第22話 山狩り
過去、四つ星魔獣『炎虎』と交戦した付近から、より危険な箇所を四回生が、そして三回生、一、二回生合同藩の三つのグループが、麓に沿うように展開する。
時刻は早朝、日の光が差し込むため、妖魔「貫三郎」が出没する恐れはない。
「呪針盤」が反応すると、それを「呪話器」を通じて連絡してまずは状況確認、それが「三つ星」以下ならば各個対応、という方針だ。
三つ星といえどもなかなかの強敵なので、一、二回生にとってはかなり荒っぽい作戦に思えたのだが、実際に捜索してみてすぐにその理由が理解できた。
優奈達が捜索を開始して、わずか二時間で「呪針盤」に反応があった。
いきなり目的の四つ星魔獣か、と緊張が走ったのだが、近づいてみるとそれは鹿の魔獣だった。
その個体は大きく、肩高二メートル、体長は三メートルを超える。
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名前:タタリジカ
ランク:三つ星
状態:通常
生命力:1480/1480
呪力:255/255
戦闘力:322
呪術攻撃力:111
防御力:97
素早さ:154
備考:
瘴気を大量に吸い込み、その毒性に耐えて魔石を体内に生み出した鹿の魔獣。
大型化し、全ステータス値、特に生命力が増加している。
元々温厚な生物だが、瘴気の影響により攻撃的になっている。
鋭い角による直接攻撃は、まともに当たれば大きなダメージを受ける。
その甲高い鳴き声は人間を含むあらゆる生物を混乱させ、精神的に弱い者はそれだけで意識喪失、時には死に至る。
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タクやその他の精霊達が、がそのステータスを読み取り、全体的には以前戦ったオオイノシシの「ヤマアラシ」ほどではないものの、角による直接攻撃が危険であること、さらに特殊能力で、相手を混乱、場合によっては死に至らしめる鳴き声があることから注意するように自分の契約巫女達に伝える。
待機している教官に連絡を取ってみると、
「そのぐらいの呪術攻撃力の混乱呪術ならば、多少精神的にきついかもしれないけれども、ずっと鍛錬してきた姿精霊巫女ならば耐えられるはず。ましてや死に至るなど、弱った野ウサギ程度のものだから、倒し切りなさい」
との指示が飛んできた。
今回は、前回オオイノシシと戦ったときと違って二回生も一緒だ。
やれる、と確信して、戦闘に挑む。
遠距離攻撃得意なナツミが、狐火を纏った矢を放ち、鹿の魔獣にヒットする。
まだこちらの接近に気づいていなかったタタリジカは、その攻撃をまともに受けて慌てて逃げだそうとするが、シロヘビの巫女による大蛇の影に怯え、そこで動きを止めたところにハルカが氷雪魔法を展開、足下を凍らせて動きを止める。
そこにたたみかけるように優奈が接近し、斬撃を飛ばして確実に生命力を削る。
しかし敵は三つ星、豊富な攻め威力をすぐに消滅させることはできない。
逆に強力な足腰の力で足下の凍結を引き剥がし、優奈に角を突き立てようと迫るが、背後から精霊巫女、エノによる羽根状の刃の連続攻撃を受けてそちらに体を向ける。
怒った「タタリジカ」は、甲高い鳴き声を大音響で響かせた。
接近していた優奈とエノがそれをまともに受けて、思わず耳を塞いで立ちすくんだが、それも一瞬のことで、すぐに迎撃態勢を取ろうとするが、うまく力が入らない。
しかし、そこにハルカの最大呪術、「水流爆」が直撃、大鹿はダメージを受けると共にその巨躯を流され、二本の大木に引っかかって止まる。
ふらふらになりながら、その場から抜け出そうとしたところに、高い樹上にあらかじめ待機していたサルの精霊巫女であるキヌが、二本の短剣を、全体重を乗せた渾身の一撃を振り下ろし、ついに三つ星魔獣の大鹿「タタリジカ」を倒しきった。
この連携は、事前の打ち合わせで何度か確認していたパターンを組み合わせていたものだ。
以前に行った模擬戦で互いの長所、特性を把握できていたからこそできた連係攻撃で、その意味では訓練の重要性を理解できたものでもあった。
全員、笑顔で仲間の健闘をたたえ合ったが、キヌだけはオオカミの精霊のタクと目が合うと、すぐに嫌な顔をして目をそらした。
タクは、そのことがいまだにちょっとショックだったが、とりあえず三つ星の魔獣といえど、精霊巫女六人が連携して戦ったならそれほど苦戦すること無く倒せると知り、安堵したのだった。
しかし、事はそう単純ではなかった。
それから約三時間後、昼休憩を取った直後に、今度は馬の三つ星魔獣と出くわした。
大きさは、先ほどの鹿の魔獣以上だった。
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名前:ジュオンバンバ
ランク:三つ星
状態:通常
生命力:1625 / 1625
呪力:0 / 0
戦闘力:297
呪術攻撃力:0
防御力:122
素早さ:189
備考:
瘴気を大量に吸い込み、その毒性に耐えて魔石を体内に生み出した馬の魔獣。
大型化し、全ステータス値、特に生命力が増加している。
元々温厚な生物だが、瘴気の影響により攻撃的になっている。
興奮状態となると、後ろ足で蹴りを放ったり、体当たりしてくることがある。
噛みつく攻撃にも注意が必要。
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こちらは呪力を使った攻撃が存在しないタイプで、そこまで攻撃的だったわけではないが、生命力は今までの三つ星魔獣の中で最も高く、かつ、速度もあった。
大鹿の時と同じく、まずは遠距離攻撃で追い込んでハルカの魔法で足止めし、最後は優奈の直接攻撃で退治することができたが、一度逃げられかけたこともあり、結果的には先ほどより時間がかかってしまった。
既にかなりの疲労が貯まっている状況。
途中で連絡を取ってみると、三回生、四回生もそれぞれ二回ずつ三つ星ランクの魔獣と遭遇し、退治したとのことだった。
いくら強い魔石に反応する「呪針盤」を持っているとはいえ、これだけの頻度で三つ星の魔獣に出会うのは異常だ。
この山中で、一体何が起きているのか……。
参加者全員、得体の知れない不気味さを感じながら、一日目の捜索を追えた。
――その夜の山中にて、一人の少女が大柄な男性と会話していた。
「何人もの人たちが、あの虎の魔獣を討伐しにこの地へやってきたみたいです。あなたのことも、探してみるみたいですよ」
「……猟師……の……仲間……か……」
「いえ、遠めがねで見えたのは、武装した少女達、でした」
「……俺を……殺しに……来た……のか……」
「……藩の命令だったなら、そうかもしれませんね」
「……だったら……殺……す……」
「逃げないんですか?」
「……戦って……俺は……もっと……強くなる……藩に……復讐……果たす……」
「分かりました……でも、無理なさらないでくださいね……一人、とんでもない敵がいるようです」
「……分かった……気を……つける……」
男は、そう言い残して、夜の山中を歩き始めた。
次に「魔獣」に育て上げる獲物を求めて――。
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