第24話 逆襲

 四つ星魔獣「炎虎」の呪力攻撃「咆吼」は、まだ実戦経験の乏しい一回生、二回生を恐慌に陥れた。

 その直後、三回生、四回生がその姿をくらませた事も、混乱に拍車をかけた。

 全員、恐れと怯え、そして何が起きているのか理解できず、その動きを止めてしまった。


 そんな中、「炎虎」と直線距離で最も近い場所にいたのが、サルの精霊巫女、キヌだった。

 とはいえ、彼女は大木の樹上、十メートル近い場所に座っており、「咆吼」をまともに受けてもそこから落ちずに耐えていた。

 如何に虎の魔獣が体高二メートル近い巨体であろうと、ジャンプして届く高さではない……そう考えてしまっていた。


 また、火炎を放つ攻撃をするのであれば、事前に大きなタメが存在するので、その間に別の木に飛び移れば逃げ延びることができる……その思いが、僅かながら油断に繋がっていた。


 とはいえ、その大虎が頭上を見上げ、目が合ったとき、まったく身動きができなくなってしまった。

 そして、彼女は勘違いをしていた……虎は、その鋭い爪を用いて木に登れるのだ。

 その事実を前世の知識として持っていたタクは、キヌがどれほどの危うきにあるかを察知した。

 彼女の契約精霊であるココミは、必死にキヌを励ましている。


「そこにいれば大丈夫なはずだ、炎をこちらに吐きそうになったときだけ向こうの木へ飛び移れ」


 と……しかし、それでは間に合わないのだ。

 大虎は、その身をかがめた……獲物に飛びかかる寸前の体勢だ。 

 そこに至って、全員気づく……虎の牙は、一回の跳躍でキヌの体に届き得る、と……。


 そしてその行動は実行された。

 高く飛び上がり、一旦太い幹に爪を食い込ませると、さらにもう一段飛び上がり、キヌのすぐ目の前へとその上半身を届かせたのだ。

 そのまま大口を開けて、キヌの体に食らいつく……まさにその寸前、突如大虎の直上に現れた巨大な何かが直撃し、絡み合うように地面に落下した。


 ダメージを負いながらも、すぐに起き上がって警戒を強める炎虎。

 眼前に現れていたのは、自分以上に巨大な、銀色の美しい毛並みを持つオオカミだった。

 

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名前:タク (モデル:オオカミ)

状態:聖獣体 

契約巫女名:優奈 (ユナ)

生命力:7386 / 7402

呪力:2443 / 2443

戦闘力:1438 

呪術攻撃力:823 

防御力:801 

素早さ:333


備考:

特殊能力 咆吼、威圧、狼爪、狼牙、突撃

契約巫女を想い、その身を案じて聖獣体となり現れた姿。

その姿を維持できる時間は、契約巫女の呪力残量により変動する。

なお、聖獣体は生命力が0になると死亡する。

聖獣体が発現する可能性は、全精霊体の0.1~0.5%未満。

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 タクは、自分自身のステータスを確認し、以前よりもその数値が上がっていることを察知した。

 おそらく、大熊の四つ星魔獣を倒したことによる経験が反映されているのだろう。


 憤怒状態の炎虎ではあったが、目の前に自分と同等、あるいはそれ以上の化け物が現れたことに動揺した。

 下手に戦えば死ぬ可能性もある……そう考えて退却も考えたが、背後から強力な一撃を受けて、痛みで思わず顔を歪ませた。

 攻撃したのは優奈だった。

 長刀に呪力を咥えて全力で放った一撃だ。

 また無茶をして……と思ったタクだったが、彼女のステータスを確認してその数値が異常に……その日の午前中に確認したそれと比較しても、各値が倍か、それ以上に大きく上昇していることに目を見開いた。

 

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 名前:優奈

 年齢:十六歳

 職業:精霊巫女

 契約精霊:タク

 状態:聖獣化連携状態

 生命力:770 / 777 

 呪力:1305 / 1500

 戦闘力:160 + 420 

 呪術攻撃力:180

 防御力:402

 素早さ:240

 装備:狼牙剣 (長刀形状)、狼牙鎧

 備考:

 攻撃呪術 狼牙剣の形状変化、呪力付与、斬撃波、刺突閃、乱打、刃消滅

 回復呪術 止血、鎮痛、生命力回復 (LV2)、解毒 (LV2)、気付け

 特殊能力 威圧 


 備考:

 契約精霊が聖獣化していることに伴う大幅な能力値上昇を得ている姿。

 ただし、その聖獣化を維持するためには巫女の呪力を激しく消耗する。

 そのため、聖獣化して戦える時間は最大でも数分程度となる。

 聖獣化が終了すると元の状態に戻る。

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 契約精霊が聖獣化すると、巫女まで強くなる。

 今まで知らなかった情報だが、これは非常に心強い支援となった。

 その姿に触発されてか、ナツミの矢が数発、炎虎に襲いかかる。

 鬱陶しいと言わんばかりにその咆吼を睨み付け、逃亡がてらナツミに襲いかかろうとしたが、素早さで上回るオオカミが先に回り込んで大虎を迎撃する。


 クジャクの巫女、エノも中距離攻撃に参加し、僅かながら炎虎の生命力を削り取る。

 もちろん、彼女への反撃は、タクが許さない。

 さらに竜の巫女、ハルカがその豊富な呪力攻撃力を最大限生かした「水流爆」を放ち、優奈に次ぐダメージを与えた。

 こうして、聖獣化したタクを中心として、一、二回生達の炎虎に対する逆襲が始まった。

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