第54話 アンバーとダンジョン入ってみた
「あはは……何なのコレは……」
いつもの事なのでまるで気にしていないかのようにフロアを駆け抜けていくフレアに対して、呆然とアンバーは立ち尽くしている。
「どうしたんだ?」
俺も立ち止まってアンバーに尋ねた。もう『クランダンジョン』の攻略は始まっている。フレアはもう次の階層へのワープを探そうと既に何処かへ消えた。ファーストを後方へ残して俺たちもフレアの後を追ってワープを探そうとしていた矢先だった。急にアンバーが立ち止まって呆然と呟いたのは。
「今、何をしたのよ!」
呆然としていた様子から一転、アンバーは急に大きな声をあげた。
「何したってファーストが《アースライザー》を放っただけだが……どうしてそんなことを聞くんだ?」
俺はありのままに今、起ったことを話した。したことと言えば後方に残したファーストがいつも通り《アースライザー》を放っただけ。そしていつも通りフロアのモンスターが全滅しただけだ。
「なんで目の前のモンスターが一瞬で消えたの? 何なのよ! ただの《アースライザー》でこんなの起きる訳ないじゃない!」
『クランダンジョン』では壁越しでも魔法発動出来る。アンバーのことだ、多分そんなことは知ってるだろう。それでもこう言ってきてるってことは、きっとその範囲についてなのかもしれない。確かに普通の《アースライザー》だったら、この部屋の中全部に効果を及ぼせるかどうか……くらいだろう。ま、その辺は黙っていてもしょうがないか。
「あー、《アースライザー》自体はただの《アースライザー》だ。間違いない。でも、ちょっと範囲を広げる能力を付けた装備を付けてるだけだ」
「何がちょっとよ! 一瞬でこのフロアに存在していたモンスターの生命反応が消えたのよ! 何処をどう見ればちょっとなのよ! もう!」
フロアに存在していたモンスターの生命反応が消えた? 通常のマップなら大体のモンスターのいる位置はわかる。が、ここではそんなことは出来ないはず……
「逆にどうしてアンバーはそれがわかるんだ? 見通せるフロアでも無いのに」
下の方に行けばフロア全体を見通せるところもある。が、ここはそうでは無い。月も変わってリセットされたからだ。だからフロア全体のモンスターが倒されたことを知ることは出来ない。なのにアンバーはそういった。俺は単純にその言葉に興味を示した。
「《探知》の能力持ってるからよ。課金アイテムで手に入れたのがこの『透視の指輪』ね。これを装備していれば『クランダンジョン』でもモンスターの位置がマップ上に表示されるわ」
なるほど。課金アイテムの効果なのか。それがあれば効率的にモンスターを狩ることが出来るんだな。スコアも良いものが出せるのだろう。
「へえ、便利だな」
「何言ってるのよ。本当に便利だと思ってる?」
俺の呟きにアンバーが意地悪そうに聞き返してきた。
「え? だってモンスターの居場所が分かれば効率的に狩れるだろ? 便利に決まってるじゃん?」
「ええ、普通ならそうでしょう。普通ならね。だから課金アイテムなんでしょうけど……」
アンバーはピタリと言いかけた言葉を止めた。そして大きく息を吸いこんでから一気に吐き出すように捲し立ててきた。
「どうせアオイが作った装備でしょ! こんな無茶苦茶なことやらかすのは! モンスターの居場所もクソも無いじゃない! フロアのモンスターを魔法一回で全部吹っ飛ばしちゃうんじゃ! アオイの装備は課金アイテムすら無駄にしちゃうのよ!」
「あ……確かに……それは悪いことしたな」
アンバーの言う通りだ。ファーストが《アースライザー》を一発放てばそれで終わる。一体一体が何処にいるかとか関係はない。
「ま、いいわ。別に謝って欲しかった訳じゃないから。あまりにも非常識過ぎる攻略にビックリしただけ。私たちはこの指輪でモンスターの居場所を指示しつつ、各個撃破ってのがセオリーだったんだけど……そんな当たり前の攻略の仕方なんか、アオイがしてる訳ないか……それにこの『透視の指輪』の能力でわかるのはモンスターだけじゃない」
「というと?」
「ワープの位置もわかるのよ! さ、こっちよ!」
と、アンバーはすぐに駆け出した。俺は慌てて後を追いかけたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます