　俺に再び訪れた明るい闇が段々と終わっていく。そして、視界が晴れる……と俺はたった一人で立っていた。だが、そこは先程のような狭い空間では無かった。俺の目の前に広がるのは石造りの街並み、そして、行き交う無数の人々だった。しかも、それは光景だけでなかった。心地よいと言っても良いくらいの喧騒が俺の耳をくすぐったのだ。目だけでない、耳にも、何なら肌に触れている空気すら変わったように感じた。家の中なのは変わらないのに、だ。そのリアルさは俺の五感を狂わせるほどだった。と、同時に人が想像以上に多く、俺は嬉しくなってしまった。正直、インターネットの巨大掲示板でも『Lunatic brave online IV』の名前は全く見なかったし、あまり人がいないんじゃないかと俺は少し疑っていた。が、目の前の人の多さに安堵すると同時に胸を躍らせた。

　せっかくVRMMORPGをやるんだ。過疎ってたら嫌だからね。これならサービスもすぐに終わるってこともなさそう。楽しかったら運営にお布施も兼ねて課金してもいいかもな。

　と、感慨にふけり、『Lunatic brave online IV』の世界を全身で味わっていた俺は不意に声がかけられた。

「冒険者さん、セフトの街へようこそ」

　ふとその言葉を耳にして俺は辺りを見渡した。俺に声をかけてきたのは門の横にいる門番だ。頭の上にふわふわと何かが漂っている。『トーマス』か……名前かな？　と、同時に先程行き交っていた人たちにも同様に何か文字のようなものが浮かんでいることに気づく。ただ浮かんでいる人たちとそうでない人たちの二種類がいるようだった。この門番にも浮いている。浮いている人と浮いていない人の違いは、多分ＮＰＣかプレイヤーだと思う。この声をかけてきた門番は恐らくＮＰＣなのだろう。この『Lunatic brave online IV』の世界に降り立ったプレイヤーに最初に声をかけるようにプログラムされているのだと俺は思った。

　ちなみに『Lunatic brave online』はメインクエストがあった。そのメインクエストに沿ってプレイしていくことにより、チュートリアルのようなものも兼ねていた。その系譜は変わってないみたいだ。また、そのメインクエストをクリアしていくことによって経験値を獲得することも出来た。敵を倒して得られる経験値、メインクエストをクリアして得られる経験値、あとはサブクエストと呼ばれる、様々なＮＰＣから依頼されるクエストをクリアして得られる経験値でレベルを上げていく。そんなシステムだった。恐らくこの門番からそのメインクエストが始まるのだろう。

「この街の長であるカストル様は優しい御方だ。冒険者にも寛容だし、冒険者の話を聞くこともカストル様の楽しみの一つだ。もし時間があるなら是非会ってくれないか？」

　そう言った門番は目の前の大通りを指さす。恐らくこのままカストルという者にあうとメインクエストが進むのだろう。『ほらな』とは思ったものの、このままメインクエストを進めようかどうか俺は少し悩んだ。そんな俺の耳に大きな声が飛び込んできた。