・断章⑯【”第三次世界大戦”事件、世界各地、それぞれの最後の戦い】
「ぬかせ!儂が総統を敬愛する限り、儂が生き続ける限り、総統は生きておられる! あの子は、
「う、動かぬ!? き、キジンダー貴様、使いこなしたのか、【
「……はい、ごめんなさい……私は、自由を奪うこの力を否定したかった……けれど、これを使わないと貴方を止められない、それが私なら……私は私の全機能を使う覚悟を固めます。不完全な私だけど、日本で、勇気と決意、意思力という大事な部品を貰ったから」
終わったのは、ヘルバートの方であった。一瞬早く、電子回路と思考を操る、これまで恐れや躊躇等で使いこなせていなかったキジンダーの最終兵器が発動したのだ。今でも不完全なままだ。暴走するかもしれない。それでも、己と己の力を必死に制御する、心の強さを日本で得たのだ。
「降伏を、してくれませんか」
「……お前は優しい娘じゃなあ。儂等科学結社メトロポリスが本当に作りたかった救い主のようじゃ」
かつて
「じゃが、お主は儂等が望んだように人を導きはしない。お主は人の自由を愛しておる。これからも、その力に苦しみ続ける……そうじゃろう?」
「……」
お前のような救い主を作りたかったが、お前は人を愛するが故に人を救わない、というパラドックス。
それを、勝者とは思えぬ苦渋の表情でキジンダーは無言の内に肯定した。心の強さを得ても、心の苦しみは消えない。苦しみを乗り越えるからこそ強さなのだ。だが。
「その優しさが貴様の不覚じゃ! 儂を傷つける為の機能を掌握せなんだな! 最後に貴様の苦悩を消してやろう!
「っ!?」
それ故に、皮肉にも愛故にヘルバート・ギルシュタインは動く事が出来た。己が潰える事により潰える愛する者の再来という望んだ未来に決別の叫びを上げ、己が娘の苦悩を終わらせる為に、キジンダーが掌握する事を躊躇した最後の機能、自爆装置を作動させる!
反応が遅れた、避けきれないキジンダー。その、前に。
「愛故にか。俺も愛故にだぜ、クソ親父」
「ブレイダー!?」
ブレイダーが立ちはだかり、庇った。
爆発。
……そして伯林地下第二総統要塞から、キジンダーの駆る戦闘サイドカー・ツインサイダーが脱出した。新たな戦いに向かう為に。生き残った命を次に繋ぐ為に。
――――――――
「HAHAHAHAHAHA! 勧善懲悪、正義の勝利、終わる事無き栄光! それをもたらしてあげるのさ! ヴィランを用意し、ヒーローを必要とする不完全な社会システムを維持し! 時に制御可能な範囲でガス抜きの
「私は
異次元人ブウイヌムルから授けられた危険な力が発動する。
だが。
「なら……僕がマーベラスマンだ」
打ち倒した筈のヒーロー達の中から、唯一人、立ち上がった者がいた。
この場に来るのが一番遅かったヒーロー。エクセルシオールに利用され尽くしたヒーロー。クローン部隊を作られ全米で最も陳腐な姿となったヒーロー。
だが、かつて「限りなく
マーベラスマンが立ち上がった。
その手には、エクセルシオールのそれとと同じペン先を象った手甲が形成されていた。
「
エクセルシオールが目を剥く。
アメイジングマンがエクセルシオールの運命改変を打ち消した。
「アメリカン・ヒーローズ……
倒れていたヒーロー達全員が立ち上がる。ここまでに命を失ったヒーロー達の力すら継承して。アメリカのスーパーヒーロー全ての力が、ここに。あった
「……
その眼前の光景を。エクセルシオールは。眩く、美しいと思った。
背後に未だエクセルシオール配下の軍団が健在であったが、決着は、この時既についていた。
――――――――
ヒーローや正義の味方達が発射前に破壊しきれなかった分の天へと飛び上がっていくICBM達を、破壊怪獣ガグラは怒りの表情で見上げていた。
そうだ。ガグラは怒っていた。何時でも怒っていた。ずっと怒り続けていたのだ。
人の横暴、滅びの火について。
ガグラは巨大な足で大地に踏ん張った。天に向かい、抗うように吼えた。
ガグラの全身が燃え上がる。ガグラの武器でありガグラの身を蝕む呪いである、核融合級爆熱光。
燃え上がる全身から、それが天へ目がけ迸る。世界を穢さないよう、細く精密に、数多の光の筋となって、大気圏外から落ちかからんとするICBM達を、大気圏内に到達する前に撃墜する。全て。
撃墜を終えたガグラだが、炎は終わらなかった。その身は炎に蝕まれている。これから行う戦いが最後の戦いとなるだろう。だがガグラは更に炎を行使した。炎は翼となった。行くべき所へ行く為に。
