第4話【元勇者、質問に答える】
「まずひとつ、勉強している魔法属性が黒だった場合、攻撃系統の魔法になるが実戦で通用しないレベルならば足手まといとなるだけだから馬車から出てこないのが正解だ。
次に属性が白だった場合、主に治癒系の魔法となるがあんたや他の護衛が重症ではないとはいえこれからの道のりを考えた時、治療をするのが普通だと思うからだ。もっともまだ未熟であればほとんど効果はないだろうがな。ほかの属性に関しても同じような理由だ」
最後のほうは説明が面倒になって適当にぼかして答えたが魔法の知識が乏しいと見られるグラムからは特に質問をされることなく「そうか」とひと言あっただけだった。
「実はよく理解できてないだろ? その痛そうな腕、こっちに見せてみろ」
話をしている途中でグラムの腕にそれなりに大きな傷があることに気づいた俺は彼の腕を掴み治癒魔法を展開する。
「ヒール」
俺の言葉に魔力が反応して手のひらが白い光を帯びてグラムの傷を癒やしていく。
「ほら、これで良いだろう。そんな腕じゃ、この後でまた何かと遭遇したら護衛の役目を果たせないぜ」
俺はなんでもないかのようにグラムの腕の傷を治したあとそんな軽口をたたいた。
「あ、あんた魔道士だったのか?」
驚いた表情でグラムが僕にそう問いかける。
「んー、魔道士としての活動はしてないけどこれまでいろいろと修行してたらそれなりに使えるようになっただけさ」
「いや、修行でどうにかなるものなのか? いや、それよりももしかして攻撃魔法とかも使えたりするのか?」
「あー、そうだな。まあぼちぼちってやつだ。それよりも冒険者に能力の詮索はしないほうがいいぞ。マナーと言うやつだな」
実際に冒険者に能力の詮索はしないようにするのが暗黙の了解となっており、あまりしつこく聞いているとギルドに通報されたり最悪実力行使で黙られられることもあるのだ。
「あ、すまねぇ。そうだなギルド規定にもあったことを忘れていたよ」
「いいってことよ。お互いまだ会ったばかりだから多少の秘密はあるのが当たり前だ」
俺はそう言ってポンポンとグラムの肩を叩いた。
「ところで治癒ポーションは持ってないのか?」
「ああ、何本かは準備していたんだがこれまでの戦闘で使っちまったから今は無いんだ。下級でも結構な値段がするからさすがに何十本とかは用意出来なかったんだよ」
治癒魔法が使えるものはそう多くなく大抵は治癒ポーションを使って怪我を治すのだがこれまたポーションを作れる調薬師も希少で数量が多く確保出来ないためどうしても高くなるのは仕方ないことだった。
「そうか。確かにポーションは高いからな。しかし、さっきは偶々出会ったが最近は魔物化した動物は減っていると聞いたのだがそうではないのか?」
「確かに一時のような群れは見なくなったがはぐれ的なやつは時々でてくるとギルドで聞いたような気がするな。いや、本当にそんな重要なことを失念していたとは恥ずかしいよ。あのレベルの獣だと今の俺たちだとギリギリの対応が精一杯だったしな」
(まあ、魔物化したオオカミは単独ならば冒険者ランクB程度は欲しい獣だからな。まあ、元勇者の俺にはたいしたことないレベルだけど)
「それは大変だったな。まあ、王都で聞いた話だと魔王が倒されたと聞いたのでそのうち出て来なくなるだろう。基本的に魔王からの魔力供給をすることになるから魔王が死ねば供給不足により魔物化した動物もそう長くは生きていられないだろうよ」
「そうか? そんなことは聞いたことがないがよく知っているんだな」
グラムが感心しながらそう話すのを苦笑いをしながら俺は「まあ、いろいろとあるんだよ」と曖昧に答えた。
「ところでアルフはいろいろと旅をしてるって言ってたよな。なんでひとつの場所に留まらないんだ? その方が仕事も安定的にこなせると思うんだが」
「そりゃあいつかは何処かの街を拠点にするかもしれないがまだそんなつもりはないな。少なくともこの国からは出るつもりだし、かと言って隣国のどこに行くかも決めてないから気の向くままってやつだな」
「それは羨ましい限りだぜ。俺も本当ならばそんな冒険者に憧れていたんだが大事なツレが出来て、そうも言ってられなくなっちまったんだ。だが、俺は戦うしか能がないから商会の護衛をしてるって訳さ」
「大事なツレ……ね。羨ましいこって。まあ、今まで忙しすぎてそんな暇がなかったからなぁ。だが、これからは少しばかりゆっくり出来そうだから可愛い嫁さんでも探してみるかな」
「ははっ。あんたの腕ならなにかと稼げそうだし良い出会いがあるといいな。ちなみにどんなのが好みなんだ?」
グラムが興味本位でそう聞いてきたので思わず本気で考えてしまう。
「そうだな。俺自身、少しばかり歳を食ってしまったから同じくらいか少しばかり下で料理が上手な女性がいいな。外見はおとなし目の方が好みでうるさいのは勘弁だな」
「んー? そんなに歳がいってるようには見えないけど何歳か聞いてもいいか? ちなみに自分は二十歳になったばかりだ」
「ほう。成人して二年か……それで所帯持ちとはなかなかやるじゃないか」
俺はそう言いながら自らの歳をグラムに告げた。
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