出張防犯教室



東京都には20校以上の女子大があり、毎年春になると多くの大学が、新入生向けの防犯教室を開く。その多くに私が講演者として出向くのだ。講演の内容は、実際に起きた事例をもとに、防犯意識を高める為の講演をする。



「はじめまして。私は警視庁から参りました浜崎由美子と申します。

私は主に性犯罪担当の刑事をしております。 今日は実際に起きました犯罪事例をもとに、どういう場面で事件に巻き込まれる危険性が有るのか、どういう対処法が有るのかなど、具体的にお話をしようと思います。


最近、都市部では押し込み強盗が多発しています。

皆さんに一番注意して頂きたいのは、アパートに帰って一人になる時です。帰宅して部屋に入ろうと鍵を開けた所を、後ろから押し込まれるわけなんです。もしそうなると犯罪者と密室に二人になりますから、どうする事も出来ません。


若い女性の場合は強盗被害だけではなく性暴力被害を受ける事が多くなります。ですから、周りに人がいない事を確認してから鍵を開けて下さい。部屋に入ったら直ぐに鍵を掛けるのが基本です。


表札に女性の名前を書くのも危険です。犯罪者に目を付けられますからね・・父親の名前を書きましょう。一階はベランダや窓から侵入らされることも有りますので、出来れば一階を借りない方が無難ですよ。


最近多いのは宅配業者などを装い、ドアを開けたとたんに押し入られる事件も多発しています。必ずドアチェーンを掛けたままで対応してください。荷物はドアの外に置いてもらって、後で誰もいない時に取りに出るようにして下さい。


警察官が来た場合も注意が必要です。警察手帳・制服も、偽造したりネットで買えたりするようですから、安易に警察官を信用してはいけません。


警察が相手の場合でもドアチェーンを掛けたままで対応して下さい。まず相手の警察官に所属と氏名を確認してください。そして警察に電話をしてホンモノで有るかを確認します。その際は110番ではなく#9110(警察相談専用電話)にコールしましょう。


#9110シャープキュウイチイチマルは全国どこからでも、電話をかけた地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながります。

「○○署の誰々という警官が来ておりますが本当ですか?」

と確認を取ってください。本物じゃあ無かったら、その場で”偽警察官が部屋の前に居ます!”と通報してください。


レイプに関しましては残念ながら、デフォルトとしての世間の認識に歪みが有ると、私は思います。それはレイプを犯した加害者が責められるのではなく、被害者の方に原因があったと世間が思う事です。


例えば、被害者の女性が露出の多い服を着ていたからとか、被害者が夜遅くに暗いところを独りで歩いていたから悪いのだとか、不注意に下着をベランダに干したからだ、などと被害者を非難したり蔑む認識が有るように思います。


マスコミの対応を見ましても、加害者が注目されるのではなく、性暴力被害者の方に注目し、被害者を好奇の目で見るような報道が多いですよね。


裁判になった時にも、証人(被害者)が証言をすることでさらに苦痛を味わう。これがセカンドレイプです。こんな事ですから被害にあっても訴える女性が少ないのです。日本では訴え出る人が4%だと言われています。これは異常なことだと思います。


私はこのような男性目線の社会から女性被害者を守るために刑事になりました。しかし、まだまだ微力です。


最高裁判事も14人中、女性判事は2人だけですから、男女共同参画社会には程遠い現状が有ります。どうぞ皆さんも社会に出たら女性の人権を守るために頑張ってくださいね。


そろそろ時間になりましたので、私の話はこれで終わります。今日はお話を聞いて頂き有難うございました。」



講演の後パネルディスカッションが有ったが、私の刑事としてのキャリアについて質問が集中した。女学生たちが警察職員に興味を持ってくれるのは、とても嬉しかった。


大卒が警察試験に受かれば、その後は警察学校に入り、1年3か月の勉強と訓練で警察官になれるのだ。ぜひ挑戦してほしい。



   ◇  ◇



その日私は 仕事が終わった後 慎二と中野に行った。中野は私の好きな街だ。

中野駅北口を真っすぐ・・中野ブロードウェイの2階にBar Zingaroバー ジンガロがある。現代美術家の村上隆さんがプロデュースしたお店で、お茶をするだけではなく、アート作品を見たり、お酒を飲みながら話たり出来る、落ち着いたお店だ。


この店での私のお気に入りは”お花抹茶ラテ”だ。 抹茶の香りと蜂蜜の甘みがマッチしていてとても美味しい。私はここに来ると必ず抹茶ラテを注文するのだ。


今日の慎二は、中性的なパンクファッションで決めている。金髪ショートヘアーに、自前の長いマツゲをマスカラで強調し、黒アイシャドウを入れている。 まるで女が男っぽく決めているように、バッチリ決まっている。今日の慎二は妙にエロ可愛い。



