第55話 アンバーさんのワケ(フレア視点)

「うーん……」


 私は一人『クランハウス』の椅子に腰かけて考えていた。

 マリンさんとファーストさんには色々手助けして貰ってるから二人の強さは私は知っている。

 そんな二人からはアンバーさんや『Jewelry』の人たちは凄いって話も沢山聞く。

 でも……


「アンバーさんを見てると二人も十分凄いと思うんだけど」


 アンバーさんが弱い訳じゃない。寧ろ強い。でも、マリンさんもファーストさんも勝るとも劣らないように私には思える。私は足を引っ張らないように必死になるしかない。しかも、そのアンバーさんがクランに加わったんだ。置いていかれないように今まで以上に頑張らないと!


 でも、アンバーさんも実に不思議だな。なんで長く活躍してるクランを解散したんだろ。しかも、このクランに入るのが目的で。どうしても腑に落ちない……


 不意に入口に人影が現れる。入ってきたのはアンバーさんだった。


「あ、アンバーさん。こんにちは」


「フレアか。こんにちは。一人でどうしたのかしら?」


 私に挨拶を返してくれたアンバーさんは隣に腰かけてそう話しかけてくれた。


「ちょっと考えごとをしてて……」


 今は二人だけ。聞くにはちょうどいいタイミングかもしれない。

 と、私は意を決して尋ねた。


「アンバーさん? どうしてクランを解散してまでこのクランに入ったんですか?」


「ええと……そうねぇ……フレアはアオイやマリン、ファーストのことをどう思ってる?」


「え? どうって?」


 質問を質問で返された私は、意図がわからずに戸惑ってしまった。


「感謝してる?」


「それは勿論。初めたばかりの私が強引な勧誘をしているところをアオイさんとマリンさんに助けて貰いました」


「強引な勧誘か……そういえばアオイもマリンも最初はそうだったなぁ……」


「ファーストさんも事ある毎に攻略を手伝ってくれます。アオイさんの装備はどんな装備より強いし手放せないですし……ってアオイさんの装備ってチートですよね? 本人は全然そう思って無いみたいですけど……」


「あー、それはそうね。この間もそのチート性能の一端を目の当たりにしたわ。フロア全体対象に攻撃出来るなんてチートそのものでしょう?」


 ファーストさんの魔法のことだ。何処からでもフロアの全てのモンスターを消し去る魔法。ま、あそこまで範囲が広く攻撃出来るのはアオイさんの装備のお陰なんだけど。


「あはは……ビックリしましたか? ごめんなさい。確かにそうですね。私はもう慣れちゃいましたけど」


「フレアは悪くないわよ。ま、アオイもファーストも悪くないんだけど……悪いのはアオイの装備か。あれ? ならアオイも少しは悪いのかな? しっかしあの《アースライザー》はヤバいわね。普通は20mくらいの範囲の魔法だけど、単純に2km弱くらいの範囲はあるんじゃないかしら。マップの真ん中から放った訳じゃないのに全体に届くんだもん」


「2kmか……」


「そりゃ攻略も早い訳だわ。掲示板でも話題になってたもの。『Blue Moon』の攻略速度が早すぎるって」


「早すぎるって?」


「考えてもみなさいよ。出来たばかりのクランが四位よ。それにかかった時間は有り得ないほど少ない。話題にもなるわよ」


 最近は掲示板見てなかったから、そんなことになってるなんて知らなかった。たまには過去ログを漁ってみるのもいいかもしれないな。


「それもそうかもしれないですね。って掲示板の話題がアンバーさんがクランに入ってくれた理由なんです?」


「あー、少し話が逸れちゃったわね。で、フレアは三人に感謝して役に立ちたいって思ったことはない?」


「それは当然です。というか常に思ってます……」


「でも、それって出来るかしら?」


 役に立ちたいから足でまといにならないように必死に頑張ってる。けど、頑張れば役に立てるかというと違うと思う。


「出来ない……と思います。マリンさんやファーストさんに追い付く強さになんかなれないです。私が強くなればなるほど、二人も強くなるんだし……アオイさんに至っては、せめて素材を集めることくらいしか出来ないんですけど、渡した分以上で返されちゃいますし……」


 追いついた分、皆先に行ってしまう。それは一生追い付かないんじゃないかと思わせるくらいに。

 私はそう思って最後まで言葉を続けることが出来なかった。


「そう、だからアオイってこういう言い方しない? 俺へじゃなくて新人とかに返して欲しいって」


「言いますね。マリンさんもファーストさんも同じようなことを言います」


「私もそう言われたんだ。ずっと前にやっていたゲームでお世話になった人にね」


「あー、だから私みたいな新人にも優しいんですね」


「優しいかどうかは別としてだけどね」


 アンバーさんが意地悪そうに微笑みかけてくれる。こんな新人のことも気にかけてくれるんだから、優しいに決まってる。


「十分優しいですってば。でも、それがどうしてこのクランに入ることに繋がるんですか?」


「んー、これ以上はねぇ。そうだと言いきれない部分もあるから。私の想像の域を出てない部分もあるしね。かつて願っていた一生訪れるはずの無いチャンスが巡ってきた、ってところかな」


「うーん……よく分かりません」


「ま、フレアも十年以上ゲーム続けてればそういう日も来るかもね」


 そこまで語るとアンバーさんは黙ってしまった。これ以上は語ってくれなさそう。わかったような、でもやっぱりわからないような不思議な感じだ。

 はぐらかされてしまったかな?

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