第2話
彼と出会ったのは、ちょうど1年ほど前。
同じ風が吹いていた。
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風は季節を運ぶ。いや、人々に季節を知らせて走る。もう冬が来ますよ、そう知らせながら、人間でいえばだいぶ風通しの良くなった禿頭くらいの木枝から、さらに木の葉を奪い去る。
さすがに、寒そうだ。コートをクリーニング店に取りに行かなくちゃなあ。
「ハル!置いてくよ」
同期の青宮里が大きな声で私を呼ぶ。今日は気乗りしない合コンに連れて行かれる。アラサーにも慣れてきた私たちにはやらなくてはならないことがあるらしい。昨日の残業を代わってもらった代償だ。人間社会はこうして回っていく、持ちつ持たれつという…
急いで追いつくと、そこにはなんだかお洒落なバーというか、なんというか。私には縁のなさそうな空間が広がっていた。
奥まで案内された先には、グランドピアノ。ノックアウト。私には似合わない。帰りたい。家に帰って洗濯物の散らかった部屋で一杯、それに勝るものはないのに。
「こんばんは!里っていいます!今はコーヒーにハマってます。よろしくお願いします!」
「足立梨花です〜得意料理は肉じゃがです!」
「あ、えっと木下晴といいます。よろしく…」
愛嬌ぷりぷりの里や梨花に続いて、いかにも挙動不審な私はいかにも数合わせという雰囲気が滲み出ている。私には、やっぱ似合わないわ。
男性陣の自己紹介から高身長タナカアツシ、顔がいいハシモトイツキ、そして、
3:3の合コンのはずが只今2:3。もちろん阿吽の呼吸でその1つの余り枠にすっぽり私が座ったわけだ。綺麗な流れだった。
「イツキさん、今日は2人?」
「あー、いるよ、ほらあそこ、」
里が気を遣って声をかける。なんかより虚しい気もするが、2人だったら私も帰ることができた。が、指さされた先、遅刻してどんな顔でくるのかな〜なんて興味深々で視線で追うと…ラフな格好でグランドピアノに歩み寄る人がいた。身長は高くない、多分私と変わらないくらいかな。でも子どもみたいに無邪気にピアノに対峙する姿は、なんだか新鮮で、眩しく見えた。
「え!ピアノ弾くんですか?」
「ハルちゃん興味ある?あいつケンっていうんだけど、ここで働いてるんだよね」
「あ、や、すごいなって」
「弾いてるの聴いたら多分驚くよ」
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