・断章⑬【四島事変、回想と、終わりと】

 組織日本支部ソサエティ・ジャパンブランチ最終作戦、四島事変の最中。


 組織日本支部長ソサエティ・ジャパンブランチオーダー四島君緒は物思う。


(大丈夫だ、私に任せてくれ。たとえ私達の見ているものが夢だとしても、私は決して夢を現実なんぞに劣るものとは言わせない)


 過去に皆へ告げたとおり、今、正に帝都・大東京は彼女の支配下にある。だが。


(何故誰も戦いに来ない……ここで抵抗する者達を叩きのめす事で政府を更に絶望させる算段だったんだが……)

(思うに完全に決まりすぎたという所かな。二十三区は全て高天原の射程内だし、横須賀と東京防衛戦線TDLも黙らせた。マスクドラグーンは死んだかもしれんし、核弾頭まである)

(それは分かっているが……何か事を起こしたのに吃驚する程誰も乗ってこなかったみたいで寂しいじゃないか)

(まあまあ。始末すべき奴を始末したから、残った政府の連中はこれ以上脅しつける迄も無くもう此方に従うよ。政権委譲の書類手続きに入ってる)

(それは甘く見すぎだ。黒従事軍の存在を忘れたか。奴等は必ず足掻く。それを叩き潰す必要があるのだ)


 ……流石に最初の一喝で自衛隊も正義の味方も従ってくるというのはそもそも想定すらしていないがそれ以外の部分は順調にいきすぎて、また恐ら黒従事軍が反正義の味方集団の癖に正義の味方が動くのを待って漁夫の利を得ようとしているらしいという想像以上に卑しい動きを考えているらしくて即応せず、正直やる事が却って無くなってしまったといった所なのだ。忙中閑あり。


なれ合いマンネリちゃぶ台返しリランチの間でぶれ続ける痴愚共アメリカンヒーローも、ジャスティスは正義に勝るなどと妄言を吐いて他国に隷従する白人気取りバナナ野郎共も、意思と力の結果である現実を不変の物理法則の如く盲進し全てを政治で支配できると思い上がった法匪共黒従事軍も等しくこの期に粛清の対象。狩る相手だ。恐れるに値しないのは、当然だが)


 ……マスクドラグーンは、果たして本当に死んだのであろうか?


 四島は回想する。



 ――――――――



「隠し爪・八咫蛇身やたのかがみ

「……ッ!?」


 市ヶ谷の戦い。手四つの掴み合いに持ち込んだ状態から、四島の生機幽合体サイバイオカルトとしての姿であるバラセンガラスの体の一部を構成する有刺鉄線を編み上げた第三の腕を構築。両手を掴み合いに使い防御出来ない相手の喉首を抉り貫くバラセンガラスが複数持つ必殺技の内の一手が決まり、仮面の口部分から血反吐を吐いてマスクドラグーンは崩れ落ちた。


「残念だ、友よ……」

「うわあああああっ!?」

「っ!?」


 だが感傷に浸る暇も無く、半泣きのキジンダーが乗機であるサイドカー・ツインサイダーで突っ込んできた。身をかわすバラセンガラスだが、その隙にキジンダーはマスクドラグーンを回収、ツインサイダーに乗せて即座に逃走にかかった。


「ふん、マスクドラグーンの命は私が貰った。体程度はくれてやろう、葬式くらいは出させてやる……」


 第三の腕とはいえ感覚はある。大動脈、気管、脊髄まで貫いた。首が繋がっているだけ不思議な一撃で、確実に殺した。今更死体を攫われた程度で何も変わらない……


「……いや」


 だが、妙に嫌な予感がした。生機幽合体サイバイオカルトの霊的強化による第六感か。間違い無く死んだ筈なのに、逃がしては拙いと霊感が囁いている。


「ちっ!」


 翼を広げるが先の戦闘で折れており、広げただけで激痛が走った。飛べぬ。


「カミカゼトンボ! キジンダーを逃がすな、マスクドラグーンの首を持ってこい! だが大事の前だ、深追いはするな!」

「了解! 特攻!」

「特攻はせんでいい!」


 代わりに他の飛行可能な生機幽合体サイバイオカルトに命令を下す。即座に追撃が行われたが……




 ――――――――





(デビライザーとサイオマンの妨害で追撃は失敗。カミカゼトンボは生残ったが)


 そう。デビライザーもサイオマンもプラチナマスクもキジンダーもいる。


 必殺ザ・バッドらは外郭組織アウターユニット残党を用いて首都圏外へと誘引したが、都内にまだ正義の味方は残っている。なのに予想以上にそれらの動きが鈍い。


(マスクドラグーンの死が士気を砕いたか? いや……)