ピポッ・・ 《今何処にいる❔》


荒木君からLINEだ。


《中野のバー ジンガロなんだけど、来れる?》


ピポッ・・《20分ちょっと掛かるけど・・》


《良いよ、待ってる。》



「私の彼が近くに居るみたいだから・・来るって言うから、もう少しここで時間をつぶそうよ。」


「彼って、新しい彼?」


「あー・・そうね。 彼はドラエモン体形でさあ・・あまりカッコ良くないんだけど・・ めっちゃ頭が良くてさあ。IT系のオタクって感じかな。」


「相変わらず由美子さんって、秀才フェチですね。」


「そうかもね・・ 私は、相手の頭の悪さがチラつくと、ドン引きしちゃうんだよね。」


「それ解る! イケメンでカッコ付けている奴だと特にね(笑) 引く引く!(笑)」



慎二と他愛ない話をしていると、荒木君が店に入って来た。


「お待たせ。あれ! 連れが居たんですか・・」


「あ、こちらは、しんちゃん。 こっちは荒木君ね。」


「初めまして、荒木です。 なんか彼女・・カッコ良いいですね。」


「可愛いでしょう! 私の彼女なんだから、手を出したら駄目だからね。」


「意味不明なんですけど(笑)・・それって同性愛的な?」


「そうだよ。私ってそっちの方も有るのよ。知らなかった?」


「いや、全然・・ていうか僕をからかってますよね(笑)」


「あなたは私の彼氏、しんちゃんは私の彼女。つまり両手に花なのよ。」


慎二が女みたいにフフフと笑っている。荒木君は慎二が男だとは気が付いていないようだ。


「ねえ・・楽蔵が空いてるみたいだからご飯食べに行こうよ。」


とスマホを見ながら慎二が言う。


「楽蔵、良いですねえ!僕はあそこ好きなんですよ!鍋を囲んで一杯飲みましょうよ!」


と荒木君が答える。彼は女二人に囲まれてか、変にテンションが高い。


楽蔵は全席個室になっていて、他の居酒屋に比べると、高級感のある落ち着ける店だ。この店は店員の対応の良さでも評判が良い。私たちは楽蔵に入ると4人用のこじんまりした部屋に通された。


慎二がもつ鍋が食べたいと言うので、もつ鍋を注文した。慎二が荒木君にお酒を注ぐ仕草が、可愛くて色っぽい。今日は荒木君の口元がにやけている。


「いや~何か、良いですねえ・・ 美女二人に囲まれてお酒を飲むなんて、僕にはあり得ない事ですからね・・(笑)」


「荒木君さあ、しんちゃんみたいな中性的な女の子ってどおなの?」

と私が聞くと、


「どおって、ど~なんですかねえ・・由美子さんも少し中性寄りじゃあないですか・・僕はユニセックス的な魅力の人って好きなのかもしれませんね。」

と答える。


「そうなの?・・私って中性寄りなの?」

と私が言うと、


「由美子さんは黒いスーツが似合うし、可愛いって言うよりカッコいい方ですからね。」

と荒木君が言う。


「そうだよね、由美子さんはカッコいいよね。一緒に居ると安心する。」

と慎二。


「そうなんですよ。 それでいて時々エロ可愛い雰囲気に変わるから、そういうところがね・・」

と荒木君。


「あ!分かるう~・・そういうとこが、胸キュンって来るよね。」

と慎二が同調する。


「女でも分りますう?」

と言いながら荒木君がお酒を開ける・・すると慎二がお酒を注ぎながら、


「荒木さん、エロ可愛い子が好きなんですか?」

と聞く。


慎二と荒木君は相性がいいみたいで話が合うようだ。3人のまったりとした時間が流れていく。私は少しお酒に酔ったようでぼーっとしている。会話は荒木君と慎二に任せて、二人を会話を聞くともなく聞いている。


「由美子さんってね、秀才フェチなんですよ。頭の良い人に胸キュンになるんです。荒木さんは頭よさそうだから・・ 私も荒木さんはタイプかも・・」


「本当に? 嬉しいですねえ・・なんだかなあ・・今日は盆と正月だなあ。」

荒木君の声が裏返っている。


・・荒木君って・・慎ちゃんと・・

・・一瞬、頭の中をいやらしい妄想が横切る・・

・・ヤバイ、ヤバイ、慌てて妄想を打ち消す・・

今日は酔ったみたいだ・・



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