第48話 『ソーサリーコート』を渡してみた

「お、ファーストがログインしてる? ちょうどいいかな」


 ログインしたばかりで、メニューでフレンドの状況を確認すると、ファーストがログインしていることがわかった。マリンもフレアもログインをしている。


「もしかして『クランダンジョン』潜ってるのかな……」


 邪魔しちゃ悪いとは少し思いつつも、俺はファーストにコールを申し込んだ。


「アオイさん? どうしましたか?」


「いや、今何してるのかなーって」


「マリンとフレアと『クランダンジョン』に潜ってるところですけど……」


 やっぱりか。ま、なら後でいいかと俺は会話を途切ろうとした。


「すまんな。邪魔して」


「アオイさんがなんで謝ってるんですか? それよりどうかしたんですか?」


「いや、装備が出来たから渡そうかと……」


 急にファーストの声色がまるで少年のように変わった。


「ホントですか! すぐ行きます!」


 って三人で攻略中だろ。すぐにとかそんな気を遣わなくていいってば。


「いや、すぐじゃ無くていいよ!」


「何を言ってるんですか? アオイさんは全てに優先されますから」


 なんかファーストも最近ヤバいな言い方するなぁ。全てに優先とか、傍から聞いたら怖いセリフにしか聞こえない。


「いやいや、じゃあ、ボス倒してワープが出てからでいいよ。俺は『クランハウス』で待ってるから」


「わかりました! 次で五の刻みなのですぐに行きます! マリン! フレア! 聞いたか? 手加減は無しだ! さっさと片付けるぞ!」


 ブツ! ツーツー……


「なんか物騒な言い方だったな……手加減は無しだって……さて、先に『クランハウス』で待つか……」


 と、俺は『クランハウス』に入りソファに腰をかけると、すぐに三人が奥の部屋から駆け出してきた。


「お待たせしました!」


「いや、全然待ってないぞ……」


「良かった! アオイさんを待たせる訳にはいかないと、三人で全力で駆け抜けましたから……」


「三人に勝てる訳ないですもんね!」


 まだ肩で息をしているファーストとフレアだ。しかし、この様子だとフレアも相当強くなったに違いない。その勢いに俺は圧倒されてしまった。


「あ、ああ……そ、そうか……」


「それはそうと出来た装備というのは?」


「あ、ああこれだ。『ソーサリーコート』だ」


 と、俺はファーストに『ソーサリーコート』を渡した。


「『ソーサリーコート』? 言って貰えれば『滅龍の鎧』でも『覇王のコート』でも素材は集めましたのに……」


『滅龍の鎧』も『覇王のコート』も最近のボスを倒して手に入る素材を使って作れる装備だ。最近実装された装備なので素材の値段も高い。失敗する可能性があった多重付与に使うには惜しい。


「いやいや、そんな貴重な素材は使えないよ。ま、一応貰ってくれ。あまり役に立たなければ売るなり捨てるなりしてくれていいから」


 実際問題この『ソーサリーコート』にどれだけ価値があるか俺には正直わからない。範囲攻撃を広める能力を沢山付けたらどうなるか、ってだけで作ったからだ。そもそもその肝心な能力もどれだけの効果を発揮するのやら……


「アオイさんの装備に限ってそんなはず無いじゃないですか……ってあれ? この『ソーサリーコート』ですけど、なんかおかしくないですか?」


「おかしい?」


「この《大虐殺者》って能力が、一、二……え? 十一個付いてる!」


「ああ、そりゃ付けたからな」


『ソーサリーコート』を見て驚いてるファーストの前にフレアも割り込んで『ソーサリーコート』を確認した。


「何言ってるんですか? ファーストさん。『ソーサリーコート』は能力枠は六個しか無いですよ? そんなこと有り得るわわわわわわ……ほ、ホントだ!」


「まあ、十一個は付けすぎかもしれないけど、七個や八個の能力が付いた『ソーサリーコート』なんかあるだろ? 『滅龍の鎧』とかでも枠は八個なんだから」


「無いです! 最初の能力枠以上なんて鍛冶屋でも付けられませんから!」


 ってか鍛冶屋とか使ったことないな。鍛冶屋では付けられないだけじゃないのか?


「いや、だって枠を超えても成功率って出るじゃん?」


「出ますけど絶対0です! 成功なんかしません!」


「え? そうなの?」


 俺が三人顔を見渡すと三人が三人とも激しく頷いている。


「そうなのか……いや、俺の場合は成功率が段々と減ってくから、そういうものなのかと」


「そもそも最初から0なんですってば!」


 何故か語気が強くなるファースト。に対して宥めるようにマリンがファーストの前に立ち、その肩に両手を置いて諌めた。


「まあまあ、ファースト。落ち着いて。フレアもそう。アオイさま……グホン! グホン! アオイさんの作った装備です。何があってもおかしくないでしょう?」


「ま、まあ、そうですけど……」


 そうなのか? いや、なんかその言い方おかしくないか?


「段々と減ってく成功率か……それでもこうやって作っちゃうんだからさすがとしか言いようがないな」


「ま、失敗もしたからな」


「アオイさんでも失敗するんですね。ってそれはそうか。確率は確率ですからね。ちなみにどれくらい失敗したんです?」


「十万着分くらいの『ソーサリーコート』の素材が殆ど無くなったから九万九千以上は?」


「え! そ、そんなに!」


 マリンの諌めの効果もなく、またも驚くファーストだった。


「90%、70%、30%、10%、5%と五回だからそんなもんでしょう」


「ちょ、ちょっと待って下さい! ざっと計算したんですけど、それだと千着くらいで出来る計算になりますよ!」


 今度はフレアが立ち上がって語気を荒げる。


「そうなのか? やっぱ確率なんてあてにならないな。ま、出来るまでやるだけだから出来る確率は100%だ。なんの問題もない」


「あはは……」


 何故か『クランハウス』の中には乾いた笑いだけが響き渡った。

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