 それならば尚更、仇を討ちに来る筈だ。それは武士道的な行動規範に固執する己の錯覚では無い。それ程に、正義の味方達を結び付けたマスクドラグーンへの他の者達の思いは深い。色々な意味で。


(それを、見て知っているのだ)


 再び、四島は回想する。



 ――――――――



 ジャワ語で友達の意味を持つ名の喫茶店・カンカにて。


「随分とモテるようじゃないか藤郷君。流石愛を歌う虫の因子を宿すだけはある」

「出たな組織ソサエティ~!?」

「どういう驚き方だい色男くん。ここでは騒ぎは起こさないと言っただろう」


 背後の席から仮面で顔を隠した四島に声を掛けられ、藤郷=マスクドラグーンは飛び上がらんばかりに驚いた。キリギリスの生機幽合体サイバイオカルトである事に掛けたモテているという指摘に店名物のジャワコーヒーを噴きかねん程に狼狽した。


 四島が出現した事についてではない。言った様に四島は……変装し、正体が作家・四島君緒である事を隠した上でだが……この店には以前も訪れ、マスクドラグーンと交戦ではない接触を持ち、ここを言わば中立の交渉地としている。


 ちなみにこの店では騒ぎは起こさないと四島が誓っているのは、店主が第二次世界大戦に従軍した元超人兵士・八紘犬士だからだ。私淑していたのである。そしてまた先にジュエルセブンと共に黄滅の刃ゴブリンスラッシャーを殲滅したように、時に海外の組織支部ソサエティブランチと共闘する事もある為、情報交換の場が必要という理由もあった。


 奇妙な関係で正義の味方達はしばしばこれを癒着ではないかと悩んだが、四島からすれば唯の好敵手達への礼儀であり全く問題を感じなかった。四島らも正義の味方も共により良き日本の未来の為に命を捧げ戦っているのであり、方向性と手段と敵味方が違うだけだ。その過程で互いに殺し合う事に恨みっこなど有りよう筈も、手加減も癒着も八百長もありえよう筈も無い。剣道や柔道の試合の前に試合の日程を定めたり一礼するのが癒着や八百長か? まさか。


 大体そもそも組織ソサエティの各支部ブランチの方針が異なるのは、元々戦後初期に管理社会を志向していた中露支部ユーラシアブランチと、企業支配を志向していた北米支局アメリカユニットと、独裁制度を志向していた欧州支局ヨーロッパユニットの結束してバンドも出来そうにすらないディストピア性の違いで揉めた所が理由としてが大なのだ、私のせいでは無いわと四島は内心呵々大笑する。


 まあ、誰を殺すかが違うから、そこに思い悩む事はあるだろうが……正義の味方も本来国家が専権として行う治安維持や消防を、己の方が上手く出来る・己の判断の方が信用できると勝手に行っているという側面は否定しきれぬ。本質的には悪の秘密結社と同じく国家から独立した存在、己のみを国民とし己が跨がるマシンの鞍上のみを国土として他国に介入する秘密戦闘国家サイレント・サービスであると言っても過言ではあるまい。まあ、それでもそこを気にするのが正義の味方の箍であり可愛いところなのだが。


 ともあれ、モテている。色男とそう指摘した理由としては、この時たまたま喫茶店カンカにいた正義の味方が、マスクドラグーン以外はトイレに行って席を外しているキジンダー(アンドロイドだが飲食もすれば排水もする)もデビライザーもプラチナマスクも女性だった事にある。そしてついでに四島も女性であった。


 対犯罪者の戦いに及ぶ時に「ヤクザ殺し世界チャンピオン! 必殺ザ・バッド!」とか「欺瞞の入れ墨を引っぺがす男! 必殺ザ・バッド!」とか「小指エンコではなくチンコを詰めさせる男! 必殺ザ・バッド!」とか無茶苦茶威圧的な名乗りを上げた挙げ句有言実行する必殺ザ・バッド等勿論マスクドラグーンが縁を持つ正義の味方は男性超人の方が多かったし、バババの化子の如く夫にべったりの者もいるのだが……


「三人とも大分君に懐いているようじゃないか。実際どう考えているんだい? 敵対関係でありながら共通の敵も有するが故にここではこうして一緒にコーヒーを飲んでいる私のことも含めて」


