第23話 三人で遊んでみた
「ドォォオオォリャァヤヤァヤ!」
アンバーがこの世の者とは思えない掛け声で『ツムール』に向かい駆けていく。左手に握るは体長の倍はあろうかという巨大な槌。俺とマリンはその姿に呆気に取られ、呆然と見ていることしか出来ない。
「ソォォウレイッ!」
アンバーが巨大槌を両手に持ち替えて振りかぶり、大きく飛び上がった。そして、勢いに任せて巨大な槌を『ツムール』に振り下ろす。と、次の瞬間にはブライトン農場の柵の外に立っていた。『ツムール』とのバトルはあのアンバーの振り下ろした巨大な槌の一撃で終わったようだった。
そう、今日は俺とアンバーとマリンとの三人でマリンのクエストを進めるついでに『ツムール』を周回しようと、ブライトン農場まで来ていた。
「本当凄いです! アンバーさんのおっしゃる通り何もしないで大丈夫でした!」
アンバーのことを褒めちぎるマリン。火力を求めるマリンにとっては憧れる対象なのだろう。が……
「俺はどちらかというと、
俺は肩をすくめて苦笑混じりにそう呟く。アンバーがギンッと睨みつけてきたので、俺は慌ててそっぽを向いた。
「な・に・か・い・い・ま・し・た」
「何でもないです」
黙ってれば可愛いのに、その性格と行動は可愛さの欠けらも無い。まあ、アバターだし中身はどうなんだろ……と言うのは黙っておこう。
「でも、本当に凄い火力ですね! どれくらいダメージ出てんだろう……」
「コンボとか無くても何十万ってところじゃないかしら。んーと……そうね、30万以上ってところかな」
アンバーはメニューを操作し戦闘ログを見て、その数値を教えてくれた。
「私は『ラビィ』相手にやっと三桁出るとこなのに……」
え、俺はその『ラビィ』相手にすら二桁も出ないんですけど……
「でもね、この《魔人断》だけどやっと使い物になるようになったのよ」
「使い物になる?」
今まで持っていたけど使えなかったような口ぶりに、俺は気になって聞き返した。
「この技、命中率に難があってマトモに当たりゃァしない。こんな技使えるのは世界広しといえど、このワタクシ一人と断言しましょう!」
世界で何人が『Lunatic brave online IV』をやってるか俺には皆目見当つかないが、その中でもたった一人とは大きくでたもんだ。
俺は少し呆れてしまったが、マリンは逆に憧れの眼差しを強める。
「おおー! 凄い! でも、どうして使い物にならないスキルを使えるんです?」
「そ・れ・は・ね……レアスキルを手に入れたからだー!」
「おおー!」
パチパチパチ……
片手を突き上げて盛り上がるアンバーと、そのアンバーに盛大な拍手をするマリン。そして傍観者の俺。三者三様の反応である。
「レアスキルかぁ……どんなのだろう」
「命中率を上げるスキルよ! 最近見つかったらしいのよ!」
「命中率を上げるスキル! 大事ですよね! 私も『ラビィ』に全然攻撃が当たらなくて……でも命中率が上がるスキルに助けられて何とかクエストもクリア出来たから大事さが身に染みて……」
マリンは激しくアンバーの言葉に同意を示す。攻撃当たらないって悩んでたんだし、そりゃそうなるわな。
「でも、マリン、凄いわね。《百発百中》だって100万イクサくらいはするわよ。まだ始めたばっかりなのに、そんなにお金作れるなんて。あなたには才能あるわ!」
「《百発百中》……?」
「どうしたの? マリン」
「いえ、スキルの名前はよく見てなかったけど、確か違う名前だなって」
そりゃそうだろう。俺も《百発百中》なんて知らないぞ。俺が渡したまま使ってるなら……
「……? え? どういうこと?」
「ほら、やっぱり! 《千発千中》って名前です!」
ほら。やっぱり。
と、マリンが答えて俺がそう思った瞬間にアンバーがマリンの肩に掴みかかった。
「ちょちょちょっと! なんでマリンが持ってるのよ! それ!」
「アンバーさん! 何驚いてるんですか! 痛いですよ!」
ブンブンと興奮してマリンの肩をアンバーは揺さぶった。だが、マリンが痛がるとハッとしてアンバーは手を離した。
「ご、ごめん……」
「いえ、私もビックリしちゃって……アオイさんから貰ったんです。あの最初に会った時に、攻撃が当たらないって相談したら……」
アンバーがキッと俺を睨みつけてきた。あれ? 俺なんかやっちゃいました? 装備作ってプレゼントしただけなんですけど……
「ちょっと! アオイ! どういうことよ! ってちょっと待って……今、貰ったって言ったわよね?」
俺もマリンもアンバーの言う通りだと頷いた。別に隠すようなことでもないしね。
すると、それを見たアンバーがゆっくりと言葉を続けた。
「そうね。《魔人断》は使い物にならなかったって言ったじゃない? でも使えるようになったのは《千発千中》ってスキルが手に入ったから」
ん? 手に入った? 俺が売ったのをアンバーが偶然買ったのか? 10万イクサで売ったやつか……
「
…………………………は?
