夢の中へ
「んん!?」
その時の俺の驚きようったら無かっただろう。これから一生、先の人生、これ以上の驚きがあって溜まるかってくらいに俺は驚いた。
「ばっか、良夫おめ寝過ぎだって。よくそんな学校で寝れるよなあ」
「んああ?」
「良夫くん。やば」
「んああって。うちの犬みてえ」
腕が痛い。これは――、机だ。俺は机で寝ている。学校机。決まった業者が作っていて、簡素な作りの割には無駄に値が張るという噂の、学校でよく見るあの机。その机の上で、俺は腕枕を作り、眠っていた。そうして、今、目が覚めた。
みたいだ。
「どこだここは」
「私はだーれ? ってかあ」
「良夫くんやば。昨日何時に寝たの?」
俺を覗き込んでいる人物。見覚えがある。
「陸。夏希」
「あー呼び捨てー。いいけど」
「良夫調子乗りすぎってか寝ぼけすぎ」
懐かしい喋り方だ。陸。名字は、なんだっけ。小学校の頃まではよく一緒につるんでいた。離れた理由としては、どこか俺のことを下に見ている雰囲気があって、一緒にいて疲れたこと、こいつ自身、俺とつるむことに対しての気恥ずかしさ、みたいなものを感じていくようになったんだと思う。なんというか、クラス内カースト、とか気にする奴だったからな。
陸……陸? どこからどう見ても陸にしか見えない。俺のよく知っている陸だ。
つまり、高校に入ってしばらくして茶髪にし出した陸とは違う陸。陸はからからと笑う夏希を唇を尖らせて見遣ってから、
「ふん」
と、首を擦った。
「夏希」
「あ。また」
「さん?」
「さん?」
「ちゃ、ちゃん」
「そーそー」
下川夏希。俺が気になっていた子。高校入って先輩と付き合いだすんだよな、こいつ。
数多の男子たちが夏希の天真爛漫な雰囲気とその接しやすさにコロッといった。俺は騙されちゃいけないと心に念じつつ、さり気なさを装って言う。
「寒いな」
「そう? 一月にしてはあったかいよ?」
一月。
さっきまでは八月だった。いつの間に年を越してしまったんだろう。
「寝ぼけてるかも。今、何時間目」
「二だよ、二。終わったとこ。良夫、いいから外でドッジやろうぜ」
「ドッジ?」
「ああ」
その言葉に夏希がふっとため息を吐いた。呆れたというより、これでこの会話は終いだという意思表示に見えた。彼女はとてててと女子の群れの中に駆けていく。
って、うわ懐かしい。菊に椿がいる。もうひとりはあれ誰だったっけ。
「ほら。ぼうっとしてないで行くべ行くべ」
俺は引っ張られるようにして教室を出る。俺は袖を引っ張る陸を気にしつつ、教室を振り返った。
みんなみんな小学生に見えた。
チラ、と視線を上げると、教室の扉に
『三年四組』
の札が掛かっていた。
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