第34話 聖獣人化
大狼、九尾の妖狐、青龍の聖獣体三体に対して、鵺(ぬえ)一体という状況ながら、ジュキは突出した強力な個体であり、対抗できるだけの潜在能力を持っていた。
高レベルの結界という防御力に加えて、稲妻という、威力も速度も圧倒的な攻撃能力を持っている。
それでも、数的な不利はどうしても残った。
現在、繭のような全身を覆う結界を纏ってはいるが、その状態では自分から攻撃できない。
したがって、稲妻による攻撃の瞬間、結界を解く。
聖獣体三体に対して広範囲の同時攻撃もできるかもしれないが、それでは個々に対する威力が弱まり、どの個体も倒しきれない。
とすれば、どれか一体に全力で攻撃することが考えられる。
しかしその瞬間、残りの二体から手痛い反撃を受け、最悪の場合、命を落とす――。
すぐ未来の光景が、巫女達全員に、予測……いや、予知として脳裏に浮かんだ。
優奈、ナツミ、ハルカの巫女三人は、聖獣体となった精霊の誰かが命を落とす可能性に怯えた。
夜見は、まるで相手の一体を道連れにしてでも意地を通そうとするジュキの暴走を、止めたいと願った。
この戦い、精霊巫女の誰もが、これ以上続けることを望んでいない。
ただ、聖獣体となった精霊達だけが、自分たちの巫女を守ろうと争っているだけなのだ。
鵺のジュキが、纏わせる稲妻の密度をさらに上昇させる。
大狼、九尾の妖狐、青龍の三体は、自分たちの巫女にその直接攻撃が及ばないよう、ジュキと巫女の間に盾のように割って入り、身構えていた。
しかし、ここで大狼であるタクの聖獣体に、突然変化が起きた。
その巨躯が消え去り、その代わりに純白の羽織袴を纏った一人の若者が立っていたのだ。
精霊に戻ったわけではない。
それならば、ふよふよとぬいぐるみのように浮かぶオオカミの姿をしているはずだった。
だが、それは本当に只の一人の青年に見えた。
いや、わずかに人間とは異なる。
耳が、頭の上部に、まるでオオカミのそれのように立っていたのだ。
聖獣体と比較して著しく体格が縮んだことで、その戦闘能力は激減したかに見えた。
しかし、九尾の凛、青龍の雪愛は気づいていた……姿を変化させただけであり、そのポテンシャルが、決して聖獣体と比較して劣ってなどいないことを。
鵺のジュキも、それに気づいた。
戦闘能力を示すステータスに、大きな変化はない。
だから、これはタクの特殊能力で、何か姿を変化させるだけの特殊能力、と認識した。
しかし、たった一つだけ、ステータス表記に違いがあった。
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名前:タク (モデル:オオカミ)
状態:聖獣人化
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「聖獣人化」という、初めて見る単語に、凛も雪愛も、ジュキも疑問に思った。
そしてその詳細内容を確認して、全員、驚愕した。
「……ジュキ、もう止めにしないか? そもそも、俺たちが争う理由なんてないじゃないか」
青年の姿をしたタクが、鵺の姿のジュキにそう話しかける。
「……もう、後には引けない。貴様らを全員倒して俺と夜見が生き残るしか、この藩を潰す方法はない」
「藩を潰すことに意味はないだろう? 本当に、夜見がそれを望んでいるのか? おまえの命が危うくなったときに、その身を案じて『精霊体に戻って』と叫んでいたのを聞いていただろう? それに、妖魔『貫三郎』がその生涯を終えたときにも、涙を流していた……純粋で優しい女の子だ。そんな子を、本当にそんな悲惨な戦いに身を投じさせるのか?」
「……今更、後に引けない……」
鵺のジュキは、なおも我を通そうとする
「……そうか……ならば、仕方ないな……」
タクは一度、ため息をつくと、
「羅無陀(ラムダ)、照瑠蛇(デルタ)!」
と呪文を唱えた。
次の瞬間、彼の身は白銀を基調とした、美しく輝き、神々しくさえある甲冑を身に纏った姿に変化した。
さらに、その右手には長刀(なぎなた)が出現している。
先端の刃は純白。まるでオオカミの牙を連想させる、長く鋭いものだった。
彼の精霊巫女である優奈と対を成す、白銀の武士だった。
その変化が完了した途端に、青年の放つ迫力が爆発的に上昇した。
あまりの威圧に、周囲の山々の鳥たちが一斉に飛び立つほどだった。
「……お前は、到達することができたのだな……俺がどれだけあがいてもたどり着くことができなかった、『究極の存在』に……」
ジュキが、何かを達観したようにそう呟いた。
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