第29話 闇の巫女

----- 

 名前:貫三郎

 ランク:-

 状態:魔石破壊 (意識なし)

 生命力:253 / 4830

 呪力:0 / 1865

 戦闘力:0

 呪術攻撃力:0

 防御力:0

 素早さ:0


 備考:

 生命力が0になる前に魔石を破壊された妖魔。

 全身に力が入らず、立ち上がることもできない状態。

 生命力が急激に失われていき、回復手段は存在しない。

----- 


 四つ星妖魔「貫三郎」は、仰向けに倒れて、起き上がることができない状態のようだった。

 そのステータスを確認した精霊達は、それぞれの巫女に、戦闘に勝利したことを報告する。

 優奈に「一撃死」の特殊能力が加わっており、それを用いて魔石を破壊したのだろう、という推測も告げられた。

 もはや「貫三郎」の戦闘能力はゼロで、復活の可能性もないということを聞いて、ようやく安堵して今回の勝利の立役者、優奈を祝福する。


「やったな、優奈っ! また強くなって……羨ましいぐらいだっ!」


「たった一発で四つ星妖魔を仕留めるなんて……凄すぎます……」 


 一回生のナツミとハルカが、優奈のことをそう絶賛する。

 また、それは二回生達も同じだった。

 なお、この時点で既にタクは元の精霊体に戻っていて、精霊のリン、ユキから


「流石ですわね!」 


「かっこよかったよーっ!」 


 などと祝福されていた。

 しかし、気を緩めるわけにはいかない。

 確かに、最大の標的である四つ星妖魔「貫三郎」は倒したが、他の班のように突然、三つ星魔獣が「降って」来る可能性があるのだ。

 取り急ぎ、タクの聖獣化や生命力回復のために使った呪力を回復させる必要がある。

 巫女達は全員、荷物から小瓶を取り出し、その中の苦い液体を、しかめ面になりながら飲み干した。

 その効果は高く、数分で何割かの呪力が回復する(ただし、一日に複数本飲んでも効果は出ない)。

 そうやって一息つこうとしたときに、「貫三郎」が呻くのが聞こえた。

 全員、はっとして身構える。


「貫三郎」はその体内の魔石破壊により戦える状態では無かったが、まだ僅かに生命力が残っていたのだ。

 ほんの少しだけ眼を開き、何かを呻いている。


「ヨミ……いない……のか……ヨミ……」 


 精霊巫女達は、全員武器を手に取って警戒している。

 タクも、いつでも聖獣体に戻れるように待機していた。


「……ヨミ……すま……ない……おれ……は……もう……魔獣を……育て……られない……」


「魔獣を……育てられない? それって、どういうことなの!?」


 気丈なナツミが、半死状態の妖魔に問いかけた。


「ヨミじゃ……ない……のか……もう……会えない……」


 うわごとのように、「ヨミ」という単語を繰り返す。

 もう、生命力はほとんど残っていない。


「ヨミって、人の名前? 仲間がいるの? 魔獣を育てるなんて……そんなひどいことをしていたの?」


 ナツミがたたみかけるように問い詰めたが、「貫三郎」は何も答えなくなった。

 そのとき、突然彼女達の後方に気配を感じて、全員慌てて振り向いた。


「ひどいのは貴方の方です。命が失われていく人を、労ってあげられないなんて……」


 どこに潜んでいたのか分からないが、その場には一人の少女が立っていた。

 歳は十六、七歳ぐらいだろうか。

 白い巫女服、黒の袴を纏っている。

 タクをはじめとする精霊達は、反射的に彼女のステータスを確認した。


-----

 名前:夜見(ヨミ) 

 年齢:十六歳

 職業:精霊巫女

 契約精霊:ジュキ

 状態:正常

 生命力:182 / 182

 呪力 :423 / 423

 戦闘力:32

 素早さ:40

 装備:

 巫女服 (ノーマル・黒)

 備考:

-----


「なっ……精霊巫女!?」


 タクが驚きの声を上げる。他の精霊達も同様だった。


「そんな……南向藩にはこんな名前の精霊巫女はいないはず……ジュキという名前の精霊も……」


 狐の精霊、リンも驚愕を隠せない。


「まさか……他の藩の精霊巫女が来ちゃったの?」


 竜の精霊、ユキアが、あり得ないといった様子でそう呟いた。


 二回生の巫女、精霊達も驚いている。


「……契約精霊の姿が見えない……どこにいるんだ?」


 タクが見渡すが、その姿が見えなかった。

 少し離れたところの大木の後ろにでも隠れているのかもしれない……しかし、なぜそうする必要があるのか?

