老龍

@iryslire

第1話 飛翔

龍は旅を続ける。


黒耀石の色に光る流木のような身体をうねらせて山々を超えていく。

鱗は剥がれ脚は片足が取れ、元々足のあったところには白い布切れが包帯で巻きつけられている。


今は、どこだろうか。

機械仕掛けの煉瓦造りの街の近くを飛んでいる。


中央にそびえる城壁が美しい国だなぁ。と思って龍は突然速度を上げた。


次の瞬間、光が走ったかと思うと龍は小さくなって大空から姿を消した。




時計の国ダグラム・クロノス

     第三十五番街 街門にて


「あ、ちょっと!じいさん。あんたそんな汚れた格好でどーしたんだい!」


一人逞しい白髭を蓄えた老人が砂まみれの身体を引きずって街に入っていくところを門兵に止められていた。


「あ~、こりゃ失礼。少し仕事がありましてな。」


「砂まみれってこたぁ砂時計の砂集めですかい?」


「はぁ…まあそんなところでございます。」


「珍しいなぁ、今時砂時計だなんて。

最近は腕時計なんてぇのも作られてんのを知らんのかいじーさん。」


門兵は右腕に付いた機械仕掛けのそれをチラチラと揺らして見せつけた。


「ほぉ、本物は初めてみましたよ。

なかなか高価ですしなあ、わしにこんな仕掛けを作る技術はないですし。コイツぁ珍しいもんをありがとうございます。」


「まあな、俺も給料一年貯めて安くなったのを買ったのよ。担当区画がせめて10番街とかだったら3ヶ月も働きゃあ買えるんですがね。」


門兵はため息を付きながら言った。


「若者が諦めるのにはまだまだですよ。これからですから。」


「いやでも、じーさん。あんたはずっと砂時計でやってんのかい?するとな、俺もずっとここにいるんじゃあねえか、毎朝ここまで来てずっと立って見守ってってしねえといけねえのかなって気になってしまうんだよ」


「ふふっ。こんなじじいにも誇れることはございますからなぁ」


「そりゃ何だっていうんだよ」


門兵は疑問そうに聞き返す。


「この国の礎となったのはなにかご存知か?」


「そりゃあ…この機械じかけたちだろ?」


「違いますよ。そんなものよりもっと昔に一人の男がここの砂漠の砂で作った一つの砂時計が始まりなんですよ。それがここ砂の国です。」


「でも砂の国はもう滅んでるだろ。ここは時計の国のダグラム・クロノスだぜ?」


「そうでしたか‥もうグラハム王はいらっしゃらない?」


「おいおいじーさん。あんたそりゃ教科書の人じゃねえか。何百年前の話してんだよ。」


「そうですかい、ありがとう若い門兵さんよ。わしは城を見に行きたいんですがね。」


言った途端門兵は疑問そうに笑った。


「じーさんどっから来たんだい?そりゃ一番街に行けば見られるけど十番街から先には貴族様か魔王軍の関係者じゃねえと入れねえよ。」


「そうでしたか、結構。」


用が済んだのか、老人は門兵に一礼をすると離れていった。


「おい、じーさん!仕事頑張れよ!」


門兵は老人を見送ると足元に一つ袋が落ちているのに気がついた。


「じーさん!砂忘れてるぞ!」


視線を戻すとそこにはいつも通りの貧民街が広がっていて、先程の老人は見当たらない。


「やれやれ‥っと。」


袋を拾い上げるとそこには見たこともない言語でなにか書いてあった、不思議に思い裏を見ると、見慣れたグラム語で『門兵さんへ、砂時計も悪かないですぞ。』と書いてあった。


門兵は驚いて中を見ると一つの砂時計と砂金が大量に入っていて、砂時計を砂金の中から拾い上げるとそれには

『龍王オピーオン=イアドロイ 砂王ドラハン・グラハムより友好の証』

と彫られていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

老龍 @iryslire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