第39話 モヒカン野郎と言い争ってみた

「久々の『セフトの街』だな」


 メインシナリオの流れで『セフトの街』まで戻ってきた。『聖都ハイディア』中心でメインシナリオが展開していた中で『セフトの街』の領主への報告という依頼となったので、ここまで来ることになった。


 そんな俺が『セフトの街』に入るとすぐに大きな声が耳に飛び込んできた。


「いい加減に止めてあげてください!」


「マリンの声か? どうしたんだろ?」


 大きな声の主はマリンだ。かなり激しく怒っているようだ。マリンが? 何があった?


「俺はこいつの為に言ってんだ。お前も知ってるだろ? 新しいコンテンツが追加されるんだよ。クラン毎に競い合うんだ。始めたばっかりのやつはクランに入ってねぇんだから、入っておいた方が良いに決まってんだろ」


 言い争っているようだった。この声は聞き覚えがある。確か例のモヒカン野郎の声だ。


「でも、こんな無理やりな勧誘の仕方は違うと思います」


 また新人を無理やり勧誘してたのか。懲りないな。確かに一人腰を抜かしてなのかへたりこんでいる人物が一人いるな。多分モヒカン野郎の被害者なんだろう。マリンは自分そうだったから許せなくて割って入ったんだろうな。


「知らねぇよ。んなもん。無理やりだろうがなんだろうが、こいつにとって利点だろ。クランに所属するのは。それともあんたのクランに入れるつもりなのか?」


「うぐっ。それは……」


 マリンはモヒカン野郎の言葉に対して反論の言葉が出ずに詰まってしまった。そういえばマリンってクラン入ってるのか? アンバーやファーストと一緒にいるところはよく見るけど……


「そもそもお前のクランはメンバー何人で、強ぇ奴どれだけ揃えてるんだよ? まさか今更クランに入ってないとか有り得ねぇよな?」


「ぐぬぬ……」


 マリンが変な声で唸っている。これはクラン入ってないっぽいな……


「まさか、マジでクラン入ってないとは……ほら、関係ねぇやつは下がってろよ」


 さすがにこれ以上はマリンが可哀想だ。少し加勢してやるか。


 と、俺はマリンとモヒカン野郎との間に割って入った。


「どうしたんだ? マリン? またモヒ……こいつと揉めてるのか?」


 さすがに目の前でモヒカン呼ばわりはまずいと思い、モヒカン野郎と呼ぶのは言いとどまった。


「また無理な勧誘しようとして……」


 マリンが俺に説明をしてくれようと話し出したが、モヒカン野郎はマリンを気にせず俺に向かって話し出した。


「お前DEX極の馬鹿じゃねぇか。さすがにお前は覚えてるぜ。ありえないほどの馬鹿だからな」


「アオイ様は馬鹿じゃないです!」


 マリンが必死に言い返してくれたけど。ん? なんか違和感が……アオイ……さま? 聞き間違いかな?


「でも、今回はお前らの出る幕はねぇぜ。今後追加されるコンテンツの話をしてんだ。クランに入ってないお前らの出る幕じゃねぇし……ってお前はクランに入ってるのか?」


「クラン? そんなの……」


 俺が言いかけた言葉に被せてマリンが大きな声を張った


「そ、そう! 入ってるどころか、私のクランのマスターなんです!」


「……………………は?」


 俺は絶句した。いやいや、クランなんか俺は作ってないぞ。

 しかし、そんな絶句した俺の耳元でマリンが囁く。


「ほら! アオイさん! ここはなんとか話を合わせて下さい」


「は?  DEX極の役約立たずが? 冗談は止せよ。クラン設立には金がかかる。一千万イクサだぞ。そんな大金をDEX極の役立たずが作れた訳ねぇだろ?」


「いや、一千万くらいの金なら持ってるぞ?」


 クランがどうとか別として、マリン含めて馬鹿にされすぎは癪に障る。今は金策も順調で三千万以上は溜まってる。そこに関して馬鹿にされる筋合いはない。


「は? 見せてみろよ」


 俺は無言でメニュー画面を操作し、所持金をモヒカン野郎に見せつけた。


「なんだよ。すげぇ持ってんじゃねぇか。どうやったかは知らんが……」


 意外と素直な反応をするんだな。もっと突っかかって来るかと思ったが……


「ま、だからと言ってクラン作っても誰も入るわけ無いけどな。クランマスターがこんなに雑魚じゃ誰も付いてこないだろ」


「そんなこと無いですよ! アオイさ……」


 俺はポンっとマリンの肩に手を置いた。


「マリン、もうやめとこ。こんな奴に構ってても」


「じゃ、こいつは俺のクランに……」


「そんな! 無理やりはダメです!」


 まあ、そうなるわな。となればここを治める方法は一つしかない。


「じゃあさ、本人に聞いてみればいいんじゃないか? お前のクランと俺たちのクランのどっちがいいか」


 俺の言葉にへたりこんでいる少女がすっと指を指したのはマリンだった。


「決まりだな」


「チッ! 覚えてろよ!」


 モヒカン野郎はそう捨て台詞を残して去っていった。

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