真珠貝になれない

さいしょから思い出だけはうつくしく夢の旅路にはじまりは無く

僕のことどうか探さないでください五億年後に帰ってくる

空は未だ届かないまま早すぎたストレートアイスティーをのむよう

べつにきみでなくてもよかったあの日ただぼくのとなりにきみがいただけ

藍色をたゆたうように離れどもいずれはここへ還るのだろう

ねつのおと漏れ出す度に吐息する これはわたしの生きられぬ音

夏蜜柑切り分けた断面の色をおぼえていますか今どこですか

一つでも二つでもまだ足りなくて金平糖を一夜でなくす

積み上げる翡翠の砂のむこうがわへ手を伸ばせども墓標などなく

瓶底のハッカみたいに甘やかで苦くてそしてやさしいままで

学名も和名もわすれてしまったが咲く場所だけはおぼえている花

スニーカー足に引っかけ歩きだす 足の赴くその先はどこ

お星様とかお月様とか枕元においても夜はまだ先

一、二、三、数えてみてもそれだけで世界もわたしも不変のままだ

手を振ればさよならなんて簡単にできてしまうから目だけを伏せる

目に入れた空の色さえちがうのに人はどうして分かり合えるか

目の前の買い物袋白すぎて知らない夜に拒まれている

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