時間が止まった俺とは反対に、今度はマリンがアンバーに飛びかかった。
「ちょちょちょっと! なんでそんなに高いんですか! 私! 10万イクサくらいだって聞きましたよ!」
「マリン! 痛いって!」
ブンブンと興奮し、アンバーの肩をマリンは揺さぶった。さっきとは真逆の光景だ。痛いと言われてマリンは手を離すと、ヘナヘナ力無くとその場に倒れてしまった
「ご、ごめんなさい! さ、さ……3億……か、返せない……そんな大金……」
「いや、別に返せなんて言わないし……」
そんな俺の言葉は二人には届くことは無い。構わず俺に食い掛かるアンバーと、うなだれ続けるマリン。
「5000万でも売らないって見たから、持ってるヤツ探し出して3億でって聞いたら、悩んだ末に譲って貰った! そういうレアスキルなの! それをなんでアオイが持ってるのよ!」
「知らんがな! 延々と『ラビィ』を狩ってたら持ってたから!」
「延々と……『ラビィ』を狩ってた? そ、そうか……アオイは通常攻撃しか持ってない……命中率も高く、『ラビィ』どころか大体のモンスターも必中だろう。通常攻撃を一万回連続で当てること自体は出来るか……でも、やるか? 普通……」
アンバーが何かブツブツと呟いている。ま、まあ、それで納得出来るならご自由にどうぞ……
そんな時間がしばらく続くと、アンバーが割り切った表情で俺に話しかけてきた。
「ま、まあいいわ! アオイが《千発千中》を持っている。で、それをマリンが受け取った! この事実は変えられない! オーケー? でこのことは三人だけの秘密! アオイも私の許可無くレアスキルを売っちゃダメ!」
ビシッとアンバーは俺を指さした。その勢いに気取られながらも俺は浮かんだ疑問を尋ねた。
「なんで? 黙ってるはまだしも……」
言いかけた俺の言葉にアンバーは被せて答えた。
「だって強力過ぎるから。《千発千中》はゲームバランスを崩すほど。相場だってぐちゃぐちゃになるわ。だからもっと考えて使いなさいってこと!」
ふむ。今まで無かったレアスキルというならそれも仕方ないのかもしれない。俺も相場とか知らないで売っちゃったのは確かに悪いか。
「そうだな……もうちょっとアンバーに聞いてからにするわ」
ここは従っておくのが吉だろう。やはりアンバーは『Lunatic brave online IV』でトッププレイヤーの一人のようだ。モヒカン野郎も知ってたし、3億イクサをポーンと出せるのは相当やり込んでいることの証。ここは彼女を味方にしておく方がいい。
「それならいいわ……でも……どうしようかしら」
「ああ、そうだな。
と、声を合わせて俺とアンバーが見下ろす先には放心状態のマリンがうなだれたままであった……
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