 巫女や精霊達の混乱をよそに、ヨミは「貫三郎」の側に行き、その手を握った。


「おお……ヨミ……すまない……おれ……は……もう……」


「貫三郎さん、もういいんですよ……貴方は十分、私たちのために尽くしてくださいました……貴方の意思は、私たちが受け継いで、必ず成就させます。ですからもう、ゆっくり休んでください」


「おお……そうか……ありが……とう……」


 四つ星妖魔「貫三郎」の生命力は、その言葉を口にした直後にゼロになり、永久に活動を停止した。

 巫女のヨミは、そんな彼の最後に、一筋の涙を見せた。


「……なぜ妖魔と親しくしていた? 魔獣を育てるって、どういうことだ? いや、その前に……どこから来たんだ?」


 ナツミが警戒しながら、ヨミにそう聞いた。


「……そんなに一度に質問されても困ります。今、私は知り合いの死を弔ったところです。少し時間をもらえませんか?」


「四つ星の妖魔を『知り合い』と呼ぶのか? 一体、何者なんだ?」


「ですから、それを話すには少し時間が必要です。私としては、穏便に……えっ?」


 ヨミは会話の途中で、急にナツに向けていた視線を外した。


「……そうですか……彼女達は、知りすぎてしまったのですね……仕方ないですね……」


 星の出る虚空に向かって、ヨミは呟いていた。

 どうやら、自分の契約精霊と念話で話しているようだった。

 その直後、


「羅無陀(ラムダ)、照瑠蛇(デルタ)!」


 と呪文を唱え、彼女は漆黒の鎧、槍で武装した戦闘形態へと変化した。


----- 

 名前:夜見(ヨミ)

 年齢:十六歳

 職業:精霊巫女

 契約精霊:ジュキ

 状態:聖獣化連携状態

 生命力:1028 / 1028

 呪力:2728 / 2728 

 戦闘力:200 + 320

 呪術攻撃力:430

 防御力:426 

 素早さ:246


 装備:鵺槍、鵺鎧

 備考:

 攻撃呪術 雷撃、雷槍、雷爆破

 回復呪術 止血、鎮痛、生命力回復 (LV3)、解毒 (LV3)、気付け

 特殊能力 結界 (LV3)


 備考:

 契約精霊が聖獣化していることに伴う大幅な能力値上昇を得ている姿。

 ただし、その聖獣化を維持するためには巫女の呪力を激しく消耗する。

 そのため、契約精霊が聖獣化して戦える時間は最大でも数分程度となる。

 契約精霊の聖獣化が終了すると元の状態に戻る。

----- 


 その異常なステータスの上昇に、精霊達は全員驚愕する。

 その中でも、タクが最も驚いたのは「聖獣化連携状態」となっているステータスだった。

 直後、彼女達が居る山中の一角を、まるでドーム球場かのように薄水色の膜が覆った。


「これは……結界!? それも、ものすごく強力な……」


 狐の精霊、リンが呻く。

 さらに、その天井付近に現れた、全長十メートルに及ぼうかという禍々しい物の怪に、全員愕然とした。


-----------------------

 名前:ジュキ (モデル:鵺)

 状態:聖獣体 

 契約巫女名:夜見 (ヨミ)

 生命力:10528 / 10528

 呪力 :11528 / 11528

 戦闘力:2028 

 呪術攻撃力:1512 

 防御力:1132 

 素早さ:512


 備考:

 特殊能力 咆吼、威圧、雷撃、轟雷撃、雷爆破、大雷爆破、結界 (LV5)、飛行

 サルの顔、虎の体、梟の翼を持つ巨大な合成獣。

 契約巫女を想い、その身を案じて聖獣体となり現れた姿。

 その姿を維持できる時間は、契約巫女の呪力残量により変動する。

 なお、聖獣体は生命力が0になると死亡する。

 聖獣体が発現する可能性は、全精霊体の0.1~0.5%未満。

-----------------------


「そんな……このステータス、五つ星魔獣に匹敵する……聖獣体? ……あり得ない……」


 リンの声は震えていた。

 鵺の精霊「ジュキ」は、全てのステータスで、タクを大きく上回っていた。


「残念ながら、ジュキ様はあなた方の全滅を望んでいらっしゃいます。お覚悟を……」


 闇の巫女、ヨミは、他の精霊巫女達を哀れむようにそう言い放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る