テレビドラマ
キムタクが主演のドラマを見ていた。
主人公の風間公親は新米刑事を一人前に育てる刑事指導官なのだが、彼は ほめて伸ばす上司では無い。しごいて鍛えるというパワハラのブラック上司なのだ。期待に応えられない新人に風間の決めゼリフが飛ぶ。
「君には見込みがない。交番勤務に戻ってもらう!」
指導を受けようと質問すると、
「自分で考えて答えを出せ! 答えが出なければ交番に戻れ!」と言い放つのだ。
・・ちょっと待ってよ!・・
私はキムタクのセリフが気に障った。
これじゃあ交番勤務の警察官は能力が低いと言っているのと同じでしょうよ!
交番勤務はすべての警察官が最初に経験する現場で、能力が低い者がやらされている分けでは無いのだ。
ドラマだから面白ければ良いのだろうが これでは交番勤務の警察官に対する偏見が生まれる・・駄目な奴が交番勤務をしているのだと・・
いや、そうじゃあない・・
このドラマ作家が無知なのだ・・
いくら何でも酷過ぎる・・
こんな現場を無視したドラマは不愉快で見ていられない。
私はテレビのチャンネルを変えた。
その時携帯が鳴った。
ルルル ルルル ルルル
「はい、浜崎です。」
「ああ良かった。出て頂けないのかと思いました。私は以前レイプ常習者の政治家の逮捕をお願いした者です。」
驚いた・・
あの池袋のホテルでのレイプ現行犯逮捕逮捕を指示してきた男だ。
今度は私のスマホに
「・・それで何か?・・」
「あの節は名前も名乗らず大変失礼しました・・私は友田と申します。私は以前警視庁の刑事をしていまして いろいろ事情があって警視庁を辞めた者でして・・今でも警視庁の中に人脈が有りまして、それで浜崎刑事の事を存じているのです。決して怪しい者では有りません。私は以前にも申しましたように浜崎刑事と協力関係を作らせて頂きたいと願っていまして・・どうでしょうか、一度有って頂けないでしょうか。」
「いえ、そういうのは正直・・困るんです・・」
「あのですね・・ジャニーズの件なんですよ。浜崎刑事、・・あなたは性暴力担当刑事でしょう。捜査では無くて調査に協力して頂きたいのです。あくまでも私的にという事で・・お願いしますよ。」
「ジャニーズ?!」
「あなたが必要なんです。お願いします・・」
私は友田と名乗る男に会ってみる事にした。
友田と言う男の熱意に説得されたわけでは無く、ジャニーズの問題に心が動かされれたのだ。
私は性暴力担当なのだが、それは被害者を女性と想定して・・女性に寄り添うための刑事なのだ。男性が被害者の想定は無く、ましてや男性被害者に寄り添える知識も無い。しかし・・・
告訴が無ければ警察は動けないのだ。検察のように事件を想定して強引に操作をするような権限が無い。逮捕令状が無ければ任意で協力をお願いするしかない。そして政治的判断には踏み込めない。権力者の捜査には上の判断が必要なのだ。それを無視すれば警察を辞める事になる。
警察の上の地位に居る物は 世論にも合わせなくてはならず、法律を強引に押し付ければ世論の批判を食らう事になる。警察には世間が思うほど自由が利かないのだ。
◇ ◇
待ち合わせ場所の喫茶に入ると男は席を立ち上がり、「お待ちしていました、どうぞ・・」と言ってウエイターのように席を引いた。
「どうも・・」そう言って私は席に座る。
男は目の横に
「今日は無理を言って申し訳ありません、私はこういう物です。よろしくお願いします。」
話し方までキムタクみたいだ・・
・・探偵事務所ライフ・・
社長 友田 大樹
情報収集・捜索・調査・・・
「刑事を辞めて探偵をなさっているのですね・・どういう
と私が聞く。
「良くある行き過ぎた捜査をやりましてね・・相手が悪かったんです。違法捜査で訴えられまして・・結局裁判で負けましてね。相手は無罪放免・・私は刑事が嫌になったのと、まあ・・責任を取って辞めたんです。それで探偵をやっているんですが・・・私が元刑事というのもあって、いろいろな調査案件が持ち込まれるんですよ。表には出せないと言うか・・警察には持ち込めない案件です。まあ食うには困りません。」
そう言ってキムタクは・・いや、友田は私の反応を見るように私の目を見る。
「ジャニーズの調査って言われましたよね。それはどういうお話なのですか?」
「それはですね・・ ある団体からの調査依頼でして・・ 浜崎刑事はボーイズラブBLってご存じですよね。つまり・・男と男の恋愛やセックスを扱ったアニメや漫画の事なのですが・・」
「はい、知っていますがそれが何か?」
「大変失礼なのですが、浜崎さんは動画の中で BLの方たちと絡んでいらしたから・・その世界の事は詳しいですよね。」
「いえ、あれは・・私が付き合っていた男性がたまたまBLだっただけで・・私は巻き込まれたんです・・私がBLを好きと言うのではありません・・ ちょっと待ってくださいよ。それと何の関係が有るんですか?!」
「ああ、いや・・ どう言いますか・・ 」
友田さんは口籠りながらこう切り出した。
「腐女子って知っていますか? つまり、腐れと言って、ボーイズラブを見て興奮する変わった性癖の女です。」
