第三章 霞ヶ丘小女子児童自殺騒動8

 チャプター16 自宅


 窓の外から近所のガキ共の楽しげな声が聞こえてきた。

 音を聞くに、家の塀を使ってボールの壁打ちを行っているっぽい。懐かしいな。昔は寛容だったよな。俺もやったことあるが、冷静になってみるとよく怒られなかったよ。

 今じゃ、子供が外で遊んでる姿を見るのも少なくなった。

 ふと、想う。

 ――九〇年代。

 新興宗教、カルト教団。

 最盛期といっていいのだろうか?

 終末思想にオカルトブーム、直接は関係ないが、二千年問題やバブル崩壊、それから少年犯罪の激化などなど……。それら宗教や教団を、信じてしまう、頼ってしまう、そんな土壌が出来上がっていた時代。

 規制や世間の認知度もまだまだこれからだったり人々の耐性もなかったり、ましてや、ネットなんてまだまだ未発達で。情報共有は酷くしにくい。

 メディアが力を持っていた時代でもある。メディアは煽る。煽りに煽る。

 不安を促すような言葉を。

 人心を揺るがすような嘘を。まことしやかに。言葉巧みに操って。

 答えは単純、その方がウケるから。

 繊細な人ほど真に受けてしまう。

 目の前のことが全てに思えるんだ。まだそんな時代なのだ。今は。昔は。

 今更になってみて――厄介な時代だよなあ。俺だってあの頃は良かったなんて想ったことはある。多々ある。が。はあ~あ~……。やっぱ戻りてえよなあ。

 情報は武器だろう。情報を握れる奴が世界を牛耳る。つまり、今はメディアが世界を大きく牛耳っている時代なのだ。

 己の生殺与奪の権利を握られているようで息苦しくなるな。今=現代=未来を生きる俺には。今を生きる時代の方々には随分偉そうに思われるかもしれないが。

「はあ」

 昼間のこと。

 しくったなあ。やはり、どこか侮っていたんだろう。未来を知っている身としては。

 過去の人、とまでは云わんが。どちらかというと当時、ヒエラルキー的に下だった俺にとって、今の状態は、ちょっとしたチート気分だったんだ。

 大人に感じていたが、そういえば愛だってまだまだ子供なんだよ。

「前の方がマシだったか」

 かと言って。

「現象だ」

 愛の言葉を借りるなら、だ。戻りたくても戻れない。ならば、今出来ることをやるしかない。

 明日、謝ろう。




 チャプター17 月曜日


 翌日から、愛は一週間学校を休んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る