第52話 メンバーを増やしてみた

「さて、今後なんだが……やはりメンバーを集める必要はあると思う。この状態だと三人にかかる負担は大きい。本当はフレンドとかでクラン探してる人を勧誘していくのがいいのかな」


 一晩明け、俺たちは今後の方針を『クランハウス』で話し合っていた。俺は正直弱すぎる。マリン、ファースト、それにフレアの三人にかかる負担が大きすぎると思っていた。


「私のフレンドって言うと、アンバーさん繋がりで『Jewelry』の人たちくらいかな……」


「僕も一緒です」


 マリンもファーストもフレンドはアンバーのクランである『Jewelry』のメンバーばかりのようだ。既に強いクランに所属している人たちを勧誘なんて出来るはずがない。


「俺は逆にアンバーだけか……」


 チラリとフレアを見るが、フレアも一緒のようだ。俺の交友関係の狭さが重くのしかかる。狩りをするといえば専らソロだ。現地でも人がいないような雑魚ばかりを好んで狩っているから致し方ない。人気があるのはボスばかり。火力の出ない俺じゃ入っても迷惑をかけるだけだから、野良パーティーに参加なんかする気は無かった。

 それが交友関係の狭さに繋がってるのだが……まあ、それは仕方ないよな……


 重苦しい雰囲気が『クランハウス』に漂っている。息苦しい中で俺に誰かからコールが届いた。名前を見ると……アンバーだった。

 俺はすぐに応じると、能天気そうな……いや、明るい表情のアンバーが画面の向こうに現れた。

 俺はすかさず祝いの言葉を述べる。


「アンバーか。二位だったな。おめでとう!」


「ありがとう、でも、アオイたちの四位の方が凄いじゃない? おめでとう」


 アンバーも俺たちのことを気にかけていてくれたみたいだ。アンバーの祝いの言葉に俺も御礼の言葉を返した。


「ありがとう。でもまあ、俺たちの場合はここからが大変なんだけどな。出来たばかりのクランでクランマスターは弱い。交友関係も狭すぎる。メンバー集めて攻略に力を入れようとメンバー集めたくても、クランマスターが弱いしなぁ……」


「そんなこと無いです!」


 マリンが背後で大きな声を張り上げた。俺の言葉をまるで力強く否定するかのように……


「だったら新規の人を勧誘しましょうよ! あのモヒカンみたいに!」


 今度はフレアの言葉だ。新規の勧誘か……確かにそれくらいしかないかな。でも、モヒカン野郎とかち合っちゃうのもなぁ……


 と、俺が悩んでいると、画面の向こうのアンバーが俺に問いかけてきた。


「ねーアオイ! 一つ確認なんだけど、アオイってブログやってんだよね?」


 俺がブログをやってるかって? まあ、やってるけど、名前とかは出てないはず……至って普通の攻略ブログだし、どうして知ったんだろう……


「? ああやっているけど……でも、アンバーにそれ話したっけ?」


「え? アオイさんブログやってるんですか?」


 アンバーへの答えにファーストも驚きの表情を浮かべていた。


「そうだよ。そういえばファーストにも話して無かったか」


 というか、別に話すタイミングも無かったから話して無かっただけか……


 俺とファーストが話しているとさっきの答えを聞いたアンバーが黙りこんでいる。

 暫く経った後にアンバーは意を決したかのように口を開いた。


「私をアオイのクランに……『Blue Moon』に入れてよ」


「は? なんで? クランも何か有名だって聞いたけど、抜けて大丈夫なのか? 俺たちみたいな結成したばかりのクランになんか入って……」


「大丈夫。もう皆に話して解散してきたから」


「……え?」


 俺は絶句した。昨日の結果で二位にもなったクランをあっさりと既に解散してきたとアンバーが言ったからだ。


「嘘……『Jewelry』解散させちゃったんですか!」


 マリンも驚いている。他の二人も表情を見る限り同様のようだ。しかし、当のアンバーは何処吹く風といった表情をしている。


「そうよ。だからアオイのクランに入るのは何も問題はないわ」


「おいおい……どういうことだ?」


「どういうこともなにも、私がアオイのクランに入りたいだけ・・なんだけど……で、どうするの? 入れてくれるの? くれないの?」


 急にアンバーの顔が画面いっぱいになった。画面越しでも圧が伝わってくる……その圧力に俺は若干怯んでしまった。


「ま、まあ断る理由は無いが……」


「よし! じゃあ早速申請送ってよ」


 言われるままに俺はアンバーにメンバー勧誘の申請を送る……出来た。嘘だとは思ってはいないが、俄には信じられない。この時点でクランに所属している者は申請を送ることが出来ないが、それが出来たということは、本当にクランを辞めてきた、解散してきたってことか……


 俺が申請を送るとすぐに受理されたようで、クランメンバーの名簿にアンバーの名前が追加された。


「改めて宜しく! アンバーです!」


 早速『クランハウス』にやってきたアンバーの声が響き渡った。

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