「知っています。でも私はそうではありませんよ。さっき言ったように私は巻き込まれただけでBLが好きな訳けじゃあ有りませんから!」
何か私が調査されているような気持になり、私は語気を荒げた。
「いや、別にあなたの事が知りたいのではなくて・・あの・・ ちょっとここでは何ですから、私の事務所に来て頂けませんか。歩いて数分の所なんですよ。あまり人に聞かれたくない話なので・・」
私は個人的な事に踏み込まれた気がして苛立ったが・・しかし彼は私の動画のコピーを持っているのかも知れないのだ。ここは落ち着いて話の続きを聞くしかない・・
◇ ◇
彼の事務所は近くのオフィスビルの6階に有りエレベーターを降りて直ぐの場所だった。ドアに・・探偵事務所ライフ・・の表示がある。
部屋に入ると若い男性社員が出迎えて、私に軽く挨拶をする。
「あ、何か飲まれますか・・コーヒーか紅茶でも・・」
「それでは紅茶を・・」
「吉田君、紅茶を2つ・・」
「はい、」
奥に大きなガラステーブルが有り、それを囲むようにソファーが有る。
私は勧められてそのソファーに座った。
「今回のジャニーズの件は・・あるYouTubeをやっている人たちで造るネットテレビからの依頼なのです。彼らは情報の民主化を進めていましてね・・つまり、テレビや新聞は情報を隠すので誰の元にも公平に情報が届かない。それは今回のジャニーズ問題で露呈しましたよね。 テレビや新聞は40年もジャニーズの性被害を報道せず・・それによって1000人を超える被害者を出したのです。それでは民主的とは言えませんから、YouTubeで情報の民主化を実現しようとしているのです。」
「なるほどね、そうやって被害者を少なくしようと言う訳けなんですね・・それは大事な事だと思います。で・・私がする事は?」
そこへ社員が紅茶を運んできた・・
彼はまるで高級レストランのウエイターの様な物腰で紅茶を置くと、
「それではごゆっくり・・」
と言って奥の部屋に消えた。
「浜崎刑事、・・末広真奈美を覚えていますか・・去年の春ごろに男に付きまとって接近禁止命令を出された女です。あれは浜崎刑事の担当でしたよね。」
「ああ、覚えています。たしかテレビ局の・・でもあれは解決済みなんですが・・」
「彼女ね、ジャニーズの担当なんですよ。覚えていますか・・以前アニメのBL作品を ジャニーズのタレントを使って再現したドラマがあって、その中でジャニーズのタレント同士がキスをするというので、随分評判になりました。あのドラマの企画は彼女なんですよ。」
「あの末広真奈美が企画したのですか?」
「そうなんですよ。私の想像では広末は
「それで?彼女が
「
「わ、私は腐女子じゃあ無いから、レイプだと思っていますよ!」
「いや、あなたでは無くて・・広末がです。広末がどうしてあのドラマの企画をしたのかですよ。彼女はジャニーズの性被害疑惑にBLとしての興味を持っていたのだと思うんです。もしそうならですよ・・心情的には共犯のようなものですよね。その辺りを知りたいのですよ。この問題に
「それを私が? どうやって?」
「末広真奈美に接近してください。何度か会っているのだから可能でしょう? そして・・あなたは同類の
「え!・・私にそんな事が出来るのでしょうか・・」
「出来ますって。いや、やれるのはアナタしか居ないですよ。ジャニーズの横の連帯を崩すには女たちの恥部を暴くしか有りません。どのテレビ局も担当や企画をやっているのは女なんですよ。この性虐待疑惑を知るにはジャニーズを取り巻く女たちを調べるしかありませんよ。やり方は浜崎刑事に任せます。末広真奈美から情報を取ってください。」と友田さんは迫ってくる。
私は紅茶を一口飲んでほっと溜息をついた。私に出来るのだろうか?末広と友達になって聞き出すなんて・・まるで潜入捜査のように・・
気がつくと、外は暗くなっていて窓の下は町の明かりが灯っていた。
「ここって夜景が綺麗に見下ろせるんですね。」
私は立ち上がって窓のそばに立った。
人の群れ・・
光の当たっている所は美しく・・
当たらない所は醜い闇が迫る・・
1000人を超える少年がモンスターに食われたのだ・・
加害者が死亡とは言え放っておけない・・
出来る事はやらなくては・・
私の後ろに友田さんが立ち・・
「夜景が綺麗でしょう。この夜景が気に入ってここに事務所を決めたんですよ。」
それには答えず私が言う。
「友田さん。私 やってみます。」
「やって頂けますか、良かった・・」
美しい夜景・・
窓ガラスに私と友田さんが並んで写っている・・
私は振り向かずに言う・・
「友田さんにお願いが有るのですが・・私の動画のコピーを廃棄して頂けませんか。あれは私・・本当に困るんです。あれが無くても協力しますから。」
ガラスに映る友田さんが私に寄り添って言う・・
「分かっています。コピーは有りませんから、信用してください。」
「本当に・・本当に困るんです・・」
友田さんが私の肩をそっと抱いて言う・・
「大丈夫だから・・僕を信じて・・」
何故だか涙が頬を伝う・・
見下ろす街の灯・・
行き交う人々の影・・
人の群れ・・群れ・・群れ・・
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