第2話 赤の竜姫
「ねぇネネ、よかったら私たちとパーティー組まない?」
「え?」
ワープゲートの前で話していると、急にクレアが言い出した。
パーティーというのは、少人数でチームを作りダンジョンに行ったり一緒に冒険する仲間のことだ。
「いやいや!わかるよ!!ネネがパーティーとかギルドとか苦手なのわ!」
クレアが私の顔をうかがって慌てて言い換えた。
そんなに顔に出てたかと思い、目をそらしてしまった。
「でもさ、この世界もう前とは違う気がするしたぶん1人だと大変だと思うんだよ!」
それは私もそんな気がしていた。すでにゲームだったころと違うとこらが多すぎる。
「それにね!シーちゃんがこんなに早く心開くと思ってなくてさ!この子ほんとに人見知りだから違う人と組むってなったときた大変だと思うの」
隣にいるシルラを撫でまわしながらクレアが言ってくれた。
「わ、私も!ネネさんみたいな方と一緒に冒険してみたいです!」
こんなにも考えてくれてうれしい。この2人の力になってあげたい。そう思った時には、言葉はすぐに出ていた。
「ありがとう。私はすごい恵まれてるみたいだわ。2人を支えられるように頑張るよ」
そう言うとクレアが満面の笑みになり、隣のシルラもニコニコしている。そんなに喜んでくれる2人のためにもこれから頑張っていこう。
「今ってもう外に出てる人いるの?」
パーティーとして一緒に行動することになって、これからどうするのかを3人で話し合っているとき、クレアが聞いてきた。
「そうね、初日は怖がって出る人いなかったけど今はそこそこ出てるらしい」
こっちの世界に来てから死んだときどうなるのか分からなかった。だから外に出る人はいなかったんだけど、昨日の夜に初めて死んだ人が出たらしい。その人は[教会]へと送られた。
つまり、死んでも元の世界に戻ることはできないし死んでも本当の意味での死ぬわけではない。事実上の不死となったんだ。
「せっかくだしさ!外行ってみない?」
「たしかに、私たちはレベル上限ですからこの街の周りなら死ぬリスクは少なそうではありますよね」
「でしょでしょ!ネネも行ってみたくない?」
「うーーん、まぁそうだね。戦い方もゲームのころと同じとは限らないし行ってみようか」
「やった~~!!」
鎧を着ているのに嬉しそうに軽々と飛び跳ねてるクレアを見て、1つ疑問が浮かんだ。
「ねぇクレア、その鎧って重くないの?」
「あーこれ?それが全然重くないんだよねー」
なるほど。
たぶんそれは…
「もしかして筋力高めにしてる?」
「え!?ウチそんな筋肉質じゃないよ!?」
クレアが恥じらうように自分の体を手で隠しだした。
それは見ればわかるよ。
「違くて、ステータスの[筋力]の話」
「あ、あーステータスね。うーん高めには上げてたかな~ 盾とか剣とかも[重量]の項目あったし[重量]の数値より[筋力]の数値が高くないと使えないってのがゲームの時の設定だったもんね」
「多分だけど、自分の感じる質量の感覚は自分の[筋力]に依存するんだと思う」
「なるほどねーてことは他のステータスも結構自分に依存してるかもしれないってことね~」
「そういうのを確かめるためにも実践してみましょうか」
「おっけぇ」 「はい!」
この世界での[外]にはモンスターと呼ばれる狂暴な生き物がはびこっている。基本的にはそういったモンスターを倒してドロップするアイテムやお金が欲しくて冒険者は戦う。
私たちは外に出て戦闘を経験することになったけど、正直心配なところは2つある。
1つは戦い方が同じじゃない可能性があること。それに関しては[アズマ]の近くのモンスターは弱めだしあまり心配はしてない…。
問題はもう一つの方、私が心配なのは基本的じゃない人達。つまり…
「ネネ~出てきたよ!」
「も、モンスター名は[オーク]!レベルは20!数は3です!」
考えていたらクレアとシルラの報告が聞こえた。
今はこっちに集中しよう。
「クレア!」
「はいよ!【ガードタウント】!」
私の声に反応してクレアがすぐにスキルを使った。【ガードタウント】は相手のヘイトを30秒だけ強制的に自分へ向けさせることができる[守護戦士(ガーディアン)]のスキルだ。[オーク]たちは目の色を変えてクレアに走っていく。
それを見て私は大きくジャンプした。
「【式神 鏡凛】!!」
「おーーえらいねシーちゃん」
【式神 鏡凛】は[陰陽師(ソーサラー)]が使える単体強化バフスキルで7秒間近接攻撃力と移動速度が上がる。
[陰陽師(ソーサラー)]は札を味方や敵に張ることでスキルの効果を発動できる。当たらなければ詠唱しても効果は発動しない。意外とエイムが必要な職業だ。その代わり[陰陽師(ソーサラー)]は札を最大5枚まで空中に待機させられる。
さすがクレアの妹。タイミング完璧だね。
シルラちゃんは一発で空中にいる私に札を当てて、しっかりと札を4枚待機させている。
えらすぎかも。
「【リストカイト】!【水燐の舞】!」
空中で詠唱して音楽に身を任せ、クレアから1番遠い奴の後ろに着地し、同時にそいつの胴体を真っ二つにする。
あとは前から順番に。
