第19話 聖獣体
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聖獣体:
精霊の変異体。
巫女と精霊の相性度が非常に高く、かつ強い信頼関係で結ばれている場合に希に発動する。
本来、精霊は不老不死であるが、この状態になると生命力のステータスが追加され、それが0になると聖獣体は死亡し、二度と復活できない。
また、この条件を受け入れられる (自身が死ぬことを厭わない)者しか聖獣体になれない。
聖獣体が死亡した場合、巫女との契約は解除される。
聖獣体は、精霊体とは異なり敵を直接攻撃を行う手段を有する。
聖獣体がその形態を維持するためには、契約する精霊巫女の呪力を消費するため、長時間の継続はできない。
一般的にその体格は標準的な人間に比べて非常に大きく、体重では数倍から十倍に達する。
各種ステータスの数値は、契約巫女と比較して相当高いが、精霊がこの形態の間は巫女の能力値も上昇する。
また、聖獣体にしか持ち得ない特殊能力も存在する。
聖獣体が発現する可能性は、全精霊体の0.1~0.5%未満と非常に希である。
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模擬戦終了後、精霊巫女養成所の学舎に帰り、この日の総括を行うことになっていたのだが、一旦中止。
一回生、二回生共にそれぞれの教室で待機、教官二名は教官室で打ち合わせをした後、呪術具を使用して、遠征に参加している教官や所長と緊急会議を実施するとの話だった。
タクは、ステータススウインドウのコマンドから聖獣体の説明を読んで、こんな形態があったのか、と初めて知った。
そもそもその単語を知らなければ調べられない。
つい最近に精霊となってこの養成所の座学に参加するようになったばかりのタクは、それを知らなかったのだ。
それも無理はない、この南向藩で聖獣体が出現したのは、過去百年近い歴史の中でも初めてのことだった。
普段は話題にもならない。
聞いた話によると、国レベルでも現在聖獣体となれる精霊は、わずか数体という話だ(ちなみに、国の中に藩の数は大小併せて数十存在しており、現役の精霊巫女は合計三千人を超える)。
二回生との模擬戦で敗れはしたが、聖獣体が出現したとなれば、一回生の方がはるかに注目を浴びる。
その意味では、無邪気な竜の精霊であるユキアは喜び、勝ち気なナツミも「試合では負けたが、勝負では勝った」と無理矢理納得している様子だった。
しかし、巫女の優奈とハルカは微妙な表情だった。
優奈は、タクが聖獣体となって自分の身を守ろうとしてくれたこと自体は嬉しかったし、強力な戦闘力を得たという意味でも心強く思った。
けれど、聖獣体として実際に戦うのは自分では無く、タクだ。
本来不老不死で、「神」とも呼べる存在である精霊が、聖獣体となることで死亡してしまう危険が発生する。
また、今後注目を浴びてしまうことも予想できた。
まだ十三歳ながら聡いハルカも、そのことを感じていた。
今はまだ不安定だが、タクが確実に「聖獣体」に変化できるようになれば、優奈は特待生として藩どころか幕府の特別部隊に招集される可能性があるのだ。
聖獣体になれるということは、それほどの大事だった。
「やはり、あのとき優奈ちゃんを身を挺して守り、四つ星魔獣を退治したのはタク殿だったのですね」
キツネ型の精霊体、リンが優しく微笑みながらそう話した。
「あんまり覚えてないですけど、多分そうだったと思います。模擬戦では冷静になれて良かった……」
「そうですね。あのおサルさんの精霊も、自分の巫女が可愛かったので必死に止めに入ったのでしょう」
「そうですよね……やっぱりみんな、そうなんだ」
「でも、聖獣体になったということは……タク殿が優奈ちゃんを思う気持ちが、飛び抜けて強かったということです。あと、二人の相性も」
ずばりそう言われると、タクは相当照れてしまう。
優奈も赤くなっていたが、すぐに
「そう、私は、タク様のこと、とても大切に思っています。ですから、余計に心配です。タク様があの四つ星魔獣と戦ってくださったときのように、無茶なさらないかと……聖獣体では、タク様自身が命を落とされる可能性がありますから」
気遣われたタクだったが、それに対して真面目に反論する。
「俺は、いつもそんな気持ちなんだ……優奈が無茶をしようとする度に、ものすごく心配になる。だって、優奈も生命力が0になれば、死んじゃうんだから」
タクの言葉に、優奈がはっとした表情になる。
「……ごめんなさい、私、タク様にそれほど心配をおかけしていたのですね……」
自分が心配する側になって、初めて分かった……自分がどれだけ無茶をして、タクを困らせていたかを。
「いや、分かってもらえたなら、かえってそれで良かったのかもしれない。今後は無茶をしないようにしよう……お互いにだけど」
「はい……よろしくお願いします!」
優奈は少し涙ぐみながらも、元気に返事をした。
その様子に、他の精霊や巫女達も、少し妬きながらも安堵の笑みを浮かべた。
「……さて、今後はどうなるかな……『聖獣体』が出たんだから、大きな騒ぎになるだろうな……茜先生は緊急会議開くって言ってたし」
ナツミがちょと嬉しそうにそう言った。
「私は、心配です……優奈さん、せっかく一緒に戦えるようになったのに、もっと凄いところに行っちゃいそうで」
これは年下のハルカの言葉だ。
「そうだな……ほんの十日ぐらい前まで、優奈が精霊巫女になれないことを心配していたぐらいなのに、一気に追い越されちゃったな……」
「そんな……追い越したなんて、そんなことないよ。たまたま、タク様が凄かっただけで……いえ、その、リン様も、ユキア様も凄いのですが……」
優奈が自分の失言に気づき、慌てて訂正する。
「うふふっ、巫女が自分の契約精霊を特に持ち上げるのは良いことですよ。それに、『聖獣体』になった時点で特に優れた存在であるのも事実です。もっと自慢して良いですよ」
「そうだよ、タク、凄いーっ!」
リンとユキアがそう褒め称えた。
と、ここで教官の茜が教室に入ってきた。
そこで告げられたのは、意外な言葉だった。
「一回生、二回生とも、四つ星魔獣の討伐に当たっている三回生、四回生に合流して、総出で魔獣討伐に向かいます」
全員、えっ、という顔になった。
タクが『聖獣体』に変化したことに対する反応があるかと思っていたからだ。
それに、四つ星の魔獣がそれほど強力なのか、自分たちが参加して戦力になるのか、という思いが浮かび、その次に、ああ、それで聖獣体になれる一回生も必要で、面目のため二回生も一緒に行くのだな、という考えに皆、至った。
「みんな、『聖獣体』のことについて考えたかと思いますが、まだ不安定ということで、確実な戦力として考えるのは危険と判断されています。それを除いても、一回生、二回生の応援が必要な状況が発生しています」
茜の言葉に、皆、怪訝な表情を浮かべるが、次の言葉を聞いて絶句した。
「一体の四つ星魔獣に苦戦して討伐が長期化していましたが、そのすぐ近くに、二体目が出現したようなのです」
この短期間に、タクが『聖獣体』となって倒した個体を含めると、三体の四つ星魔獣が出現したことになる。
数年に一度の割合でしか出現していなかった四つ星魔獣……南向藩に一体、何が起きているのか。
疑問は尽きない巫女達だったが、それを考える暇も無く、遠征準備を急かされたのだった。
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