第30話 鵺の目的
突如現れた、桁違いのステータスを誇る聖獣体。
さらに、本来ならば味方であるはずの精霊巫女が、敵対宣言している。
当然、全員混乱しているが、ほんの少しの思考停止が全滅を招くと悟ったタクは、優奈に戦闘態勢となるよう告げると、自分自身も即座に聖獣体に戻った。
先ほどのダメージが完全には回復しておらず、生命力は残り八割強、といったところだった。
しかし、そこに爆音と共に、頭からつま先まで突き抜けるような衝撃を覚え、危うく意識を失いかけた。
なんとか倒れることだけは避けて、その場を飛び退く。
追撃は無かった。
しかし、自分の生命力ステータスを見て愕然とした。
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名前:タク (モデル:オオカミ)
生命力:3299/ 7825
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一撃で3000以上削られていた。
下手をすれば、もう一撃食らっただけで死んでしまう。
タクは、その事実を優奈には隠そうとしたが、リンが全員に念話で伝えてしまった。
案の定、優奈は青ざめていた。
見上げると、伝説の妖怪である鵺(ぬえ)、「ジュキ」は、五十メートル以上の高さで羽ばたいて静止していた。
当然、そんな高さに攻撃を当てる能力は、オオカミの聖獣体であるタクにはない。
ナツミは狐火を伴った弓矢を、ハルカは氷弾をそれぞれ放ったが、鵺の手前で水色の壁に阻まれた。
「強力な結界……遠距離攻撃は全て防がれる……」
ナツミが呆然と呟いた。
「みんな、俺が戦っている間に逃げろ! それしか生き延びる道はないっ!」
タクがそう叫んだ。
しかし、優奈はもちろん、ナツミ、ハルカの一回生達はそう簡単に割り切れるものではない。
二回生の三人は、自分たちが役に立たないことを把握し、タクの言う通り逃亡しようと走り出したのだが、周囲を覆っている水色の幕に脱出を阻まれた。
接近戦を得意とするサルの精霊巫女、キヌが両手の剣を何度も叩きつけるが、その結界はビクともしない。
「……だめです、『呪話器』も通じませんっ!」
二回生、シロヘビの精霊巫女のイトが、悲痛な叫びを上げた。
タクが再度上空を見上げると、鵺の体がバチバチと帯電しているのが分かった。
「やめろ、ジュキ! お前は精霊だろう! 精霊同士が戦う理由など無いはずだ! お前もこの世界に転生してきた人間なのだろう!?」
タクが「念話」を、他の皆にも聞こえるようにして鵺のジュキに送る。
「……残念ながら、俺には戦う理由があるのだ。お前達は邪魔だ」
「邪魔だと? ……せめて、その戦う理由を言ってみろ!」
「……いいだろう、教えてやる……俺の目的は、諸悪の根源たる、南向藩を叩き潰すことだ」
「南向藩を……潰す? ……どうして、そんなことを……」
「……分からずともいい……藩の巫女達と共に、お前も死ねっ!」
再度、強烈な轟雷が落ちてきた。
タクはすんでの所でそれを躱したが、それでも1000以上のダメージを受けた。
もう一度直撃されれば、確実に命を落とす。
有効な攻撃手段は皆無で、強力な結界により逃げ出すこともできない。
勝敗は、誰の目にも明らかだった。
ここで優奈が、覚悟を決めて進み出た。
「タク様っ! 精霊体に戻ってください! そうすれば不死身になります、死なずに済みますっ!」
優奈が必死に呼びかける。
しかし、タクがそんなことを了承するはずがなかった。
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