第20話 二体の四つ星ランク
前回、大イノシシの魔獣「ヤマアラシ」と戦ったときと同様に、馬で現地まで向かう。
そのときに、サルの精霊「ココミ」、およびその契約巫女「キヌ」とタクが会ったのだが、ぬいぐるみ型の小さなオオカミを見て
「ひぃっ!く、来るなっ!」
と、キヌが逃げるように遠のいてしまった。
そのために、隊列はキヌが二回生の教官についで前方に、優奈が一番後で進むことになった。
タクとしては、優奈とそれほど年の変わらない、結構可愛らしい少女にそこまで嫌われてしまったことが少しショックだったが、あんなことが会ったのだから仕方が無い、と諦めた。
現在、三回生と四回生が戦っているのは、藩内を流れている南向川をかなり上流に遡った場所だ。
馬で駆けても、山道が多いために丸一日ほど時間がかかってしまう場所になる。
南向川はかなり大きな川なので、そこまで行っても結構開けていて、街もそれなりに発展している。
ただ、その川の両脇には山岳地帯が広がっていて、中には標高二千メートル近い山も存在するので厄介だ。
人々は、南向川と山々の間の、僅かに開けた平地に集まって生活している。
普段から鹿やイノシシが街に出没するが、熊や虎などの猛獣は山奥に住んでいて、滅多に人里に降りてくることはないという。
道中、キツネ型の精霊のリンからその説明を聞いて、タクが
「南向藩には、虎がいるのか!」
と驚きの声を上げた。
「ええ、ここは異世界ですから。昔の日本と似ている雰囲気はありますが、全くの別物ですよ。それに虎がいることよりも、魔獣がいることの方がもっと不思議だと思いませんか?」
そう言われると、それもそうだな、とタクは納得した。
大きな川沿いの街道とは言え、崖を迂回するためなど、途中でいくつか山を越えるため、直線距離ならそれほどでもない場所をぐるりと大回りさせられることもあった。
前世のトンネルがいかに便利だったか思い知らされる。
早朝に出て、目的の街にたどり着いたのは日が沈む直前だった。
本瓦でできた宿屋が並ぶ宿場町で、商店の数も多い。
巫女養成所が存在する村よりよほど開発されていると思ったのだが、実際は養成所から南向藩の城下町までは馬で三十分もかからない場所にあり、そこはもっと栄えているという話だった。
宿の人たちは、巫女達一行を歓迎してくれた。
魔獣や妖魔が出没するとあっては、商売もしにくいし、そんな噂が立つだけで宿場町として大ダメージなのだ。
今回、問題となっているのは大虎の四つ星魔獣。
以前、大熊の四つ星妖魔と対峙したことがある一回生とその契約精霊達は、ステータス差がどれほど大きかったかを知っているだけに苦戦も仕方がないと思っている。
むしろ、三回生や四回生でもどうやって対峙するのだろうと考えたぐらいで、自分たちが行っても役に立てるかどうか分からなかった。
唯一、希望があるとすればタクの「聖獣化」だ。
それを知っていたのだろう、宿で合流した三回生と四回生は、一回生、特に優奈とタクを大歓迎し、ともに戦おうと励ました。
優奈はかなり困惑し、タクも
「不安定で、どういう条件で発動できるのかが分からない」
と説明したのだが、それでも現状、打開策がなかなか見つからない中、藩の上層部から圧力がかかっており、厳しい情勢が続いていたという。
魔獣は非常に高い攻撃力、敏捷性に加え、頭も良く、少しでも自分が不利な状況になると森の中に逃げ帰るという。
三回生、四回生達の計六人は何度も全滅の瀬戸際に立たされ、その度に撤退するか、玉砕覚悟の突撃を迫られた。
大虎は、ダメージを負うことを嫌がるので突撃されれば一旦は引くのだが、突然引き返して不意を突き、一人だけ咥えてそのまま持ち去ろうとした事もあった。
そのときは大きな木に引っかかったので、それ以上連れ去ることを諦めたが、噛みつかれた巫女は複数箇所の骨折を含む大ダメージを負い、死ぬ寸前だった。
それでも、無理矢理回復呪文で生命力を回復させ、数日後には戦いに復帰しなければならない。
そんなギリギリの戦いをずっと続けてきたという。
上級生が語る、おぞましく、凄惨な戦いの様子に、最初は一回生が持ち上げられていい気がしていなかった二回生も、次第に
「一回生の優奈ちゃんならば基礎能力も高いし、なんといっても聖獣化できるのだから、接近戦でも大虎の魔獣にも対抗できる」
と推し始めた……ただし、サルの精霊ココミと巫女キヌはほぼ無言だったが。
さらに、もう一体現れたという妖魔の話を聞いて、一回生、二回生とも愕然とした。
「二体目の四つ星ランクの妖魔は、元が獣の魔獣ではない。人語を話す、大柄な男性……つまり、元々は人間なんだ……」
優奈達は、巨大な虎の化け物と、知性、感情を持つ人間型の強力な妖魔との戦いを強制させられることになっていた。
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