 くくく、と、鴉の囀りめいて四島は喉を鳴らしてからかった。


 組織ソサエティ日本支部ジャパンブランチから脱走した生機幽合体サイバイオカルトであるマスクドラグーン。眼前の、かつて四島がアンティノーの大理石像に例えた青年。


 四島君緒もまた、鍛え抜いた体つきはやや女性的ではないとはいえこれはこれで好む者もいるだろうバランスで、その容姿は研ぎ澄まされた刃の輝き。悩ましい。


「それは……」

「冗談だよ。そんな事より、欧州支局ヨーロッパユニットからキジンダー宛てにまた刺客が来ている」


 応えあぐねている藤郷に対して、自分からはぐらかすように四島は話題を変えた。


破戒部隊デストラボットの新型だ。コードネームはクリスタルカメレオン。隠れることに長けたブラックローチとはまた違う、光学迷彩を使う隠密型だそうだ。恐らく奇襲の機会を伺って……」

「きゃーっ!?」


 伝えつつある正にその時女子トイレからキジンダーの悲鳴! さてはカラーレスカメレオンか! 藤郷、四島、共に立ち上がる!



 ――――――――



 デビライザー、キジンダー、プラチナマスクはマスクドラグーンを愛していた。死んでいれば、命を賭けてでも仇を取りに来るタイプの愛し方だ。同じ男を愛する女として、それを四島は確信していた。


 他にも、色々な出来事があった。色々な戦いを見てきた。矛の会スピアーズだけではなく、彼等の革命の為に力を与えてその代わり政治へ干渉する為の世情不安の醸成の為に利用するという契約を結んだ、新左翼の生機幽合体サイバイオカルト達の戦いも、余す所なく偵察し観察し四島は記憶していた。



 ――――――――



ゲバッ、ゲバゲバ!かかったぞ! 政府の犬共に思い知らせろ!

「とぉおうっ!」


 空港建設予定地の原野。通常の生機幽合体サイバイオカルトよりは簡易な、スズメバチトーチカの実験で完成した細菌級微細機械群バクテリアクラスマイクロマシン改造注射による量産型超人兵士・戦闘員。その新左翼向輸出型であるゲバゲノッセ達が生機幽合体サイバイオカルトツルハシゴートに率いられ暴力的抵抗運動を鎮圧に来た警官隊を逆に電撃鉄棍アイアンゲバや手榴弾を武器に包囲殲滅せんとした刹那、バイクを駆ってそこに突入するマスクドラグーン!



 ――――――――



「ドラグーン! ハンマーッ!!」

「「「~~~~~~!!!???」」」


 山間から暴れ下ってきた複数合体型生機幽合体サイバイオカルトスズメバチトーチカに対し、工事現場にあった建築物解体用クレーンの巨大鉄球を半身たる戦闘バイク・ストームウィンドを使って曳航し激突させるマスクドラグーン。



 ――――――――



「ドラグーン! キーックッ!!」

「ぐわーっ!?」


 ヤドカリとジャックナイフの貝殻に潜る能力・折り畳む機能を霊的能力で拡張解釈し、体を折り畳んで機械と融合する能力を使ってバスジャック・シージャックを繰り返し、革命資金と革命の為の人質を集めていた新左翼の生機幽合体サイバイオカルトヤドカリジャック。更にハイジャックを目論見、日本航空351便ボーイング727-89よど号をジャックせんとしたヤドカリジャックを、対物狙撃銃じみたドラグーンキックで機外から狙撃しそのまま飛行機のコクピットをぶち抜いて外へ蹴り出すマスクドラグーン。


 ――――――――



「しいいさあああっ!」

「とぉおおうっ!」


 沖縄。学徒慰霊碑の下から姿を現した、手にヌンチャクを持ち口に炎を宿すライオンの生機幽合体サイバイオカルト・ヌンチャクシーサーに対し、跳躍したマスクドラグーンが眼前に着地。


「逃げて下さい!」


 狙われた相手や警備関係者に一声叫ぶと、マスクドラグーンはヌンチャクシーサーに彼等への攻撃をさせない為に猛然と白兵戦を挑んだ。


叩っ殺たっくるしちゃるぞ、薄汚いヤマトンチューが!」


 打ちかかるヌンチャクシーサーのヌンチャクをかわし、弾き、捌き、突き返す。


「かあああっ!」

「ドラグーン・ウェイブ!」


 打撃戦で能力を行使する隙をこじ開けて、ヌンチャクシーサーが口から火炎放射。背後に人を庇っているマスクドラグーンは避けられない……ならばとばかりにキリギリスの生機幽合体サイバイオカルトとしての音を操る力を使い、衝撃波による爆風消火で炎を相殺!



