「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼

第1話【元勇者、王家に捨てられる】

「――漆黒の魔王とその眷属の討伐、しかと完遂しました。これにて王国は魔王軍からの脅威から全て開放されたことをご報告いたします」


 メトル王国の謁見室では魔王軍の討伐報告が行われていた。


「おお、よくやったぞ。さすがは勇者と謳われた者だ、この度の魔王討伐ご苦労だったな褒めてつかわすぞ」


 目の前の高いところから見下ろす形で偉そうに話をするのはこの国の国王で勇者の称号を持つ俺に権力を使って見つけ出し王命として魔王討伐を押し付けた張本人だ。


「はっ、ありがたきお言葉にございます」


 国王の言葉に対して片膝をつき礼を尽くして応対する。


 なにしろ魔王討伐である、当然ながら報酬も破格のものがあるに決まっているだろうし、世界が魔王軍からの脅威から解放されたのである。少なくとも一生食うに困らない程度のものがあって当然だろう。


 そんな打算を期待して頭を下げたまま国王の次の言葉を待っていたが告げられた言葉はとても信じられないものだった。


「――魔王が討伐され、王国の脅威が無くなったゆえにもう勇者なるものは必要ないだろう。そなたには魔王討伐の際に王国から多額の借金があったがそれの帳消しをもって魔王討伐の報酬とする。なお魔王軍の脅威がない今、そなたが装備している武器防具は必要なかろうて、それらは王国が用意したものゆえ回収させてもらうが問題なかろう?」


 国王の信じられない言葉に俺は国王の隣に並んでいる宰相や他の要人に目を向けるが皆うなずくばかりで誰も反対をするものはいなかった。


(そんな馬鹿なことあるか!俺はそれこそ命がけで魔王軍と戦ったんだぞ。しかも好きで戦いに行った訳でもなく国王命令との一言で無理矢理に行かされたのだし、資金も王国が出すのが当たり前だろうが。どうして活動資金が借金になっているんだよ!)


 本当は目の前であごひげをさすりながらそう話す国王に対して怒鳴りつけたい気持ちを押し殺しながら俺はできるだけ穏便に質問をした。


「国王様、自分は王命のもとに命の危険に晒されながらも魔王の討伐を果たしました。その見返りがこの仕打ちなのでしょうか?」


「ああ、魔王討伐に関しては感謝しておるぞ。だからその間にそなたが使った多額の資金については王国が肩代わりしてやると言っておるのじゃがそれだけでは不満なのか?」


 駄目だ、話が通じない。


「では、国王様は勇者であった自分に一文無しで出ていけと言われているのですね?」


「なんじゃ? そなたは王命を授かるまでに全く貯蓄をしておらんかったのか? 思ったよりもだらしのないやつだったのだのう。仕方ない、温情で金貨10枚ほど報酬を上乗せしてやろう。それで文句はなかろう?」


 金貨10枚とは普通の仕事をしている者がひと月に稼げる額とほぼ同じであった。


(これ以上の譲歩は無理だな)


 そう悟った俺はひと暴れしたい気持ちを必死に自制心で抑えながらお礼の言葉を告げて謁見の間から退室した。


 ◇◇◇


「これからどうすればいいんだろうか……」


 王宮の別室にて報酬の金貨を受け取った代わりに装備品を取り上げられた俺は王宮から街へと放り出されて途方に暮れていた。


 手元には金貨が10枚ほどでひと月もすればすぐに資金難が襲ってくるのは分かりきっている。


 しかし、これを元手にしたところでとても商売などは始められるわけもなく傭兵をやろうと思っても魔王が討伐された影響で魔物の出現率も下がり街を行き来する商人や乗り合い馬車の護衛依頼も今までほどのひとが不要となり護衛の仕事もあぶれるものが増えているそうだ。


「いっそのこと他の国に行ってみるか……」


 勇者として必要なスキルのほとんどは必死に修得しておりどんな職業でもそれなりにこなせる自信はあったが、なにぶんひとりでの行動時間が長かったのもあり誰かに雇われて仕事をする自分が想像できなかったのだ。


 それに、この国では元勇者としてそれなりの期間活動していたため好意的に接してくれる者も多くいるが、逆に嫉妬しっとねたみからくる負の感情も少なくなかった。


(魔王討伐の時のような忙しない日々はもう疲れたから、しばらくはゆっくりとしたかったのだけどな)


 本来ならば使い切れないほどの報酬をもらって街の中心部から離れたところに家を買ってのんびりスローライフができるはずだったのだが国王の意味不明な解釈によって全ての計画が台無しになってしまった。


(戦争のない今の状態ならば隣国へ向かう馬車を探すことはそう難しくはないだろう。それに、このまま王都に滞在すればもし何か問題が起きた場合にまた王命だとか言って無理やりに働かせるに違いない。あの頭のおかしい国王ならばやりかね……いや、絶対にそうなるに決まってるな)


 俺は暫く考えを巡らせてひとつの結論を導き出した。


「――よし、決めた。国を出ることにしよう。そうと決めたらどこに行くかを絞らないとな。ああ、それと……」


 国を出ると決めた俺はあることを思いつき実行に移すための準備に取り掛かる。


「魔王討伐の報酬金貨10枚のお礼をちゃんとしておかないとな。勇者の力を安くみるとどうなるか……くくくっ、楽しみだ」


 俺はそうつぶやきながら王宮へと足を向けた。

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