破壊怪獣ガグラは飛ぶ。破壊すべきものを破壊する為に。それに随伴して飛ぶもの達がいた。守護怪獣ダドラと、精霊怪獣マハリアだ。
続く戦いに対し進化を続け、過去より戦闘的な鋭い眼光と尖った鱗と甲羅を持つようになったダドラと、最後の姿として全ての鱗粉を使い尽くした透明な羽根と金属光沢を持つ外骨格となったマハリア。
言葉を持たぬ怪獣達だ。視線も、今向かうべき天空へ向けている。
だが、そこには同じ時代を生きた、無言の絆があった。
――――――――
衛星軌道へと向かい、高速で上昇する二つの巨影。それは
「やらせはせん、やらせはせんぞ! ソ連の栄光、共産主義の未来を!」
「……我々は二十世紀の遺産だ。共に大義を掲げ戦った。だが、二十一世紀まで戦争を続ける訳にもいくまいよ」
相対するは万能戦艦高天原。ボロボロの艦橋、宇宙服代わりに真武超鋼郭・霧氷を装着した
「反重力炉、機関出力全開120%。艦首衝角戦、突撃せよ!」
――――――――
衛星軌道上。
「お前達は、現実に堕落させ滅ぼされるべき物語への呪詛だ。【何が正義かと考える心を持つ】存在こそが、あらゆる平行世界に於ける、滅ぼされるべき究極の悪なのだ。我に従え、そして、我が力の糧として果てるがいい。収穫の時だ」
それに対し、衛星軌道上まで上がれる力を持っていた、全てのヒーローと正義の味方と巨大人型兵器と巨大超人と怪獣達と
世界の全てが、戦いを挑んだ。
だがそれでも尚、敵はあまりにも大きい。ハイパーマンとハイパーマン・ネガが和解し二人の力を合わせた事で、全てのヒーロー・正義の味方が一時的にハイパーマンが力を分け与えた巨大超人達の様に巨大化し
戦いは、宇宙を揺るがす凄まじき神話となった。
――――――――
(よそう、ハイパーマン・ネガ。これ以上戦ってもブウイヌムルの利になるだけだ)
“
(……なあ、ハイパーマン。地球に来る前。宇宙にいた頃。その頃を思い出せるか? ……
この世界の恐るべき秘密の一端に辿り着き、ハイパーマンにそれを語った事。
(……”
(そうだ。我々の
(”
(……我等もまた
(何だと?)
(この
【恒星別星人】ハイパーマン/”
そうだ。この世界そのものが、我々そのものが、ブウイヌムルの作った、何処かにある本物のパロディかもしれなくても。
ブウイヌムルが「我々が存在しない世界の歴史」と「我々の本物が存在する世界」を混淆し、本物のヒーローや正義の味方や超人や怪獣が存在する世界をそんなものが存在しても無駄だと否定する為の呪詛・超能力的武器にしようとしているとしても。
ハイパーマンは戦うと誓った。世界に優劣は無い。どの世界も等しく尊く、そしてどんな世界であれ、正義を追い求める事は間違いでは無い、と。
私も、戦うと誓った。
「……フェイスト!!」
今のハイパーマンが叫んだ。一瞬、意識が飛びかけていたらしい。過去を見ていた。地球人が言うところの、死に際の走馬灯という奴か。
ブウイヌムルの次元劫線と己の暗黒孔線で競り合ってきたが、もう両腕が肘まで、顔も半分溶けてしまっている。
(“行きつけ”、“いつもの”、“常連”、“おまけ”。好きな言葉が増えました)
自分がハイパーマンとその依代、ゴハンマン・林正志と何時も言っていた居酒屋。いつもので頼むメニューが通じるくらい、すっかり行きつけの常連になって、たまに大将にオマケして貰ったりもした。四島君緒達もよく利用していたお店の事を思う。あれは今、背後に庇う地球にある。
(また来ておくれよ。もうじき年越しだ。冬の旬の食材の、特に良いのが入荷する。一番酒が旨い頃さ)
大将、どの季節でも一番酒が旨い頃って言うじゃないか。60年代から通ってるんだ、すっかり分かっているんだぞ。大将の髪も、随分白くなった。
もう行けないのが、残念だ。
「今だ! 行け! ハイパーマン! 皆を連れて……行け!」
真空の筈の宇宙に歌が高らかと響いている。これが物語の自由な力だ。マスクドラグーン、今はマスクドラグーンDか、
「地球は私が守る! 行けぇっ!」
この命を使ってでも、私も守りたいと思ったのだ。
嗚呼、光が、沢山の光が行く。世界を救いに突き進んでいく。
何と美しいのだろうと、最後にそう思った。
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