第5話 勧誘を拒否ってみた

「おい! 新入り!」


 俺はその大きな声が何かと思って辺りを見渡すと、巨大な身体をしたモヒカン野郎がのっそのっそと俺に向かって近づいてきた。筋骨隆々で身長は2m近くあるんじゃないか?


「キョロキョロしてんじゃねぇよ! おっさん! お前の事だよ! 『Lunatic brave online IV』をやるのは初めてなんだろ?」


 おっさんなのか? 俺の姿は。ランダムに決めてもらってから鏡もないし自分の姿を見てない。だからあまり自分のことだと思えなかった。が、現実でもいい歳したおじさんだし、ゲームの中でもおじさんの方が違和感はないかな。ってかこいつも充分おっさんだろ……って頭の上に名前ないな。ってことはこのおっさんはプレイヤーってことか?


「よく俺が初めてこのゲームをするってわかったな?」


「見てりゃわかるよ。初めてこのゲームをやるやつは勝手がわからずにそうやって何したらいいかわからなくて、身動きせず立ってたりするからな」


 まあ、確かに俺は何もせずにたってたけど、勝手がわからないって訳じゃないんだけどなぁ。

 そうは思ったが、とりあえず言い返すことはせずに俺はモヒカン野郎の出方を見ることにした。


「アカウントを作り直したやつとかは、やりたいことも決まってるからさっさと動き出すんだ」


 そう自慢げに話すモヒカン野郎に俺は適当に話を合わせることにする。


「なるほどねぇ……」

 

 とはいっても、このモヒカン野郎のいうことも一理あると思う。俺はどっちかと言うと作り直さずにやりこむタイプだったからそういう経験はないが、実際に周りのフレンドとかそういう人は多くいたからね。


「俺はそういう新入りをクランに誘ってんだよ。どんなクランに入っても俺に合うクランがねぇから作ったんだ。クランを作ったばっかりで大きくしたいからな……だから俺は新入りに声かけてんだ」


 クランか……『Lunatic brave online』でもあったシステムだ。所属しているクランメンバー専用のチャットもあったり、パーティーを組むにしてもクランメンバー同士だとボーナスがあったりしたな。『Lunatic brave online IV』ではわからないけど、同じような特典はあるのかな? ま、あるんだろうな。だからこそ、こいつはこうやって集めてるんだろうし……


「で、クランに誘うにあたってお前のステフリを教えて貰おうか?」


 誘う誘わないも入る入らないの選択権は俺にあるんじゃないのか? まあ質問に答えるだけならいいか……


「DEX極だよ」


 と、俺の言葉を聞いたモヒカン野郎は急に大声で笑いだした。


「あはは! DEX極だって! 馬鹿じゃねぇか? ドシロウトが! さっさとアカウント作り直してこいよ!」


 ドシロウトだと? ふざけんなよ? 昔とはいえ俺が『Lunatic brave online 』をどれだけやり込んだと思ってんだ……こいつ……


「何、言ってんだよ……」


 俺はふつふつと怒りが込み上げてきた。つーか分かったわ。こいつは行く先々でクランから追い出されて来たんだろうな。初っ端からムカつくやつだし、行く先々で問題起こしてきたんだろうよ……

 と、俺が思ったが、そんなことなどお構い無しとモヒカン野郎は偉そうに講釈を垂れる。


「何言ってんだも何も先輩の忠告だぜ? 聞いとけよなぁ……ったくこれだからシロウトは……」


「……ぜってー作り直さねーよ……」


 さすがに我慢の限界だった俺は、モヒカン野郎にはっきりと拒否の意思をみせた。


「は?」


「いきなりそんな喧嘩売られて言う通りになんかする訳ねーだろーよ!」


 どっちにしろこんなやつのクランになんか入るわけがない。怒る俺に掴みかかろうとモヒカン野郎が動いた時に、間に割って入る人影があった。


「おいおい、喧嘩かよ? このゲームじゃまだPvPはや導入されてない。ましてやセフトの中だぞ? すぐに運営がBANするぞ?」


「ゲ! アンバーじゃねぇか!」


 モヒカン野郎はその人物に一瞬驚いてから俺に向かって声を投げすててきた。


「せっかく忠告してやったのに! 他のヤツを誘うから後悔すんなよ!」


 モヒカン野郎はそう捨て台詞を残して次の勧誘に向かっていった。

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