ファイアボールのやべーヤツ、旅立ってしまう
安直だと転生器には言われたが、名前なんてそんなものだろう。
「ラウ様」
ぶかぶかの俺の上着を着た彼女は、静かに語りかけてくる。
「これから、どちらに行かれるのでしょうか?」
「まずは、
「差し出がましいことを口にしますが……わざわざ、ラウ様が出向かなくても、わたしの方で……」
「いい、顔を合わせるのが筋だ」
「承知いたしました」
ファイは、本当に、
適切なタイミングで進言してくるが、常に一歩引いて、俺の邪魔立てはしない。忠誠心だけは人一倍あるようで、俺に対する
麓の村に着くと、農作業をしていた連中が、俺を見るなり拝み始める。
数秒も経たずに、大汗をかいた村長が駆けてきた。
「生き神様! どうなされましたか!? まさか、
「いや、皆、良い子だよ。逆に、彼女たちの時間を奪って、悪いことをした。
悪いが、服をもらえないか。彼女に、相応の服を着せてやりたい」
「いえ、わたしは、このままでも」
「良いから着ろ。他の男には目の毒だ。年若い娘が、みだりに肌を晒すな」
見とれていた若い男たちに目線を向けると、慌てて彼らは平伏した。
「……では、今、着ている上着はもらっても?」
「構わんが」
なにに使うんだと問う前に、ファイは、村民の女性に連れられていく。
「きょ、今日は、
「うん、朝に数万回ほど済ませた。一日中、
山を下りて、人里に向かおうと思う」
ぽかんと、村長は大口を開ける。
「ま、まさか、
「あぁ、今日中に立つつもりだ」
「そ、そんな! 私たちが、今まで、野盗や魔物に襲われずに生きてこられたのは生き神様のお陰です! どうか、私たちを見捨てないでください!」
ひれ伏した村長の前で、俺は、手のひらをかざした。
「安心しろ、俺の
必要十分な魔力を
俺は、
ふよふよと、浮遊しながら、
「この村や村民に危害を加えようとした者がいれば、この
「…………は、はぁ」
「遠出するのは、交易を行っている周辺の村までにしておけ。さすがに、それ以上の範囲から出れば、この
最悪、俺が直接、
「大体、よくわかりませんがわかりました」
「俺は、旅に出るから、もう
「せ、世話になっただなんてそんな……生き神様は、この地の守り神です……生き神様がいなければ、この村は、とうの昔に野盗や魔物に襲われて潰されていたでしょう……こんな僻地で、幸せに暮らせたのは貴方様のお陰です……」
村長は、声を詰まらせて涙を流すので、ぎょっとする。
「いや、俺は、ひたすら
号泣する村長を慰めていると、ファイが戻ってくる。
村娘の衣装に身を包んだ彼女は、
宙空に開いた長髪が、陽光を浴びて、きらきらと輝いた。
「戦闘には、向いていない衣装なのですが、コレしか持ち合わせがないということで……大変、申し訳ございません」
「俺の身辺警護は必要ない。その格好で十分だ。
よく似合っているな、良いと思うぞ。もう少し、
慌てて、ファイは
「いえ、ご命令とあれば、喜んで燃えます」
「うん、たまにで良い」
ファイとの会話を楽しんでいると、いつの間にか、村民たちが集まっていた。彼らは、泣きながら、俺に感謝の言葉を伝えてくる。贄の娘たちは『是非、自分たちも連れて行ってくれ』と泣いていた。
俺は、人々に囲まれながら、目を細める。
「……昔は」
誰に言うとでもなく、俺は、つぶやいた。
「石を投げられていたものだが……いつの間にか、こうなるとはな……やはり、皆、心の底では
「あの、ラウ様」
ファイは、なにかを言いかけて――口をつぐむ。
代わりに、美しく微笑した。
「はい、そうですね。
「あぁ!! やっぱ、
その日、涙の別れを告げた俺は、故郷を巣立っていった。
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