 ――――――――



 VOOOOONN!

「「「「「うおおおおおおおっ!」」」」」」


 丸の内のビル街を、機械と獣、二色の咆吼が木霊する。


 機械の咆吼はマスクドラグーンが駆る戦闘バイク・ストームウィンド。対する獣の咆吼は、生機幽合体サイバイオカルトスコルピウルフとそれが操る改造狼達だ。


 戦闘バイクの車輪も、古代の弩砲スコルピウスを象った鎧を、纏った狼男の如きスコルピウルフや背中に弩砲を背負った改造狼たちの足も、サーカスの曲乗りめいて重力を無視したかのようにビルの壁を捉え三次元的に疾走する。


 スコルピウルフと改造狼たちの弩砲の矢は、機関砲にも勝る弾速と貫通力に加え炸裂する強力な爆弾矢となっている。これを使い富裕層を襲撃する計画を、マスクドラグーンが阻止せんとしての対決だ。


「噂通り、いや、噂以上かマスクドラグーン!」


 スコルピウルフはマスクドラグーンの手強さを噛み締めた。ここまで数十合を打ち合い、幾度か爪牙や太矢を打ち込んでやったが、相手は拳や蹴りでそれ以上の痛撃を見舞ってきた。片腕と片目を既に失い、同志達が変身したゲバゲノッセも全滅。


(だがまだだ……捉えたぞ、勝つ! 勝って革命を示すのだ!)


 弩砲は未だ発射可能。そして同志ゲバゲノッセ達の献身により、改造狼たちはまだ全数が戦闘可能だ。即ち相手のドラグーンキックに相当する己の必殺技を使える。


((皮肉な話だが、彼こそが我々の最高傑作だ。世を覆さんとする我々と同じ、世界を敵に回しても戦う存在だ))


 マスクドラグーンの事を語る四島日本支部長ジャパンオーダーの事が思い出される。奴と己の目指す所は正反対。利用しあう、将来の敵だ。だが、その敵手が、最大の敵とみている相手はこのマスクドラグーン。


 負けて、たまるか。


「必殺ッ!『地球の牙』っ!!」


 スコルピウルフは遂に最大の力を解き放つ。改造狼たちとの連係攻撃により、マスクドラグーンを空中に跳ね上げた。音を通じ大気を操るとはいえ、地を直接蹴っての機動よりは空中にいる間の機動は限定される。そこに自分と改造狼全員の爆弾弩砲による集中攻撃。上にいる敵に食らいつく、逃れられぬ下からの牙。革命の顎門あぎと


「ドラグーンっ!」


 対して、マスクドラグーンは。


「ストーム!キイイイイックッ!!」


 スコルピウルフの『地球の牙』は確かに空中に飛び上がったマスクドラグーンが単体で取り得る機動の範囲を塗り潰していた。だが、それはマスクドラグーンを単一の飛翔体と捉えた場合だ。


 空中で身を捻るマスクドラグーン。そこにビルの壁を駆け上がり接近する、脳波による自動遠隔操縦でハンドルから手を離しても拭かし続けるストームウィンド。激しく回転するタイヤをマスクドラグーンのブーツが蹴り……


 車体をカウンターウェイトとし、脚力とエンジンの二重の加速を受けての、通常必殺技ドラグーンキックを遙かに勝る高加速キックが、爆弾矢の顎を強行突破しスコルピウルフに突き刺さった!


「ぐおーーーーーーーーーーーっ!?」

「「「ぎゃいいいいん!」」」


 スコルピウルフは吹き飛んだ。脳波で操っていた改造狼たちが悲鳴を上げ次々と自爆。致命傷だ!


(死ぬ、な)


 地に落ちるまでの僅かの間、スコルピウルフは理解した。周囲全ての空間に敵意と武器が配置されていても尚突破したマスクドラグーンは、正に四島が語った、世界とすら戦えるという評価に相応しい男だった。そして最後の瞬間、少し迷った。自分は、革命を志す者として死ぬのか、組織ソサエティ生機幽合体サイバイオカルトとして死ぬのか。


 マスクドラグーンについて語る四島の顔が、胸をよぎった。


「っ、革命、ばんざあああいっ!!!」


 意地を通すが如く、思いを振り切るが如く吼え、スコルピウルフは爆発四散した。



 ――――――――



 VOOOOONN!


