第一章

第1話 導き

「なに…ここ…。」


 あたりを見渡すと見覚えのある街並み。特別新しくもなく古くもない。この状況もそうだ。既視感のある何度も感じたこの浮遊感。


「ここって、[アズマ]だよね。でも、ログインした記憶なんて…。」


 たしか昨日はログインする時間がなくて、アップデートが来てたからそれだけして寝たはず。なのになんで私はこの世界に来てるの?

 しかもなんか妙にリアルというか感覚が研ぎ澄まされてる感じ…。

 ...

 試しに呼んでみるか。


「LiA。聞こえる?」

『はい。何か御用でしょうか』


 このゲームのアナウンス兼案内人のLiA。反応はするし受け答えもできてる。

 でもなんか、テンプレートの会話なのにこれも違和感あるな…。


「ここは<Moon・Licht・Online>であっていて、私はネネであっているわよね?」

『?もちろんそうです。私が存在できるのはこの世界だけですし、あなた様はネネ様です』

「ん!?」


 おかしい。おかしすぎる!

 なんで機械だったLiAがこんなにも流暢に話せてるの!

 まさか…そんなことあるの…?


「…」


 いつものように指を縦にスライドさせる。

 その瞬間目の前に広がるのはいわゆるウィンドウ画面だ。

 ここまではいい。いつも通りではある。問題はここから。

 持ち物のタブを押し、その中のナイフをウィンドウ外にドラッグアンドドロップする。

 そうすることで手元にナイフが出た。


「あーこれは…」


 思わず苦笑いしてしまった。重みがある。本物のような質量感に手触り。この時点でほぼ確定だけど、念のため確かめるか。


「いっっ」


 うん、ちゃんと痛い。


 でもたぶんある程度は軽減されてそう。現実のナイフで切ったときよりずっとまし。これはあれだ。異世界転生的なあれだ。

 まさかよりにもよって1番やりこんでたゲームに入るとはびっくりだけど…。

 とりあえずやるべきことは現状の確認と情報収集かな。



「うーん」


 しばらく歩き回って疲れたので宿を取り、部屋で考え混んでいた。


 わかったことはいくつかある。

 まずログアウトすることはできない。幽閉されたと考えられるだろう。

 次にこの世界に来たのは私だけではなく、たぶん全プレイヤーだと思う。さっきは離れていて気が付かなかったけど結構な騒ぎになっていた。ギルドに入っている人は今も集まって冷静になろうとしている。

 そうでない人はまぁいろいろしてる。泣き崩れたり、NPCに訴えたり。

 ただ、誰も[外]には出ていない。

[外]はモンスターが生息している場所のこと。街中は戦闘禁止エリアだから誰も死ぬことはない。

 しかし、現状1番の問題はそこ。


 死んだらどうなる?


 ゲームだったころは死んだら[教会]で生き返ることができた。

 でも今は違う。ゲームと同じと考えるには明らかにリアリティがありすぎる。だからこそ死への恐怖が高まっていて誰も[外]に出ようとはしない。

 さらに、予想はしていたけどLiAと同じようにNPCが自分の意思を持って行動しているということ。ゲームのころはワンパターンな会話だけだった。これでは普通の人間と変わらない。だからこそ扱いに困っているのが現状ね。

 そしてもう1つ……ん?


 ピロリ♪ピロリン♪


 何回か音が聞こえてから気が付いた。

 <念話>の音だ。<念話>はフレンド登録をお互いにしている状況で使える機能だけど、すっかり忘れてたな。


「ん?クレア!?」

『もしもーし、ネネ~聞こえてる~?』

『聞こえるよ。クレアもこっち来てるんだ。』

『そうなのー!いろいろ嚙み合っちゃってねー。もしよかったら明日会える?』

『うん、最初のところで大丈夫?』

『いいよー!いっぱい話したいことあるから!また明日ね!』

『またね、おやすみ』


 通話を終えて知り合いの声を聴いてどっと疲れが出たのかそのまま意識が落ちていった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おーい!こっちー!」

