門にたどり着くでしょうが先にギルドにお寄りになりますか? それともミリバル商会へとお連れ致しますか?」
馬車の御者台からそう声がかかるとミリーは「先に商会で頼みます」と指示を出した。
「先にお父様たちに紹介をさせてくださいね。その時に今回の報酬をお渡しすることになりますので」
ミリーは俺の方を見て微笑みながらそう告げる。
「道中、馬車に乗せてもらっただけで十分報酬をもらったようなものなんだけどな」
ミリーの言葉を聞いて近くにいたグラムにそう小声で話すと「欲のない人ですね。でも報酬はきちんと貰ってくださいよ、恩の押し売りは駄目ですけど相手からの好意は素直に受け取るのも大切ですよ」と年下に諭されてしまった。
◇◇◇
「止まれ。通行許可証があれば提示をするように」
キロトンの街の外壁門で門兵が街に出入りする人や馬車を管理している。
「ミリバル商会の馬車です。通行許可証はこちらになりますので確認をお願いします」
御者の男性が懐から許可証を出して門兵に提示する。
「ミリバル商会か、今日は農産物の運搬ではないのだな」
「はい。今日は王都にお住まいでしたミリーお嬢様のお迎えで護衛と共に王都から戻ったところです」
「そうか。道中は何がトラブルは無かったか? 盗賊などの情報があればすぐに報告をするようにしてくれ」
「はい。実は盗賊ではありませんが道中で黒い獣と遭遇しました。たまたま出会った冒険者の方と護衛の者が協力して大事には至りませんでしたがこの後で冒険者ギルドには報告をする予定にしています」
「黒い獣だと? それはまさか魔物化した獣か? それは重大な脅威ではないか」
「ええ、ですが獣は一匹ですでに倒してますので今は大丈夫かと。そのあたりも冒険者ギルドへ報告しておきますので情報は共有されると思います」
「そうか、分かった。何にしても無事で良かった。では報告についてはしっかりと頼むぞ」
門兵は御者の男性とそう言葉を交わしてから馬車を通してくれた。
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