時計を戻そう。そして、もう一度後悔しようよ。

水乃戸あみ

 小学校のときの同級生がテロリストになる夢を見た。


 今年で三十一になるが、夢を見るのは決まってあの頃のことだった。小学校の時の出来事。人物。場所。

 高校に上がってからは上手いこと友達が作れず、その後、彼女の一人もいなかった俺にとって、あの頃のことは余程印象深かったんだろう。

 恥ずかしながら。

 今でもたまに、いや、稀に連絡を取る、もう連絡も取っていない、当時は仲が良かったが今となっては、その頃でも大して話しちゃいなかった、実はずっと憧れていた――様々いるが、結局夢に出てくるのはやっぱりその頃の奴らで、俺は自身の人間関係形成能力における成長の無さを毎回見せつけられるようで情けなくもなる。

 しかし、心待ちにしている。

 夢を。

 あの頃の夢を。

 別に、今は今で楽しくないわけじゃない。趣味は出来たし、仕事はそこそこ楽しい。嫌なこともあるが、ストレスの度合いで言えば、あの頃の方が断然高かった。何せ、逃げ場がない。学校ってのは檻だ。監獄だ。相談する相手はたくさんいるが、相談するには気が引ける。比べる相手は数知れない。どうしていいか分からない。世界は広く、しかし学校は狭く、けれど自らの自我が、時折自分でも邪魔に思うほど大きく広い。

 感受性調節バーが欲しかった。こう、胸の辺りに。

 それでも明日はやってくる。明日も明後日も、翌年も、その監獄に自ら入らねばならないとなると。

 友達がいてもいなくても変わらない。年齢に反比例して悩みが大きい年頃だ。俺だけじゃなく、みんながみんな、悩んでいたに違いない。

 憎たらしかったあいつも。

 幸せそうに見えたあいつも。

 それに比べたら、今の方がよっぽど楽しい。

 戻りたいなんて思ってもいない。

 そう、思い出を覗く、そんな感覚に近いんじゃないだろうか。

 夢は。俺の見る夢は。


 教室だった。

 休み時間だったように思う。全員が椅子に座っていたわけじゃなく、好き好きに散らばっていた。教室の雰囲気、見た目的に小学校低学年くらいの頃の夢じゃないだろうか。

 男女比は半々くらいで、やけに人数が少なく感じた。みんな外で遊んででもいたんだろう。

 そして、それが起こった。

 教室真ん中、後方。その辺りにいた子が突然銃をぶっ放したのだ。

 ぱーん、と。

 弾けるような音がした。

 誰かが血を流していたように思う。

 そして皆がぽかーんと口を開けていた。

 俺はその子の隣にいたのだが驚いて尻もちをつき倒れた。椅子ががたがたと鳴った。チラとその子が俺を一瞥したが、顔は確認できなかった。誰だかわからない。ただ、あまり見覚えがないような気がした。

 すぐに視線を外し、二発目をその子が放った。

 そこで目が覚めた。


 それだけの夢。


 もちろん、当時こんなことは起こってない。

 夢ってのは荒唐無稽だ。脳の回路のどこがどう繋がってこんなけったいな夢を見せたか分からないが、俺はこの夢を大変愉快に感じた。

 夢日記なんてのは書いていないが、ネットで夢占いを漁るくらいはしたいかもしれない。起きてしばらくしても俺が覚えていればの話だが。

 そんなことを夢想しながら目を開けた。




 教室で。



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