第41話 クランを作ってみた
「お待ちしてました! こっちです!」
『聖都ハイディア』に着くと何故かファーストが待っていた。何故か俺たちが『聖都ハイディア』に来るのを知っていたようで 、力いっぱい手を振ってこっちを呼んでいる。
「なんでファーストがいるの?」
俺はついそう尋ねてしまった。
「マリンからアオイさんがクランを作ると聞いて。クランメンバー二番手は譲りませんから」
何故かドヤ顔のファーストに対してフレアはぺこりとお辞儀をする。
「あ、ファーストさんですね? 初めまして」
つられてファーストもフレアにお辞儀をし返した。まあ、初対面だし当然の挨拶か。
「二番手も何もフレアはいいのか?」
俺はフレアにそう尋ねた。元々はマリンが言い出したことだが、その場にいたのはフレアもだ。フレアにだって主張すればその権利はある。
「ええ、マリンさんから話は聞いてますから。ずっと待ってたなら当然のことかと。全然譲りますよ」
と、フレアの言葉である。どうやらマリンからファーストのことを既に聞いていたようだ。しかし、気になる言葉を耳にした。
「ずっと待ってた?」
と、俺は不思議そうにファーストを見た。が、彼は照れ隠しに俺から顔を背けてしまう。
「あはは! ほら、それよりも早く行きましょう! マリンはもう教会に向かってます」
と、マリンを追いかけてファーストまで駆けて行ってしまった。と、なれば仕方ない。俺はフレアと顔を見合わせてから一緒に教会まで向かった。
中心を通る大通りを一つ曲がると、こじんまりとした建物があった。
「ここが教会か」
入口にはマリンとファーストが待ち構えていた。俺は二人連れられてすぐに中へと入っていった。
中は一つの部屋となっており、中心には長い髭の神官が一人で立っている。
「ここはロベール教会。主、ロベールに祈りを捧げる場所。何か御用かな」
俺の目の前に選択肢がポップしてくる。『髪に祈りたい』『クランを作りたい』と二つだ。一人でいるなら『髪に祈りたい』をタップしたいところだが……だって『髪に祈るだぞ!』気になるじゃん! 誤字なのかワザとなのか! 会話気になるじゃん! でも、今はマリンたちもいる。無駄な時間を費やす訳にはいかない……残念だけど。
と、俺は後ろ髪をひかれる思いで『クランを作りたい』をタップする。
「ふむ。クウンの設立には主、ロベールにお許しを頂かなければならない。教会に一千万イクサの寄付を……如何かな?」
よくよく考えたら、無茶苦茶詐欺っぽいよな。このセリフ。現実にこんなことはあったらぼったくり宗教と言われても仕方ないくらいだ。
しかし、今はそんなこと言っても仕方がない。とりあえず俺は『はい』の選択肢を選んだ。
「しかと受け取りました。では……主、ロベールよ! アオイに御加護を!」
ちゃらーらーらー らーらーらー
とファンファーレのような音楽が狭い建物の中に響き渡る……
「主、ロベールがお許し下さった。これよりアオイはクランマスターを名乗るが良い。さ、メニューを開きなさい」
と、神官は俺に声をかけた。その言葉に従ってメニュー画面を開くと『クラン』のメニューが増えている。
早速そのメニューをタップすると……名前を入力しないといけないようだ。って名前か……
「名前……どうする?」
俺は三人の顔を代わる代わる見回した。が、三人ともが、何故見るの? と言った表情を返してくる。沈黙の時が流れるが、堪らずフレアが口を開いた。
「それはアオイさんが決めて下さいよ!」
「ま、そうなるよなぁ……」
あまりこういうの考えるの得意じゃないんだよなぁ……ならあれしか無いか。
「Blue Moon……」
俺は一つの言葉を口にした。Blue Moonという名。『Lunatic brave online』の時にこの名前だった。今回も慣れ親しんだ名前だからこれにしよう。ただそれだけの理由ということにしておこう。その時も自分の名前をもじったなんて口が裂けても言えない。自分の本名の月守 葵の名前から取ったなんて恥ずかしすぎて言えない。若気の至りだ。
「へえ……Blue Moonですか」
と呟くファーストに対して無邪気に俺に尋ねるマリンだ。
「もしかしてアオイさんの
「ま、まあそうかな……」
いきなりフレアに当てられて俺はさすがに恥ずかしくなってしまった。が、そんな俺のことなど気にもとめる様子はフレアにはない。
「じゃあMoonは……あ! もしかして!」
と急に大きな声をフレアがあげた。
「え!」
ヤバい! 何故バレた!
と焦る俺のことなど気にせずフレアは言葉を続ける。
「『Lunatic brave online IV』のゲーム名からですか? Lunaって月って意味ですもんね!」
「あーそうそう! そうなんだよ! よく分かったなフレア!」
よし! なんとか乗り切った! 理由もおかしくないし大丈夫!
「なるほど……さすがアオイさんですね」
とフレアの呟きにマリンとファーストは顔を見合わせて頷いていた。
「ま、それはおいといて、クラン勧誘早速送るから」
と、俺はメニュー画面からクランの勧誘を三人に行う。マリン、ファースト、フレアの順にだ。この順番は三人のたっての希望だ。俺にとってはあまり意味の無いことだと思うが、マリンとファーストにとっては意味があるようだから、この辺のことは大事にしてあげないとな。
「これでよしっと」
三人はそれぞれクラン参加の操作をしたようで、『クラン』のメニューには俺を含めた四人の名前が表示されるようになった。
「よし、これでいいかな。じゃあ拙いクランマスターだけど、宜しくな!」
「やったぁ! 皆で盛り上げましょうね!」
俺の挨拶に対してマリンの元気な声が教会に響き渡ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます