第39話
「ふふふっ、あはははははっ、」
マリンソフィアはお店に着いてからも1人ずっと笑い転げていた。ころころという愛らしい声は、誰もが魅了されてしまうが、マリンソフィアはそんなこともお構いなしに馬車を降りる際も笑い転げていた。お祭り騒ぎに乗じて初めて、裕福層専門店にきた人たちは、マリンソフィアのあまりの美しさに見入ってしまう。
「ソフィー………、君は何をそんなに笑い転げているんだい?」
困ったように甘い微笑みを浮かべた漆黒の髪に真っ赤なルビーの瞳、そして透き通る声の美丈夫に、老若問わず、女性が皆振り向くが、その彼が赤く頬を染めて視線を向ける女性を見て、皆諦めた。美しくきっちりと編み上げられた絹のような白髪に、知性を感じさせる深い海色のサファイアの瞳、そして豪華すぎる真っ赤なマーメイドラインのドレスに負けぬ美しい顔立ち。皆、一様にお似合いすぎるカップルを見て諦めたのだ。その実は、ただの幼馴染で一応婚約者だという微妙な関係だとは気付かずに。
「ふふふっ、見てからのお楽しみ。あぁー、早くパレードが始まらないかしら?」
「………不穏な気配しかないんだが………………」
「気にしなーい、気にしなーい!!」
マリンソフィアはこしょこしょとアルフレッドに話し、そして2人で『
「オペラグラスもちゃーんと用意しているわ。アル!一緒に楽しみましょう!!」
マリンソフィアは言うや否や、王家御用達のレンズ専門店で作られたらしい紋章の入っている、豪奢な作りのオペラグラスを2本取り出した。
「うちの従業員にはみーんな持たせたわ!!みんなで王太子殿下の失態を楽しむの!!」
マリンソフィアは弾んだ声で、うっとりとオペラグラスを撫でた。
「………王太子が不憫でならないよ」
「もう!そんなこと言わないの!!今日も透明な布を身に纏っただけなのに、みーんな見えないとは言えないからって理由で、『美しい礼服ですね!!』ってみーんな王太子とわたくしが縫った礼服を褒めちぎっていたんだから!!」
そう、今日は皆礼服をこれでもかと言うほどに褒めちぎっていた。
権力に溺れるものの褒め方はすごかったし、いつもは王太子を諌める臣下たちも、今日ばかりは仕事を失わないために、『………よくお似合いかと存じます』と言っていた。馬鹿者だと思われて、仕事を辞めさせられてしまえば元も子もないと考えたのだろう。やっぱり、王侯貴族には権力に溺れたバカしかいない。自衛としてやっているのは分かっているが、やっぱりここで命を賭して進言するのが真の家臣というものではないだろうか。
「………町でも噂になってたよ。ソフィーが流したんだろう?今回王太子殿下は「ばか者には見えない布地」で作ったお洋服を身に纏うっていうやつ」
「そうよー。だって、初めの方で明かされちゃったらつまらないじゃない。わたくしの愛読書同様、純粋無垢な子供の叫びによって露見しなくっちゃ」
「………………」
アルフレッドは楽しそうなマリンソフィアを見て、密かに溜め息をこぼした。
『わああああぁぁぁぁぁ!!』
「あら、始まったみたいね」
「………地獄の始まりだな」
街を一望できる窓から、マリンソフィアとアルフレッドは並んでパレードを見下ろした。今日は
「今日はごみじゃなくて虫に見えるわ。やっぱり、人って集まればちょっとは使えるものに見えるのね………」
「………………」
しみじみとつぶやいたマリンソフィアに、アルフレッドはもうツッコミを諦めた。マリンソフィアには何を言っても無駄だということを悟ったのだ。
「あ!来たわよ!!アル!!」
「っ、!? ーーー………………」
「見た見た!?」
「………ーーーひよこ、ぱんつ………?」
呆然としたアルフレッドの声に、マリンソフィアは一瞬キョトンとした後に、またもや爆笑し始めた。
「ぶふっ、あははははははっははあははは!!アルもそう言う反応なのね。やっぱり、ひよこちゃんぱんつって男性の目からしてもおかしいのかしら?」
「………あぁ、一瞬目を疑うくらいにはな」
オペラグラスを目から離したアルフレッドは、憐憫の眼差しで王太子のことを見た。そしてこうつぶやいた。
「自業自得だ、馬鹿太子。自分がやったことには自分で責任を取るんだな」
同じ
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