第53話 俺の意思を話してみた
「さ、『Blue Moon』の名をいっぱい売るわよー!」
アンバーが右手をグイッと突き上げて元気良く叫んだ。釣られてフレアも息巻いている。
「アオイさんの名前も有名にしてみせます!」
でも、俺はそのことは少し気乗りしなかったので、雰囲気を台無しにする覚悟で口を挟んだ。
「いや、それはちょっと……」
「どうして?」
アンバーが不思議そうな顔で俺を覗き込んでいる。ま、理由が無いわけではないし、黙っている必要もないから、俺はその理由を述べた。
「俺は火力も出なくて弱いからな……」
単純に俺は弱いから。はっきり言ってこのクランの誰よりも弱い。のにクランマスターだ。ま、弱いのは最初から覚悟は出来てる。で、その弱い俺でもマスターとして付いてきてくれるメンバーがいる。そのメンバーは俺が弱くてもいいって話なら、それ以外でなら期待に応えられるかなって思う。逆に弱いマスターが率いるクランだって言われるのは癪に障る。だったら有名になりたくないし、なる必要も俺には感じない。気の合う仲間と無駄話でもしながら好きなことをする方が性に合っている。
「そんなこと気にしなくていいのに……」
少し落ち込んだ様子に近いフレアと代わって俺の主張を聞いたアンバーはケロッとしている。
「ま、でもアオイの言いたいことも分かるわ。特に『Lunatic brave online Ⅳ 』はDPSを競ったりもするしね。プレイヤー同士で戦うコンテンツは無いから単純なダメージが強さの指標になるのは否定出来ないわ。そういう意味ではアオイは純粋に
「アンバーさん! そこまで言わなくても!」
「いや、マリン。事実だから」
アンバーの主張を力強く否定するマリンを俺は諌めた。アンバーは『Lunatic brave online』の頃から長くやっているし、俺の主張も理解出来るのだろう。ボスではリザルトも出るから誰が一番ダメージを与えられたかは参加したメンバーに周知されてしまう。俺は降りたが火力を競い合いたい気持ちは重々わかるので、そこに関しては否定するつもりはない。
「でも、もう一個の方は否定しなかったわね」
ただ、アンバーはニヤリと笑って言葉を続けた。とても得意気な表情である。
「もう一個の方って?」
「『Blue Moon』の名を売るって方よ。さっきプレイヤー同士で戦うコンテンツは無いって言ったでしょ? でも、やっとプレイヤー同士で競い合うコンテンツは実装されたのよ。これは単純な強さの指標になるわ。だから皆挙って上を狙うワケ。それに有名になれば、その分強い人も集まる。で、クランもより強くなっていく」
「ま、そうだな。そっちに関してはさすがに嫌だとは言わない。クランの強さは単純に所属しているメンバーのモチベーションアップにも繋がるからな。ただ、同時に俺が有名になるのはなあ……」
俺はのんびりと皆の為に装備を作ってるくらいがちょうどいい。でも、クランメンバーが活躍して有名になるのまでは止めるつもりはない。と、同時に自分のクランを有名にしたいという気持ちも止めたくはない。矛盾しているとは思う……が、それは俺の純粋な気持ちだ。
「じゃあ代わりに私の名前を使うといいわよ。私もちょっとは有名だし、アンバーの所属しているクランってなるわ。良い隠れ蓑になってあげるわよ。ね? どう?」
俺はアンバーの主張に腕を組んで考えた。
「ま、アンバーは既に名が売れてるって話だし、本人が別にそれで構わないって言うなら。アンバーが所属しているクランだってことでいいのか? クランマスターの話になったらどうするんだ?」
「決まってるでしょ! 『それは秘密です』って言うのよ! 私たちが黙ってれば絶対バレないわ! 大丈夫でしょ。アオイは
「まあ、ありか……でも、だったらアンバーがクランマスターやれば良くな……」
「それは嫌だ! 私はアオイに恩返ししたいの!」
俺がアンバーにクランマスターを譲る提案をしようとすると、言い終わるまもなくとてつもない勢いで否定された。その勢いは俺以外の三人も圧倒されるほどだった。
「そ、そうか……すまん。ってか恩返しってなんだ?」
「あ……それは言葉の綾よ……ほら! 今まで一緒に遊んでくれたりしたでしょ? だからその恩返し! ね! これでいいでしょう……」
今度は打って変わってシュンとしている。俺の方がアンバーに助けて貰いまくっているけど、これ以上の追求はしない方が良さそうだ。
「わかったよ。じゃあ皆、そういうことで頼むな」
俺の言葉にアンバー含む四人が力強く頷いたのだった。
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