2体目は心臓を一突き。最後にクレアと対面している奴の首を跳ね飛ばす。
3体目の首が落ちるかどうかのところで[オーク]は分散した。
ふぅ…と一息つこうとしたとき……
「きゃああああ!!!」
私たちの後ろからシルラちゃんの悲鳴がした。
シルラが[サイトプラント」に足をつかまれてぶら下げられている状態になっている。「助けに行かないと」とクレアが認識したとき…
――――――――――――シュパッ
一瞬。
サイトプラントは真っ二つになり、分散された。
隣には赤い竜の鱗を纏い、長くしなやかな尻尾を持つ、凛とした女の子が立っている。
クレアが懐かしい物を見るかのような目で、
ネネにお姫様抱っこされているシルラは目をパチクリさせて何が起こったか分からない様子でネネを見上げた。
「大丈夫?シルラちゃん」
「ぁ、ふぁい」
「そっか、それならよかった」
「おーい、そこのお姉ちゃんら。今消えたモンスター倒したのあんたらか?」
こっちが早く一息つきたいときに話しかけてきたのは4人パーティーなんだろうと思われるプレイヤーだ。
「…そうですけど。何か用ですか?」
「いや~わりぃだが、教会送りにされたくなかったらドロップしたもの全部置いてってくれんか?」
「それってもしかして~PKってやつですか?」
「わかってんなら、さっさと置いてってもらおうか」
プレイヤーキル。通称PK。ゲームのころは運営が機能していたからPKなんてものはなかったが、今は違う。
運営なんてものもいないこの状況だ。もしかしたらモンスターを倒すよりも効率がいいと思う人はいると思っていた。
そうこれが私が心配していた基本的じゃない人のやること。
「どうするの~ネネ」
クレアが小声で確認をしてきた。
「…正直この3人なら負ける気はしないけど。さすがに連戦だからね」
「私なら大丈夫です!お2人のサポートは全力で頑張ります!」
「ネネの心配事がなくなったみたいよ?」
ニヤニヤしてきて。まったく、クレアにはお見通しだったみたい。
「せっかく私たちが倒した奴だし癪だから、さっさと倒しちゃおうか」
「そうこなくちゃ~」
「ぶっ倒される準備はできたんかい」
「わざわざ待っててくれてありがと♪御託はいいからはやくおいでよ~」
「うっせぇ!【タントオーバー】!!」
「【オールエフェクト】!」
クレアが煽るから2人が突進してきたじゃん。
【タントオーバー】は[武人(サムライ)]のスキルで10秒間近接防御力と移動速度が上がる。【オールエフェクト】は[双剣士(ブレイド)]のオールステータス上げるバフスキル。
「敵4人![武人(サムライ)]、[双剣士(ブレイド)]、[医療神官(プリエスタ)]、[付与術師(エンチャンター)]です! 全体付与かけます!【術式 彩曄】!」
慌てずに報告して、人数不利だから最初に全体バフの【術式 彩曄】を使って味方ステータスを30秒間大幅に上げる。
ほんとにサポートとして優秀すぎる。
「は~い、通行止めでーす。【ガードタウント】!」
私と相手の間に入り、クレアがヘイトを稼ぐ。
「チッ、まずはこのタンクを潰すぞ!」
「【リストカイト】、【逆火の舞】、【水燐の舞】」
【リストカイト】は音楽が30秒間鳴り続けるだけ。このスキルは[踊り子(ダンサー)]が一番最初に覚えるスキルであり、この職業が不人気の理由。
[踊り子(ダンサー)]はそういった味方にも敵にも自分ですら影響を受けないスキルが多い。
「そんな音鳴らすだけの職に何ができる!!」
答える気もない。クレアがヘイトを受けてるうちに手前から殺す。
敵の間を縫うように踊って。
「【カウンターオブロック】!」
「【式神 鏡凛】!!」
私の行動を見て、ほぼ同時にクレアとシルラちゃんが詠唱した。
【カウンターオブロック】は8秒間ダメージを完全に遮断しその間受けたダメージが反射する。その代わり動くことはできない。
2人とも私が全部倒すと信じてくれてる証拠だ。
「まずは1人目」
1番近くにいた[双剣士(ブレイド)]の体を八つ裂きにした。
次に狙うのは[医療神官(プリエスタ)]と[付与術師(エンチャンター)]。
支援されるとめんどうだからだ。
「【サジカルビート】!」
【サジカルビート】は[踊り子(ダンサー)]が後半で覚える数少ない範囲攻撃スキル。割合ダメージと1秒間スタンをくらう。
バフを大量にもらっている今ならHPは残り2割まで減る。
敵の2人は焦りながら何かを詠唱しようとしたんだろうけど、もう遅い。
あとは、両方の首を切って殺すだけ。
3人が死んだところでクレアの【ガードタウント】の効果が切れたんだろう。[武人(サムライ)]が後ろにいる私の方を向く。
「なんで、その職でそんな動きができる!??まてよ、、お前は、ゲーム初期のころにいた、、 あの、、、」
最後まで聞くことでもないし話すこともない。
勢いよく加速し話している途中の敵の体を真っ二つした。
その場にはドロップアイテムと分散する寸前に言ったのだろう敵の一言だけが残った。
「赤の…竜姫……」
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