第36話 自害

 ジュキが自身の結界内にため込んでいた強力な稲妻は、本来、結界を解いた瞬間に敵に放出するための物だった。

 結界を張っている間は、攻撃を受けない代わりに自分も攻撃できない。

 故に、瞬間的に結界を解いて稲妻を放出、すぐに結界を張り直すという作業を繰り返すことにより、本来の能力値の高さも相まって、一体で南向藩全体の精霊巫女を全滅させられるだけのポテンシャルを秘めていた。

 しかし、不完全とはいえ『聖獣人化』したタクに能力値で上回られ、それでもなんとか維持していた結界を、彼の精霊巫女である優奈に打ち破られた。

 この時点で、待機している他の『聖獣化』している九尾の妖狐、青龍から攻撃を受け、致命傷を負うことは明白だった。

 結界内に溜めていた稲妻は、広範囲に広げれば威力が劣る。

 集中させても、今の『聖獣人化』したタクを殺しきれないことは分かっていた。

 だが、カウンターですぐ側にいる優奈を狙えば彼女を道連れにすることはできた。

 しかし、ジュキはその選択をしなかった。

 それどころか、自身の防御力を故意に最低限まで落として、その強力な稲妻を自分自身に浴びせたのだ。

 五つ星の妖魔、あるいはそれ以上の潜在能力を秘めていた聖獣体のジュキだったが、何の防御もせず、自身の最大攻撃をまともに浴びれば、瞬時に生命力が0になることは明白だった。

 最後の決着に向けて身構えていたタク。

 カウンターを受け、一瞬で消し飛ぶことを覚悟していた優奈。

 雷撃を広範囲なものに切り替えて来る可能性に備えて、自分の契約巫女をかばうように前に出ていた妖狐・凛と青龍・雪愛。

 ただ呆然と成り行きを見守るしかなかった一回生、二回生達。

 それぞれが予想外の結末を目の当たりにして、その行動の意味が分からないでいる中、それを正確に、そして自身にとって酷な結末となったと把握した、ジュキの契約巫女・夜見が叫ぶ。

「いやああぁ、ジュキ様、ジュキ様ぁ、どうして……どうしてなのですかぁー!」

 その声が耳に届いたのか、ジュキの聖獣体である鵺は、力なく一度羽ばたき、そしてゆっくりと地上に墜落し……そしてその姿をかき消した。

 いや……正確には、消え去ったのではない。

 サルの顔に、虎の体、梟(ふくろう)の翼をもつ、小さく、愛くるしいぬいぐるみの姿に戻ったのだ。

 夜見がその場所に駆け寄る。

 ぬいぐるみのような姿……精霊体に戻ったことに、夜見は僅かに安堵した。

 精霊体は、基本的に不老不死だからだ。

 しかし、近寄って……その姿がひどくボロボロで、しかも、半透明で地面が透けて見えることに、大きな不安を抱いた。

 タクも、オオカミのぬいぐるみのような精霊体に戻っていた。

 自身が「聖獣人化」できる限界時間が過ぎてしまったこと、そして、もうジュキに戦う能力が無いことは明白だったからだ。

「ジュキ様……精霊体になったのですから、死んだりしないですよね?」

「……いや……俺はもう、消滅することが確定している……『聖獣体』の生命力が0になったら死ぬ……それは前から伝えていただろう? 今、この姿に戻ったたのは、一時の神の情け……いや、罰なんだ……」

 彼の言葉の正しさは、そのステータスが見える精霊達からははっきりと見て取れていた。


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名前:ジュキ (モデル:鵺)

状態:精霊体(消滅確定)

契約巫女名:夜見 (ヨミ)

備考:消滅まで あと 5分25秒

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 消滅確定。

 タクも、他の精霊達も、初めて見るこの文字に目を見開き、そして既にどうしようも無い状態であることを悟った。

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