 そんな追憶の中に響いていたエンジン音を、その時、四島君緒は確かに聞いた。


(間違い無い、この音は)


 マスクドラグーンのバイク、ストームウィンドのエンジン音だ。恋の如く、四島の胸は高鳴った。修羅の笑みを浮かべて立ち上がる。


「山口! 前野! 挺身隊の方々!」


 四島の声と共に、変身が始まる。四島は軍服を纏った烏天狗の、顔がペストマスクとガスマスクを烏天狗面型に再構築したような姿に。山口と呼ばれた側近の少年は、組み討ちに適した貝殻の鎧と太い鎧通しの短刀を帯びた武者の如きアンボイナイフの姿に。前野と呼ばれた鍛えられた体の男は、マスクドラグーンにやや似た、昆虫外骨格と飛行服を混合したような姿のカミカゼトンボに。


 そして眼前にずらりと揃った兵士達、即ち万能戦艦高天原を運用する無音建武隊の陸戦隊、生機幽合体サイバイオカルト開発直前に量産されていた戦中完成型最終世代の超人兵士達、強化された人間が呪詛を込めた肉と金属の鎧と接続し式神で制御する複合鎧人ハイパワードスーツ【真武超鋼殻】の姿となった。


「……行こう、決戦へ!」

「「「「「応!」」」」」



 ――――――――



 デビライザーの命を捧げた復活でパワーアップし、夜を照らす月の如き霊光を発する力を得たマスクドラグーンダブルと、限界を超えて全力を解放した事で、その霊を降ろした八咫烏が神話的に役割や存在等重複する事がある金鵄の名を冠した最強超人である古の金鵄髑髏の如く太陽じみた黄金に輝くバラセンガラスが、輝く竜巻めいて激突する。マスクドラグーンDの光熱と振動を宿す新必殺技と、バラセンガラスの意思のままに蠢く荊棘線を巻き付け蹴り足を巨大ドリルと化したもう一つの必殺技が交錯する。


 そして、マスクドラグーンDが競り勝った。必殺の蹴りがバラセンガラスの蹴り足を荊棘線のドリル諸共粉砕し、そのまま上半身と下半身を両断する。


 敵味方の様々な叫びが交錯する中、マスクドラグーンDが着地し、バラセンガラスは墜落した。変身が維持出来なくなり、人間の姿となる。


(……四島君緒はペンネーム。本名は、平岡君子ひらおかきみこ。……小さい頃、まだ大人しかった頃、『君子きみこ危うきに近寄らず』とからかわれて腹を立て、その言葉が本来は悪い意味では無い事は知っていたけど、勇敢であろう、と、誓ったっけ)


 走馬灯のように、死を前にふと過去を四島君緒は回想した。帝国がまだあった日。被検体に志願した事。故郷の光景。守らねばと思った。勇敢でありたかった。愛おしく思っていたもの。慈しんでいたもの。研究所の皆。先輩の超人兵士達。爆撃による研究所の崩壊。私を希望と呼んだ研究所の人々の死。手術終了からの機能起動中の私を折り重なって庇って死んでいった研究者達。戦わねば、勇敢に最後まで戦わねば。あの人達の願いを叶えねば。あの人達が希望として願った、勇敢で強い超人兵士にならなければ。


(私は勇敢であれただろうか。勇敢とは、何であったろうか)


 分からない。だが、為すべきと誓った事をしなければ。


 最後の力で、振える手で、軍服の下に肌身離さず持っていたものを掴み、掲げた。


「……私に勝った以上、誰にも負けるな。組織ソサエティにもだ。……私が調べた組織ソサエティの機密情報を収めたマイクロフィルムだ、持っていけ……」

「……自分が負けた時の事まで、考えていたのか」


 その手を、マスクドラグーンDが、藤郷猛弘ふじさとたけひろが、私の愛した男が掴んだ。


「ありがとう。貴方のその愛と勇敢さを、決して無駄にしない」


 本当に、主義主張を越えて、己の命や勝利よりも戦う者と日本の行く末を愛していた。敗北に恨みを抱かずその愛を行使する事が出来た。その愛が勇敢さでなくて何であろうと彼は言ってくれた。


 優しい貴方。デビライザー=牧村明子まきむらあきこの事だって、絶対にとても悲しかったのに。それは私が原因でもあるのに。貴方は負けた己のせいにしてしまったのだろう。それはダメだ。伝えなければ。


「……そう、か……すまない……そして、ありがとう……」


 最後に、謝って。あれは私が悪かったんだよ、私は悪だったんだよ、だから、気にしないで。そう告げて、四島君緒の意識は消えていった。

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