第22話 装備をプレゼントしてみた
「いやー、散々だったね」
俺とマリンは雑貨屋の裏にある木箱に腰掛けた。初日にアンバーと話した場所だ。
「アオイさんも同じだったと聞いて少し安心しました。それに、アンバーさんもアオイさんも良い人ですし……いや、でも、あんなのが居るようじゃ、安心って言っていいのかな?」
マリンが苦笑している。まあ確かにあのモヒカン野郎はどうかと思うが、関わらなければ問題無いだろう。
「あはは……まあ基本的に良い人が多そうだと思うから、長い目で見てよ」
「逆にアオイさんはどうして
ふむ。言われてみればそうか。俺も始めたばかりだってマリンは知っている。そんな俺がこんなことを言うのは確かに気になるか……
「俺はこの『Lunatic brave online IV』をやったのは最近だけど、シリーズ化する前の一番最初の作品だった『Lunatic brave online』っていうナンバリングされる前のゲームはかなりやり込んだからね。当時はただのMMORPGでVR要素は無かったけど、やって見た感じは根本の部分は変わらなそうだから、そう感じるんだ。まあ、同じゲームを楽しむ仲間として、ギスギスしてない方がいいなぁ……という願望もある」
「なるほど……大先輩さんなんですね」
マリンはウンウンと頷いている。大先輩と言われて嫌な気はしないけど、それは『Lunatic brave online』の時の話。何かこそばゆい感じもするけど、否定するのは野暮かな。
「まあ、実際オジサンだしね……ってこういうゲームだし、本当にそうかわからないか……」
ゲームの世界だからアバターで着飾ることは出来る。俺が本当にオジサンかどうかはマリンに知る術はない。逆にマリンの年齢を俺はす知ることは出来ない。年齢どころか性別もだ。それはマリンもわかっているようで、同意してくれた。
「そうですね」
「ってそうだ。マリンも俺のこと呼び捨てでいいよ。別に敬語とかもいらないし……」
年齢も性別もわからない。そんな中なら敬語は使わなくてもいい。俺は常にそう伝えてはきた。ただ、当然相手がどうしたいか……による。
「うーん……それは私の性格的な部分なので、難しいかも……です」
「まあ、無理にとは言わないけど……」
アンバーみたいな性格の人もいれば、マリンみたいな性格の人もいる。様々な人が自分の好きな楽しみ方で楽しむのが一番良いと俺は思っている。だから、強制することはしない。
「あ、そう言えばモヒカン野郎に絡まれた流れはどんな感じだったの?」
俺はふと気になったことを尋ねた。
「私、大剣使いになりたいんです。ひ弱な女の子が大きな剣をブンブン振り回して敵をバッタバッタと薙ぎ倒していく姿に憧れて……」
なるほど。やりたい事があるのは良い。憧れるのもわかる。普通は火力に憧れて当然だ。やはり、迫力が違う。俺みたいにちまちま弓で削るのに憧れるやつなんていないだろう。
「でも、あのモヒカンの人にはSTR極なんて馬鹿だと。攻撃が全然当たらないからDEXに振らないのは意味が無い。みたいなことを言われて……俺のクランに入れば色々教えてやるって……」
「で、強引な勧誘か……そこはどうかと思うが、まあ、あながち間違ってる訳じゃないところがなぁ……」
俺の呟きにマリンはゆっくりと頷いた。マリンも俺の考えていることを理解しているようだ。
「ええ、最初のメインクエストも苦労しちゃって……確かにあの人の言う通り、攻撃が全然当たらないんです」
「最初のクエストって『ラビィ』を倒すやつ?」
「そうです! 『ラビィ』に攻撃が一回も当たらなくて……」
肩を落としてマリンは残念がっていた。俺が苦労せずに倒せた『ラビィ』を倒すことも出来ないようだ。意外とDEXも重要なのかもしれない。
「俺は逆に一発も外さなかったけどなぁ……」
「えー! 凄いです! それ!」
少しマリンの声のトーンが上がった。一発も外さなかったのはやはり驚いたみたい。俺がDEX極だって知らないからな。
「まあでも、俺は火力の方に影響あるステ振りだから、『ラビィ』一体倒すのも一苦労なんだが……ってそうだ! ちょっと待ってて」
俺はとあることを思いついて、メニュー画面を開く。色々と操作をしてから再度マリンに話しかけた。
「今、装備送っといたから見てみて」
「え! 装備? どうしてです?」
「いや、攻撃が当たらないって言うから。俺が獲得したスキルの中で《千発千中》って命中率に影響があるスキルがあるんだ。だからそれを装備すれば攻撃も当たるようになるんじゃないかなって」
そう、命中率に問題があるなら装備で補強してあげればいい。どれだけ役に立つかはわからないけど、無いよりはマシだろう。
「えー! なんか申し訳無いです……」
と、申し訳なさそうにマリンは縮こまってしまった。俺はそんなマリンに話を続ける。
「それにあまり役に立たなかったら、マーケットで売ってよ。『殻の鎧』じゃなくて『冒険者の服』に《千発千中》を付けた時だけど、10万イクサで売れたから、もうちょい高値でも売れると思うよ。売れたら良い装備の足しにでもして……」
「え……10万イクサもですか? そ、そんな! 貰えませんよ! そんな高いの!」
そう! 初心者にとっては10万イクサですら大金なのだ! だが! 俺は今100万イクサ以上持っている! そんな金額の装備はポーンと渡せるくらいに大金持ちなのだ! 大人の余裕を見せてあげよう。
と、俺はマリンが戸惑っているのとは裏腹に、まるで意に介さないといったように手を払った。
「良いって良いって。どっちにしろ、その『殻の鎧』はマーケットに流そうかなって思ってたやつだし……」
「そうですか……ありがとうございます! 喜んで使わせて貰いますね!」
これ以上言っても無駄だと悟ってくれたのか、マリンは受け取る気持ちになってくれたようだ。
「じゃあ私が手伝えることがあったら何でも言って下さいね! 御礼は返しますので!」
「うーん……それも有難いんだけど、初心者の俺が言うのもおかしな話なんだけど、御礼は俺へ、じゃなくて、俺に返したい分、『Lunatic brave online IV』を始めた人たちにしてあげて。強くなったら手助けしてあげてよ」
「どういうことです?」
「いやね、やっぱゲームを始めたばかりで不安だったり分からないことも沢山あると思うんだ。俺が好きなゲームを皆好きになって欲しいから、その手助けしてくれないかなって。それに『Lunatic brave online』の時も俺はそうやって頼んで来たから」
「わかりました! でも、アオイさんにも御礼はちゃんとするので、手伝えることがあったらちゃんと言って下さいね! ちょっと早速試して来ます!」
マリンはそう言い、お辞儀をして駆けて行った。
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