第2話【元勇者、国王に嫌がらせをする】

 俺は国を出る前に国王に対して嫌がらせをすることを決め、泊まっていた宿に戻ってから荷物をまとめてマジックバックに収納。


 宿を引き払ってから夜になるのを待った。


 実はあの場で装備をしていた武器防具は取り上げられたのだが宿に置いていた荷物までは気が回らなかったようで魔王討伐に使った認識阻害のマントなどはまだ手元に残っていたのだ。


「報酬をケチられて追放されたのは面白くないが暗殺をするほどのことでは無いし、あんな国王でもいきなり死んでしまえば国は混乱するだろうからせめて俺の気持ちがスッキリするように少しばかり恥ずかしい目にあってもらうとするか」


 俺は周りを警戒しながら認識阻害マントを羽織ると闇にまぎれて王宮へと忍び込んだ。


 勇者として何度も訪れている王宮の内部は当然把握しており、警備の薄い経路を選んで国王の寝室へと向かう。


「しかし、王宮の警備がザルすぎてあくびがでるな。魔王が討伐されて脅威が薄れているからだろうが本当に暗殺者を送り込まれたら国王などすぐに暗殺されるんじゃないか?」


 俺はそうつぶやきながらもところどころに配備されている見張りを避けながら慎重に奥へと進んで行った。


「ここだな」


 王宮の謁見の間のさらに奥の場所に豪華な扉をたずさえた国王の寝室があらわれた。


(さて、ひとりで寝ていれば簡単なんだが、奥方と伴に寝ていると見たくもないものを見せられる可能性もあるが)


 俺はそう考えながらそっとドアの下の隙間から睡眠効果のある気体を部屋へと流し込んだ。


「そろそろ良いかな」


 薬の効果があらわれるタイミングで僕はそっと国王の寝室のドアを開くと中の様子をそっと確認する。部屋の中では国王がひとりでぐうぐうと眠っている。


(よしよし、ちゃんと薬は効いているようだな。さっさとやることをやって逃げるとしよう)


 俺は懐から小ぶりのナイフを取出しながら国王の頭にあてると髪の毛と自慢のあごひげを全て剃り落としてある魔法をかけておいた。


「今までの事を考えると全く足りない気もするが今はこのくらいで勘弁してやるか、まあ当面は恥ずかしくて公務は出れないかもしれないがな」


 俺はそうつぶやきながら剃った毛を綺麗に片付けて他の全ての痕跡をも全て消してから王宮を出た。


「さて、あすの朝になればおそらく騒ぎになるだろうし、門で足止めをくらわないように夜のうちに街を出ることにするか」


 本来ならば夜に街の外へ出ることは危険であり、朝を待って隣町や隣国へ向かう馬車を探すのが安全だったのだが元勇者である俺にはこんな平和な地域の夜など危険なことなど何もなかった。


「ぷっ、くくくくっ」


 夜の街道を歩く俺は先ほどの国王の頭のことを思い出し、目を覚ましてから絶望の表情をするのを想像するだけで笑いがこみ上げてきて、報酬カットと王宮からの追放に対する不満は思ったよりもたいしたことなかったのだと考えながら隣町へと歩いて行った。


 ◇◇◇


 次の日の朝、目を覚ました国王は頭とあごが涼しいのを覚え、自慢のひげを触ろうとするもあごはつるつるで慌てて侍女を呼ぶも部屋に入ってきた侍女はつるつるの頭を見て笑うわけにもいかず必死に我慢をしながら鏡を国王に渡した。


「な、な、ない!! ワシの自慢のひげもふさふさの髪もない!?」


 寝ているあいだに抜け落ちたにしてはベッドには髪もひげも落ちてはおらず、まるで毛だけがどこか異世界にでも行ってしまったかのようだった。


「国王様。これはいったいどうしたことですかな?」


 国王の姿をみた宰相も驚きのあまりそう言うしかなく、何かの毒か呪いの類いではないかと大至急、薬師と解呪士の手配をしたがどちらも「毒や呪いの類いではありません。ただ、剃っているだけですね」と恐縮しながら説明をしていた。


「いったいいつの間に誰がやったのか?」


 頭に回復魔法をかけてもらいながら国王はぶつぶつと愚痴をこぼす。


「――今日のところはここまでにしましょう。髪の毛は怪我ではありませんので回復魔法はあまり効果はないかと思われますが毎日かければ多少は改善すると思われます」


 治癒魔法士からそう告げられた国王は「どのくらいで元に戻る?」と確認をするも「なんとも言えませんがおそらくおよそ1ヶ月ほどかと」と返された。


「ぐむむ……。仕方ない、暫くおおやけの場に出る式典などは行わないことにする」


 国王はつるつるの頭をさすりながら苦渋の表情をして宰相にそう告げた。


 ◇◇◇


「――いまごろ国王はつるつるの頭に青ざめている頃だろう。本当ならばこの目で見て笑ってやりたいがリスクが高すぎるし、笑っている姿を見られればまず俺がやったとバレるだろうからなぁ。それにあの魔法をかけておいたからどんな対策を取っても二度と毛は生えてこないだろうし」


 隣町への道程も半分きた辺りで休憩をとりながら俺はそうつぶやいてニマリと笑っていた。


「――さて、行くか」


 携帯食料をかじり腹も満たした俺は座っていた岩から腰をあげた瞬間、近くで怒号と悲鳴が聞こえた。


「そっちに行ったぞ!」


「慌てるな! 複数であたれ!」


 喧騒な声が森のなかに響くのを聞いた俺は厄介ごととなるのを承知で首を突っ込むことに決めた。


(もう勇者は辞めたから正義の味方ではないが聞いてしまったものは見捨てるのも気分が悪いからな)


 俺はそう考えながら声のする方向へと急いだ。

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