第4話


彼は、今まで築き上げてきた概念を何回も何回もひっくり返すような人だった。


冗談だと思っていた「お付き合い」も現実になって早半年。


私は効率的で、実用的で、実質的なものを好むのに対して、彼は非効率的で、実用性のない、ふわふわしたものを好んだ。


「今日はさ、こっちの道を通って帰ろうよー」

「…どうして?遠回りだよね?」

「だって、あっちに黄色い花が咲いてるから」

「ケンくん、私あんまりそうゆうの得意じゃないんだよね」

「そうゆうのってどうゆうの?」

「非効率的というか、なんというか…」

彼は、今まで築き上げてきた概念を何回も何回もひっくり返すような人だった。


冗談だと思っていた「お付き合い」も現実になって早半年。


私は効率的で、実用的で、実質的なものを好むのに対して、彼は非効率的で、実用性のない、ふわふわしたものを好んだ。


「今日はさ、こっちの道を通って帰ろうよー」

「…どうして?遠回りだよね?」

「だって、あっちに黄色い花が咲いてるから」

「ケンくん、私あんまりそうゆうの得意じゃないんだよね」

「そうゆうのってどうゆうの?」

「非効率的というか、なんというか…」


あまりに純粋な視線を向けられてたじろいでしまう。悪意なんて1ミリも含めずに首を傾げられている。

こんな説明自体間違ってるように思えてくる。


「ヒコウリツテキってどんな漢字書くの?」

「えっ」

「効率がわるいってこと?」

「あっと、うん。そうだね」

「でも、あの黄色の花は多分きれいだよ、少し摘んで帰ったらさ、ハルの家がかわいくなるよ!それに、一緒に歩いてる時間が好きなの」


私は一刻も早く家に帰ってくつろぎたい、なんて口にはだせない。

だめ?ときゅるんきゅるんの瞳が問いかけてくる。

降参の白い旗を手早く準備する。負けました。ゴングが鳴り響き、試合は終了。黄色の花は確かに綺麗で、ケンくんにすごくよく似合った。




「明日雨が降ったら、傘を買いにいこうよ」

「雨が降るなら今日買って帰ったほうがよくない?」

「降るか分からないもん」

「ん?じゃあ傘いらないよね?」

「だから〜雨が降ったら買いに行こうよ」


話が噛み合わないこともしょっちゅうで、

それでも、ペースに巻き込まれて"そうね"なんて笑ってる。

結局雨は降らなくて、それなのに2人で傘を買いに行った。コンビニでしか傘を買ったことのない私にはすごく新鮮で、並んでる傘が一つ一つ絵画のように鮮やかに笑って持ち帰って欲しそうにしてた。

青空が描かれた傘を真っ先に手に取ったケンくんは太陽のような笑顔でくるりと回って見せてくれた。


「ハル!見てよ!雨が降っても、青空の下にいられるね」

「ふふっそうだね、似合ってるよ」

「これにする〜ハルは、この万華鏡みたいなのが似合うよきっと」


手渡された傘は、赤が基調の確かに万華鏡のような柄をしていて自分じゃ絶対手に取らないものだった。だから、これにしようと思った。


「うん。これにする」

「これを待ってたらさ、遠くにいてもすぐ分かるよ」


彼は付加価値をつけるのがとても上手い。ひとつの出来事に嬉しいを2、3個増やすことができる。お花だけでも嬉しいのに、布をかけてリボン結ぶことが自然にできる感じ。


梅雨が目前に迫った晴れ間に、2人で包装された傘を待って歩く。

なんてことない日常にリボンがかけられてとびきりのプレゼントになっていく不思議な気持ちだった。




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