「クレアー!ひさしぶり!クレアも復帰してると思ってなかったわ」


 待ち合わせ場所に行くと赤髪の女の子がこちらに向かって手を振っている

 翌日になって会ってみたら、しっかり私の知っているクレアだった。


「いや~これがほんとに偶然なんだよね~この子に昨日誘われてぐーぜんアップデートしちゃってたのよ」

「この子?」


 パット見た感じ見当たらないけど…


「あれ?いないし!!」

「もしかして、あの子?」


 私の正面…クレアの後ろの木からひょこっと顔をのぞかせてる女の子を指さす。


「あーまたそうやって人見知りしてー。初めて会うんだからちゃんと挨拶しなきゃダメでしょーー」


 そうクレアが言うと後ろの女の子は恐る恐るこっちに向かってきた。


「ほれ、あいさつ!」

「し、、シル、、シルラって、言います…。。姉さまの、、、妹です。よろしくお願いしま…。」


 声を震わせ頑張っている女の子はシルラと名乗り、

 最後まで言い終わる前に後ろの木まで猛ダッシュしてしまった。


「あーもう!ごめんね~あの子極度の人見知りで初対面の人にはだいたいこうなっちゃうんだよね」

「んーん、気にしてないわ」

「それより妹って、あの言ってた子?」

「そうそう!ネネには何回か話したことはあるもんね。改めて紹介するね。ウチの実の妹で[クイーン]の[陰陽師(ソーサラー)]でレベルは上限の75だよ。ウチとは反対の戦闘スタイルなんだよねー」


 クレアは[ルーク]の[守護戦士(ガーディアン)]でレベル75。

 見た目はエルフの耳がある赤髪のショートカットで、本当は華奢なのに所々にオレンジの線が入った鎧を着てるせいで見えていない。


「自己紹介もしたいし、街歩きながら話そうか」


 そう言って私はシルラちゃんに近いて少しかがんだ。


「初めまして。私はネネ。シルラちゃんと同じ[クイーン]で[踊り子(ダンサー)]。見た目は竜人見たいだけどあまり怖がらないでくれるとうれしいなぁ」

「こ、こちらこ、そ…。[クイーン]で、[踊り子(ダンサー)]って、、めずら、しい、ですね…。」

「やっぱりそう思うよね~。そういう話もしたいし歩きながら話そうか」


 待っていたクレアがニコッと微笑み3人で街の方に歩きに行った。


 道中で私とシルラちゃんは色々話した。私の見た目は竜人のように赤竜のしっぽがあり腕には赤い鱗があって黒髪1本縛りもしている…。そりゃ怖いよね…。

 ゲームの時から怖がられてたし…。このゲームでもあまり見かけないのもあるだろうけど。


 この世界での容姿は自分のイメージしたものになる。誰かと被ることはほとんどなくこのゲームが人気の理由の1つだ。

 こんな私と比べシルラちゃんは何でこんなかわいいんでしょう。巫女服にきれいな銀髪。加えて狐耳ともふもふしっぽ。こんなかわいい子がいていいものか。としみじみしていたら、シルラちゃんが話しかけてきた。


「ね、ネネさんはなんで[クイーン]で[踊り子(ダンサー)]を選んだんですか?」

「あーそれねー[クイーン]を選んだのは【創造】が気になったからかな」

「わ、私は【創造】難しそうで取ってないんですよね…。」


 この世界での[クイーン]という種族は唯一【創造】というスキルが使える。種族を選ぶときに【創造】を取るか取らないは自由に選ぶことができるがほとんど取る人がいない。理由は…


「まぁ取らないよね。この世界始める時わからないこと多すぎるし」


 6つある種族でそれぞれが持つ唯一の能力は【オリジナル】と呼ばれている。

【オリジナル】はこの世界に来て初めて詳細を知ることができる。加えて、15の専門職業の詳細も【オリジナル】と同じ仕様になっていて、選ぶ時には詳細を知ることができない。

 そのため、わからないことが多く初期で完全に詰む可能性があるから選ばなくてもいい【オリジナル】は選ばない人が多いというわけだ。


「私の[クイーン]と[踊り子(ダンサー)]のペアは事故といえばそうなんだよね。[踊り子(ダンサー)]っていう名前で戦士系職業の欄にあるのがどうしても気になっちゃってね。そしたらとんだ不人気職だったわけですよ…。」

「それは、、なんて言ったらいいか、、。」

「ふふ、気を遣ってくれてありがとね。私はこの職気に入ってるから大丈夫よ。」

 そういいながらシルラちゃんをよしよしした。うん、やわらかい。


「あ、ここって…。」

「ワープゲートだね~」


 この世界にある日本サーバーの5つの区画[アズマ]、[ミナミ]、[サイ]、[ホクト]、[カイジョウ]のそれぞれの街に1つあるのがワープゲート。これを使って基本的には街の移動を行う。


「でもこれ今使えないって話じゃん?」

「そうみたいだね」

「こ、この世界に連れてこられた理由とも言われてる大型アップデート[アースの導き]が影響してるらしいですね。」


 この世界に連れてこられた理由として冒険者の中で挙げられたのが大型アップデート[アースの導き]。今ではこの出来事そのものを[導き]と呼ばれるようになった。



 誰が何のために私たち冒険者をこの世界に導いたのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る