第40話 クランを作ると決めてみた
「すまんな。クランマスターだといったな。あれは嘘だ」
俺とマリンは先程助けた? 緋色の髪の少年と三人で雑貨屋裏の木箱に座って話している。緋色の髪の少年の名前はフレアとのことだった。
「ですよね。何となく雰囲気で察しました」
フレアはにこりと笑ってそう答えた。少女とも見間違うような表情だった。
「じゃあどうしてマリンを指さしたんだ?」
「クランに入るも何も、あんな人と関わり合いたくないですから」
「そりゃそうだよな」
俺たちは三人で顔を見合わせて苦笑いをした。常識的に考えてもあんなのに関わろうとする奴などいないだろう。しかし、俺には心から笑えない事情もあるから苦笑いになってしまった部分もある。
「はぁ……勢いでああ言ってしまったものの……どうしようか」
ただ、俺は気が重かった。というのもあんなことを言ってしまったからだ。それが心から笑えなかった理由だ。
「どうするも何もクランを作ればいいじゃないですか?」
と、フレアが俺の顔を覗き込んできた。だが、俺は首を横に振るう。
「いやいや、俺は火力も無いから皆を手伝うことなんか出来ないぞ? 知識だって無いし、クランマスターって器じゃないんだよな」
『Lunatic brave online』の時はクランマスターをやっていたからクランマスターのやらなきゃいけないことはわかる。新しく入ってきた人のフォローやシナリオの手伝い。ボス戦の周回や、質問事項へ回答したりやることはいっぱいある。火力も無く、知識も無い俺じゃ務まるわけが無い。
「そんなこと無いですよ!」
ガシッと俺の肩を掴んでマリンが叫ぶ。
「って言われてもなあ……って逆にマリンがやればいいじゃん」
アンバーとも仲が良いし、元々ファーストはマリンの友達だ。マリンがクランマスターをやるのが一番良いように思える。今のマリンは俺より確実に強い。勿論ファーストもだ。
しかし、マリンは即座に首を横に振った。
「いやいや、一千万イクサとか持ってないです」
「お金は出すよ」
別にマリンがそれで楽しんでくれるなら一千万イクサくらいは安いもんだ。
「いやいやいやいや、返すあても無いのに借りれませんよ!」
「返さなくていいからさ。な? 頼むよ?」
「余計にダメです! ……そもそも最初の三億分のお返しすら出来てないのに……」
ここまで強く言っても引いてくれないのか。俺が頼んでも聞いてくれないなんて。何でも言ってください! チックな話は何度も聞いていたんだけどな……
「うーん」
「ってかフレアは? クラン入る気なかったら意味無いし」
元はと言えばフレアをモヒカン野郎から救うための方便だった訳だ。これでフレアがクランに入る気は無いってなれば、ここまでの話の意味はなくなる。
「そもそもクランに入るとどうなるんですか?」
「ええと、クランメンバーはクランメンバー同士でパーティーを組むと、モンスターを倒した時の経験値とドロップ率の増加、クランハウスの使用が出来るんです。あと、近々追加されるコンテンツがあって、クランダンジョンというのが追加されるらしいです。これはクランメンバーだけでパーティーを組んで入れるダンジョンで、期間内の獲得スコアによって特別な報酬が出るとか……他にも追加コンテンツは予定されてるみたいですけど、まだ動き出してないからハッキリしてない所も多いですけど……」
「マリンは色々調べてるんだな。俺は全然知らなかったよ。やっぱマリンの方が……」
「だからダメですって!」
美女もおだてりゃクランマスターに……ならなかった。まあ、本当によく調べてると思うし、おだてたって訳でもないけど。
「クランかあ……えっと……お二人の人柄も良さそうだし、作るならお試しで入ってみてもいいですか?」
「うーん……」
フレアも乗り気か。こうなっちゃうと俺がクラン作るまでは終わりそうにないか……あまり、無理に断っても仕方ない。二人とも他のクランに行きたくなったら抜ければいいだけだしな。
と思った俺はクランを作る覚悟を決めた。
「じゃあ仕方ないな。クラン作るか! で、どうすれば良いんだ?」
俺はそういう知識はまるで無い。だからマリンにそう尋ねた。
「ここじゃクランを作れないんです。『聖都ハイディア』の教会まで行かないと……」
「『聖都ハイディア』か……」
せっかく『セフトの街』に戻ってきたばかりだけど、『聖都ハイディア』にとんぼ返りか。まあ、仕方ない。でも、フレアは始めたばかりだし、大丈夫か?
俺の表情を察してくれたのか、フレアは笑顔で言葉を口にした。
「何処でも大丈夫です! でも、案内だけはしてくださいね」
「よし! そうと決まったなら早く行きましょう!」
「あ! 待ってください!」
と、勇んで走り出して行ったマリンを追ってフレアも走っていってしまった。
「おいおい、肝心の俺を置いてくのかよ」
俺が居ないと始まらないとは思ったものも、マリンたちの気持ちは少しはわかる。あまり待たせるのも悪いと、早々に俺も後を追った。
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